「何をしでかすか分からない」“狂気”の魅力
芸人の魅力の一つに「何をしでかすか分からない」というものがあります。ビートたけしさんや、ダウンタウンさんに代表されるこの“狂気”の魅力は、特に男のファンに刺さります。もっと言うと芸人に刺さります。「こんな芸人になりたいなぁ」と芸人が芸人に憧れるこの魅力。これを持っているのが劇団ひとりさんです。
数年前。僕はとあるスーツ屋さんに裸で並んでいました。というのも、このお店のオープン記念企画で「裸でご来店のお客様先着100名にスーツを無料プレゼント」という企画があったから。もちろんテレビの企画でもなんでもないです。今から考えたらとんでもない企画ですが、僕はスーツ欲しさに真冬の早朝から裸で並んだのでした。
そして、数時間並んで、スーツ無料引換券をゲット。その券で後日スーツと引き換えてくれるとのこと。意気揚々とゲットした引換券を持って、当時レギュラーをやらせて貰っていた劇団ひとりさんのラジオの仕事へ向かいました。当然この話を本番でしました。
すると、ひとりさんは「すげぇ企画だな。ゲットした引換券見せてよ」と。僕は自慢げに引換券を見せました。すると、ひとりさんは「これかぁ」と言って引換券を手に取ると、次の瞬間、引換券を口に入れて食べ始めたのです。「ちょっと! 何してんすか!」慌てて口から出そうとしますが、ひとりさんは本当に引換券を食べてしまったのです。
ここです! “狂気”ポイントです!
本当に食べなくてもいいんです。口に入れてモグモグ、「ちょっと! 何してんすか!」で、「なーんちゃって」で出せばいい。しかし、ひとりさんは引換券を本当に食べたんです。本当に食べることによって引いた人もいるでしょう。と、同時に「何をしでかすか分からない」という“狂気”の魅力に引き付けられた人もいる。まさにひとりさんにとっての“引換券”だったのです。
【教訓】
勘違いしてはいけないのが、なんでもかんでも“狂気”でいけばいいというものではありません。
『ゴッドタン』を観ているファンから「ゴールデンタイムの劇団ひとりは大人しい」という意見をたまに聞きます。しかし、ゴッドタンだけでオリンピックに出れる訳ないんです。“狂気”と“大人”の絶妙なバランスこそがビッグビジネスに繋がるのでしょう。
「劇団ひとり単独ライブ」の衝撃
劇団ひとりを語る上で欠かせないのは“ネタ”です。そのネタは他の芸人のネタとは明らかに違う異質な物でした。気合いを入れて「見るぞ!」とならないと面白くないという厄介な物でもあります。
ひとりさんのネタを初めて観たのは18年前。太田プロのお笑いライブでした。僕は新人コーナーの出番を終えて、袖で先輩達のネタを観ていました。その大トリで登場したのが、テレビに出始めて売れかけていた27歳のひとりさん。舞台が暗転から明転となり、ひとりさんが現れると客席から「キャ~!」と黄色い歓声が上がっていました。それを僕は「イケメンでもないのに、ちょっとテレビ出りゃワーキャー言われるんだな」と冷めた目で観ていました。ネタも「最初のボケまで長ぇーな」と、途中で観るをやめてしまう始末。これは僕が尖っていた訳ではなく、限りなく素人に近い人間の素直な感想でした。
ひとりさんのネタをちゃんと観たのは、僕が当時組んでいたコンビを解散し、ピン芸人になってから。ピンネタの参考にと、事務所にあった過去のライブビデオでピン芸人のネタ中心に観ていました。そこで初めてひとりさんのネタをちゃんと観たのです。
その面白さに度肝を抜かれました。特に単独ライブの面白さは衝撃的で、新人コーナー終わりの舞台袖で途中でネタを観るのをやめた自分を殺してやろうと思うほど。それからひとりさんのネタを貪り観ました。これほど芸人にハマったのは、ダウンタウンさん以来でした。
そんな単独ライブも2011年以来開催されていません。ある時ひとりさんに「もう単独ライブはやらないんですか?」と訊いたことがありました。するとひとりさんは「やってんじゃん。映画がそれだよ」と。自分の創った物を発表する“究極の舞台”が今は「映画」なんだということでした。
【必見】
劇団ひとり脚本・監督、Netflix映画『浅草キッド』は12月9日(木)よりNetflixにて全世界独占配信。ビートたけしさんの原点。若かりし日を描いた、師匠と弟子(たけし)の感動の映画です。
映画という名の「劇団ひとり単独ライブ」を観よう!
わたくし神宮寺しし丸もちょこっと出させて頂いております。役どころは「ストリップ小屋のトイレで抜こうとする男」です。こんな素敵な青春映画になぜこのシーンが!? 僕にとっても‟究極の舞台”となりました。是非!
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