岩井秀人「ひきこもり入門」【第3回後編】両親は「父親」と「母親」を演じるのがへたくそだった


家族を描いた芝居『て』についての本人たちの感想

僕は、そんな家族たちを題材にした『て』という演劇を作った。本人たちも観に来たので、せっかくだから感想を紹介したい。

『て』の物語の中では、ざっくり言うと兄は前半悪者・後半いい人、みたいな構造になっている。観終わって客席から出て来た兄に、俳優たちが「ご本人登場だ〜!」みたいな感じで話しかけに行く。俳優たちが「お兄さんありがとうございました。実際どうだったんですか?」みたいに聞くと、なーんだかいい気分になったのか「秀人もなかなか、よく見てると思うよ」的なことを言っていて、イラッとした。

母と姉からは「精神科と心理学科をごっちゃに書いててそれを直したほうがいい」と「癒着って言葉の使い方がちょっと違うから直したほうがいい」とそれぞれ修正が1点ずつ。妹は「お客さんがこれを観て、おもしろいとかおもしろくないとか言うのがわからない。なんだかわからない、だってそのまんまだから」と言っていた。

岩井秀人 作・演出『て』(2018年8月~9月)撮影=引地信彦

僕としては「岩井家の核」となるようなものを書いたつもりだったので、本人たちは「ありがとう!」と泣いたりするくらいに思っていたのだが、本人たちの感想を聞いた瞬間は、肩がカクンッて落ちた。しかし、それはそれでまあ、いいなとも思った。

父を題材にした演劇を作ったときに、本人がいきなり観に来て「まったくわからなかった」と言ったのにも、やはり肩をこれ以上なく落としたが、今となれば、それでいいのだと思える。僕の作劇は、当事者のためだけにやっているわけではない。僕の家族の話を聞いて、お客さんの人生とか家族とかにダイレクトに波紋が起きることのほうが、僕にとってはよっぽど意味がある。

家庭で複雑な、ある種ドラマチックな瞬間が訪れるたびに、「これお客さんが囲んでたらおもしろいのにな」と思って、頭の中で録音を始めるみたいな性質が僕にはあった。それは逃げていた、ということかもしれないけれど。

現在の岩井家――「父親」と「母親」を演じることをやめた

この記事の画像(全4枚)


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

関連記事

岩井秀人『いきなり本読み!』が炙り出した“演劇”の本質。生身の観客は必要なのか?

根本宗子インタビュー

根本宗子が2週間で作った“リモート芝居”への思い「演劇が忘れられないように」

加害者に許可を取り、いじめ被害を“ほぼ実名”で演劇化──「ゆうめい」池田亮

ケビンス×そいつどいつ

ケビンス×そいつどいつが考える「チョキピース」の最適ツッコミ? 東京はお笑いの全部の要素が混ざる

「VTuberのママになりたい」現代美術家兼イラストレーターとして廣瀬祥子が目指すアートの外に開かれた表現

「VTuberのママになりたい」現代美術家兼イラストレーターの廣瀬祥子が目指すアートの外に開かれた表現

パンプキンポテトフライが初の冠ロケ番組で警察からの逃避行!?谷「AVみたいな設定やん」【『容疑者☆パンプキンポテトフライ』収録密着レポート】

フースーヤ×天才ピアニスト【よしもと漫才劇場10周年企画】

フースーヤ×天才ピアニスト、それぞれのライブの作り方「もうお笑いはええ」「権力誇示」【よしもと漫才劇場10周年企画】

『FNS歌謡祭』で示した“ライブアイドル”としての証明。実力の限界へ挑み続けた先にある、Devil ANTHEM.の現在地

『Quick Japan』vol.180

粗品が「今おもろいことのすべて」を語る『Quick Japan』vol.180表紙ビジュアル解禁!50Pの徹底特集

『Quick Japan』vol.181(2025年12月10日発売)表紙/撮影=ティム・ギャロ

STARGLOW、65ページ総力特集!バックカバー特集はフースーヤ×天才ピアニスト&SPカバーはニジガク【Quick Japan vol.181コンテンツ紹介】