遅く起きた日曜日に、友達とゆっくり話す(スズキナオ)

2020.5.3

スズキナオ「遅く起きた日曜日に」第3回

文=スズキナオ 編集=森山裕之


初の著書『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』が現在5刷のロングセラーとなり、 SNSやテレビなどでも話題の「チェアリング」の開祖としても知られるスズキナオさん。

「なんでもない日々を少しぐらいは楽しいものにする」アイデアを提案する、誰にもできる遅く起きた日曜日の楽しみ方。オンライン飲み会を何度か重ね、人と向き合って飲み会をするのとはまったく違う行為であることに気づく。そしてこれまで、友達とそんなに面と向かってゆっくり話したことがなかったのではないかと思った。

こんなときだからこそ友達の生い立ちから今までしっかり聞いてみたいと思った

ほとんどの時間を家で過ごすようになり、食料の買い出しと少しの散歩以外、外に出ることもなくなった。そうなると寂しいのでWEB会議サービスの「Zoom」などを使ってたまにオンライン飲み会をしたりする。

モニタの中で友達の表情が動き、声が聞こえるだけで気持ちが落ち着き、深刻な話も笑いを交えながらできたりするからいい。心のバランスを取る上でも意味のあることだと思う。ただ、「オンライン飲み会」と言ってはいるけど、当然今までのように、居酒屋で向き合って酒を飲みつつ話しているのとは全然違う。

オンライン飲み会をしてみると、よけいな要素が全然ないことに気づく。壁のメニューを見ながら「へー! “カレーのルーだけ”ってのもあるんだな」とか話すこともないし、もちろんそれを注文して一緒に味わうこともできない。近くのテーブルから大きな声で下世話な話が聞こえてくることも、店のテレビからプロ野球中継の音声が流れてくることもない。外的な要素がなく、シンプルに会話しつづけるのがオンライン飲み会なんだな、と、何度か繰り返して思った。

そうなってみると、いかに自分はこれまでのリアル飲み会で同席した相手と大した話をしてこなかったか、ということにも気がつく。注文したメニューについて「うまい、すげーうまい」などと言いながら、次の飲み物をどうするか悩んで店員さんに声をかけるタイミングを伺い、「いやー、いい店だね」ぐらいのことを言い合って、しばらく沈黙がつづいたのち、もうさっそく「次もう一軒行ってみようか」と言い出したりして……。なんだかいつもせわしなかった。

そのせわしなさが好きだったけど、そこに戻れない今だ。こうなったら、どこまでもたっぷり会話そのものを楽しんだらいいんじゃないか、と思えてきた。友達とゆっくり話す。これまで、居酒屋に何人かで行って飲んだり、ライブハウスで時間を過ごしたりしてきたけど、実際、面と向かってゆっくり話したことがあるかというとそうでもない。考えてみるとそんな友達ばかりである。

私はバンドを組んで、たまにライブをしたりしていたのだが、そのバンドメンバーのひとりに「トミータくん」がいる。トミタという名字だからニックネームがトミータ。もう10年以上のつき合いになるのだが、よく考えたらトミータとじっくり面と向かって話した時間って、そんなにないような気がする。ギュッと圧縮したら20分間ぐらいかもしれない。こんなときだからこそ、オンライン通話で、トミータの生い立ちから今までについてしっかり聞いてみたいと思ったのだ。

親父はピンク・フロイドが好きで、お母さんは平野レミみたいにテンションが高い

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スズキナオ

大阪在住のフリーライター。「デイリーポータルZ」「メシ通」等のWEBメディアで記事を書いている。酒とラーメンが好き。パリッコとの飲酒ユニット「酒の穴」としても活動中。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)など。

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