『キングオブコント2025』勝敗を分けた“会場のウケ”。予選と決勝で異なる「おもしろさ」の基準とは?

年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く、21歳・タレントの奥森皐月。今回は、10月11日に決勝戦が放送された『キングオブコント2025』について、感想を交えながら徹底分析する。
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10組中5組が決勝初進出、6組が“非吉本”
コント日本一を決める大会『キングオブコント2025』が10月11日に放送された。
過去最多エントリー数となった3449組から18代目キングを勝ち取ったのは、2年連続4度目の決勝となったロングコートダディ。
トップバッターで高得点を叩き出したかと思えば、結果的にそれが1stステージの最高点で、勢いそのままに優勝するという圧巻の勝利だった。

今大会のファイナリストは、半数の5組が決勝初進出。もう一方の5組は3〜5回決勝に進出している常連と、経験に隔たりのある顔ぶれだった。
また今回はこれまでに比べ、いわゆる「地下芸人」とくくられるようなコンビが複数組ファイナリストにいたのも印象的だ。
2020年や2021年の『キングオブコント』のファイナリストは10組中9組が吉本興業所属だったのに対し、今年のファイナリストで吉本所属は4組。6組が“非吉本”といわれる吉本以外のさまざまな劇場で活動する芸人さんという、近年では珍しい構成の大会となった。
予選と決勝の「おもしろさ」の不一致
今回の『キングオブコント』を観て、「会場のウケ」というものの重要性を再認識した。
審査員のシソンヌじろうさんが、しずるのネタ後のコメントで放った「ウケてなかったんですよ!」のコメントが印象的だが、会場のウケと点数はある程度比例するものだと思う。そしてこれは予選でも同じことがいえる。
お笑いが好きという人の中にもさまざまなタイプがいるだろう。テレビでコンテストを観るのが好きな人、吉本の劇場に通う人、地下お笑いライブを観る人、賞レースの予選に足を運ぶ人。
これらの要素をすべて持つ人もいれば、いくつか該当する、ひとつだけ当てはまる、などの人もいる。お笑いファンとひと口にいえど、細かく見れば無数に分けられると思っている。
賞レースの予選に行く人は、やはりかなりマニアックなお笑い好きが多い。今年の『キングオブコント』準決勝では35組がコントを披露し、1公演のチケット代は8000円だった。
当然ナマで観る醍醐味はある。しかし、テレビで決勝が無料で観られることが確定しているなか、劇場に普段のお笑いライブの何倍もの値段を払って長時間座って予選を観るというのは、本当にお笑いや賞レースが好きでないとできない。
そして、それだけお笑いを愛する人たちが35組ものコントを観ていると、やはり瞬間的な爆発力のあるネタのほうが盛り上がる傾向にあると思う。
あらゆるお笑いのかたちに慣れているお客さんだからこそ、バイオレンスな表現や、世間的に「地下」といわれるような表現にも寛容だ。
その予選会場での爆発の勢いで決勝に上がった組のネタは実際おもしろいのだが、決勝の空気や審査員の好みとはズレが生じてしまうことが起こっている。
これは『キングオブコント』だけではなく、ほかのお笑い賞レースでも話題になっているテーマだ。会場や審査員における、予選と決勝の「おもしろさ」の不一致がもう少し正されると、大会を観て違和感を抱く人が減るだろう。
テレビ番組発のネタを披露した、しずるとトム・ブラウン
さて、今年の『キングオブコント』決勝を観て驚いたことがある。それは「テレビ番組発」のネタが2本もあったことだ。
まずは、しずるが披露したB’zの「LOVE PHANTOM」に合わせて進むコント。これは今年2月に放送された『千鳥のクセスゴ!』で初披露し、SNSでもバズったネタだ。
純さんが自身のYouTbeでも話しているのだが、このネタは番組の企画によって池田(一真)さんが急遽作ったものだそう。つまり、番組がなかったら生まれなかったネタといえる。
9年ぶり4度目の『キングオブコント』決勝の1本目にこのネタを持ってきたのは、なかなか衝撃的だった。点数こそあまり伸び切らなかったが、決勝を機にまたSNS上で話題になっている。
芸歴22年というベテランながら突然改名したり、ネタ中に池田さんのXが投稿されたり、「LOVE PHANTOM」のネタで決勝に出たりと、攻めた姿がカッコいい。
決勝の日が「LOVE PHANTOM」発売からちょうど30年目の日だったというのも、あとから知って大笑いした。今年優勝の噂もあったので、来年以降どうなるか楽しみだ。
そしてトム・ブラウンの『エリザベスカラー』のネタは、8月に日本テレビで放送された千原ジュニアさんMCの特番『コントラスト』内で生まれたコントだ。
この番組はジュニアさんが考えたコントの題材の導入部分だけ台本が渡され、そこから4組の芸人さんがそれぞれコントを作るという内容。
『エリザベスカラー』のネタは、トム・ブラウンのほかに、ニッポンの社長、セルライトスパ、エルフも作っており、それぞれ新ネタとして披露されていた。
今回の『キングオブコント』で披露された“おできのひでき”のネタは、この番組が発端。スタジオでは「このまま『キングオブコント』に行ける」というコメントもあったが、まさか本当にそこから決勝へ進出するとは思わなかった。
10組中2組がテレビ番組をきっかけに作られたネタだったというのは、なかなか興味深い。しかし非常に残念なことに『千鳥のクセスゴ!』は3月で放送が終了し、『コントラスト』もまだレギュラーの番組ではない。
昨今ネタ番組は減る一方だが、テレビから名作コントが生まれていることを考えると、もったいなく感じる。深夜でも、放送時間が短くても、お笑いの番組は放送されてほしい。
奥森皐月が注目していた、元祖いちごちゃんとベルナルド
今大会で私が注目していたのは、元祖いちごちゃんとベルナルドの2組だ。
先ほどのお笑い好きの分布でいうと、私は地下ライブに通うタイプだったため、10代のころからこの2組(4人)が好きで、劇場で観ていた。
元祖いちごちゃんは、出演するライブを学校帰りに観に行っていたこともあるので、決勝進出は勝手ながら喜ばしかった。
『スーパー』のネタの時間は、地上波とは思えない空気が流れていて最高だ。色味のある煌(きら)びやかなセットや背景でネタを披露しているのを見たことがなかったので、決勝の姿は逆に新鮮味を感じる。
ネタ披露後の浜田(雅功)さんとの絡みや、放送後の反省会配信では、ハイパーペロちゃんさんが大活躍。ネタだけでなく、本人のおもしろさを短時間で見せてくれて心が躍った。今後ネタはもちろん、バラエティで見られることを切に願っている。
ベルナルドは結成わずか9カ月だが、結成前のそれぞれの元のコンビや活動を見ていたので、ただただ感動。
特に大将さんのほうは、元コンビの「スーパーニュウニュウ」のラストライブをちょうど1年前の10月10日に観に行っていたので、まさか1年後に『キングオブコント』決勝の舞台でテレビ越しに観るとは夢にも思わなかった。芸歴を重ねているとはいえ、正式に結成してから1年も経たず決勝に進出するのは本当にすごい。
『カメラマン』のネタは、特殊な小道具や大将さんのデカいツッコミなど、ふたりの魅力が詰まっていた。オチで死ぬというお決まりの展開も炸裂して、実に痛快だった。出番順や会場と審査員の空気感もあり、点数はあまりよくなかったものの、インパクトは強い。
来年以降も決勝に進出する可能性がじゅうぶんにあるので、ここからの1年は積極的にライブでも観たいと思わされた。
兎の女装が解禁!ロングコートダディがチャンピオンに
審査員ごとの傾向の差により点数にバラつきが出ていたなか、ロングコートダディはどの審査員からも高得点を獲得していた。
昨年の『キングオブコント2024』では、トップバッターにして『花屋』のネタで475点という高得点を取り、今年もトップバッターで474点を獲得。4度目の決勝ということもあり、『モグドン』のネタは大会の1本目とは思えない盛り上がりを見せた。

『花屋』『モグドン』ともに、兎さんが絶妙にイラっとしてしまう、鼻につくようなキャラクターのコントで、テイストこそ違えどロングコートダディらしさを感じる。
昨年大会のファイナルでは、岩壁がしゃべるファンタジーテイストの『岩壁に封印されしウィザード』のネタで、惜しくもラブレターズに1点差で負けてしまったが、今回はファイナルで2位・3位と点差をつけて勝利した。

2本目の『警察泣いてる』のネタは、兎さんが女性の役をしていて「珍しい」と思った。すると、放送後の反省会配信で「女装はずっとNGにしていた」と話していて驚いた。
長年兎さんはコントで女性役をすることを拒んでいたものの、堂前(透)さんは「絶対にできる」と確信してこのネタを進めたそうだ。
パンツスタイルでショートカットのカツラなのに女性らしさがあり、なんならかわいく見えるときもあったので、NGが解禁になってよかったと思った。

実は堂前さんは、優勝してもしなくても、今年で『キングオブコント』への出場は最後にしようと決めていたらしい。
賞レースに出場し続ける苦労は大きかったようだが、チャンピオンになった今年から、どのような進化をしていくのかはとても楽しみである。
ここからの1年で、来年の『キングオブコント』が変わる
芸歴制限がないため、芸歴を重ねた芸人さんが悲願の優勝を収められるのが『キングオブコント』の特徴。
一方で若手の芸人さんが決勝に進みづらいという難点もあるが、今年は初進出の組も多く、普通のお笑いライブでは見られないようなかけ離れたコントが集結していておもしろかった。
来年以降また常連組が勝ち上がって優勝争いをするのか、はたまた超新星が現れるのか。それは、ここから1年のテレビとライブによって変化していく未来だと思う。
変わり続けるお笑いを、それぞれが好きな距離感で観ていく世界であってほしい。