“女性監督”大時代をどう思ってた? 枝 優花が男性9割の映像現場で心がけていること「性別ではなく、仲間として」【夕方5時の会議室 #4】

編集=高橋千里


少女写真家・飯田エリカと、QJ編集部・高橋の音声番組『夕方5時の会議室』がスタート。メディア業界で働く同世代ふたりが、日常で感じているモヤモヤを、ゆる〜くカジュアルにお話しします。

前回に引き続き、第4回もドラマ・映画監督の枝 優花さんがゲストで登場。男性が大半を占める映像制作の現場で、一時期ムーブメントとなった“女性監督”という肩書に思っていたことなどを聞きました。

※音声収録は2025年2月26日に行いました

この記事では、音声の前半部分だけをテキストで公開。後半はYouTubeまたはPodcastよりお聴きください。

現場は9割男性。だけど、性別を意識したことはない

飯田 少女写真家の飯田エリカです。

高橋 『クイック・ジャパン』編集部の高橋です。今回は枝 優花さんにゲストとして来ていただいて、ドラマ『コールミー・バイ・ノーネーム』(MBS)についての話をたっぷりと聞かせていただきました!

 ありがとうございます!

高橋 私たち3人ともメディアコンテンツを作る身として業界は近いかなと思うんですけど、その中で「女性として」みたいなことを求められてきた時期もそれぞれあるかなと思っていて、そういう部分から今に至るまでの話もお聞きしたいです。

飯田 映像業界ってまた出版業界とは、近いけどちょっと違いそうですね。

 逆に私は出版業界のことわかってないから、映像業界のことだけお話しすると、基本現場は9割男性かな。現場に入るまでの準備期間も、ロケハンとかで車に10人ぐらい乗っていると、私以外全員男性ってことが多くて、一年を通して99%それですね。

たまに広告とかの案件は女性がけっこういらっしゃったりしますけど、基本的にドラマ・映画に関しては男性が多い。だけど、それももはや当たり前すぎて、彼らを男性だとも思っていない。映像業界以外の友達とか知り合いにこの話をすると「え?」って驚かれるんですけど、私はそもそも彼らを男と認識していなくて、“仲間”って思ってますね。

飯田 そうですよね。

 「小学生のころの同じグループ」みたいな感覚なんです。50代とかいようが関係ないです。向こうも私に対して、体力的なことは考慮してくださってますけど、だからといって「女だからこう」ってことではなく、監督として向き合ってくださってます。それが自分の中で当たり前なので、いちいち緊張したり、男性として意識することのほうが失礼だと思っているので、ちゃんと個人として見てますね。

最近はそこに対して何か思うことはないですけど、業界入りたてのときはカルチャーショックを受けましたね。こんなに男性しかいない環境の中で女の子がひとりいることで、若いからこそ特に「女の子」って扱いを受けやすかったりとか。私がちょうど飯田さんと出会った時期が、若手の女性監督が一気に出てきたときだったので、そういうちょっとムーブメントみたいな雰囲気もあって。

飯田 「女性監督時代!」みたいな感じになりましたよね。

 どのメディアに出ても「新進気鋭の若手女性監督」っていう枕言葉がつくし、自分もそれを見すぎてゲシュタルト崩壊するというか。(インタビュー現場での)「女性監督と呼ばれることについてどう思われますか?」という質問も含めゲシュタルト崩壊して、「えっと……特に何も思ってないです……」みたいな。

でも「あの監督は“女性”と言われることに怒っている」という噂を聞いたりしたときは、私自身はあまり怒るという感情がないから、自分がおかしいんだろうか?とか悩んじゃったりもしたんですよ。私はそこまで性について何も考えていない、無感情だったなぁとか思って、あまりにも関心がなさすぎて、映画監督としていかがなものかって……こじらせにこじらせて(笑)。

高橋 そういう「女性監督」的なムーブメントって、なんで出てきたんですかね?

 最初はたぶん山戸(結希)さんから始まって、第2フェーズがたぶん私と首藤(凛)さん、酒井(麻衣)さんとか。

飯田 やっぱり『21世紀の女の子』が大きいですよね。

 そのへんの世代が一気にたまたま出てきたりとか、映画だけじゃなくてたぶん世間のフェミニズムブームみたいなものも台頭してきた時期だったのかな? そういう時代の流れだったので、コロナ禍前というのもあって、コロナ禍後だったらまた変わってたと思うんですよ。

飯田 ちょうど(コロナ禍の)ギリギリ前ですね。『21世紀の女の子たち』が2018〜19ぐらいだったので。

 やっぱりコロナ禍後って、みんなで連帯することよりも、“個人”の時代になってきたと思うんですよね。同じ場所にいなくてもつながれる、じゃないけど。コロナ禍の手前だったのもすごく関係してるかなと思って。だから、時代は変わったなと思ってます。

飯田 今思うとあのとき、異常に「女性監督」みたいなワードがすごく出ていましたね。

 本当にすごくて、私はその渦中にいるけれども、意外と渦中にいる人間は人間であまりよくわかってないというか。そう思われてるんだ、ぐらいで。「女性監督同士でケンカとかしないの?」みたいなめんどくさい揶揄もありましたけど、何言ってんだと思って(笑)。

飯田 あるわけないですよね!

 それぞれ必死に戦っている人たちに対してリスペクトしかないというか。ひとりで戦うって本当に大変なんだから、本当にがんばっているなって。基本的に監督は一現場にひとりしかいないので、会えるとしたら映画祭とかトークショーで、「あの現場大変だったでしょ?」「この間本当に大変で〜」とか話す程度。本当の意味での孤独を知っている同士との話って意外とできなくて、監督同士の友達って少ないんですよ。

私も仲よくさせていただいている監督って本当に少なくて、なぜか全員おじさん。でも心は私よりも少女。松永大司さんという監督で、見た目はすごく背が大きくて怖そうに見えるんですけど、心は私よりも女性です。いつも「もう嫌になっちゃう〜」って言ってます。

飯田 かわいい。

 あと、『呪怨』の清水(崇)さんは地元が一緒で、なぜか『少女邂逅』の試写会に2回来てくれた(笑)。試写会に2回来る人ってそんなにいないんですけど、「普通に観たくて……」とか、DVD・Blu-rayもなぜか購入してくださって。

飯田 大好きじゃないですか(笑)。

 ホラーの巨匠なんですけどね(笑)。私の交流のある監督はそういう方が多いんですけど、監督間でどうこうって本当にないんですよ。

【続きはこちらから!】枝監督が「本当は撮ってみたい」意外な作品とは?

次回は、飯田さんと高橋のふたりトーク。枝さんゲスト回から垣間見えた映像業界のリアル、20代のころに経験した“恋愛の呪縛”までたっぷりお話しします。

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