“人間の本質”を紐解く。ガールズラブドラマ『コールミー・バイ・ノーネーム』で枝 優花監督が描きたかったこと【夕方5時の会議室 #2】

編集=高橋千里


少女写真家・飯田エリカと、QJ編集部・高橋の音声番組『夕方5時の会議室』がスタート。メディア業界で働く同世代ふたりが、日常で感じているモヤモヤを、ゆる〜くカジュアルにお話しします。

第2回は、ドラマ・映画監督の枝 優花さんがゲストで登場。今までの人間関係と照らし合わせながら「自分ひとりでは解決できないモヤモヤを誰かと語りたくなる作品を目指した」というガールズラブドラマ『コールミー・バイ・ノーネーム』(MBS)の制作秘話からお聞きしました。

※音声収録は2025年2月26日に行いました

この記事では、音声の前半部分だけをテキストで公開。後半はYouTubeまたはPodcastよりお聴きください。

「この作品は、自分の人生においてキーになる気がする」

飯田 少女写真家の飯田エリカです。

高橋 『Quick Japan』編集部の高橋です。この番組『夕方5時の会議室』は、メディア業界で働く同世代のふたりが日々の生活で感じているモヤモヤをフランクにお話しする番組です。今日は、初めてのゲストがいらっしゃってます!

 こんにちは、枝です。

高橋 枝 優花さんです〜!

 よろしくお願いします。何も知らずに来ました(笑)。

枝 優花

高橋 枝さんと飯田さんは古くからお付き合いがあるということで。

 6〜7年前から? だいぶあやふや。

高橋 でも、一緒にお仕事したりは意外とないとか。

 そうなんですよね。最初出会ったときは、いろんな作品の写真を撮っていただいたりとかして、でもそれ以降はわりとプライベートで会って。普通に、人生の話をしています(笑)。お友達です。

飯田 私が、今このタイミングで枝さんを呼んで話したい!という気持ちがあって。高橋さんにゲスト候補を聞かれて「今は枝 優花さんを呼ばずして……!」みたいな(笑)。

 うれしい!

飯田 ちょうど今(音声を)収録してるのが、ドラマ『コールミー・バイ・ノーネーム』(以下:『コルミノ』)最終夜の前日で。

 「最終夜」って言ってるところがすごいのよ、普通にファンなんだよな(笑)。本当にすごくうれしい。これ、プロデューサー喜ぶわ。

飯田 完全に私が『コルミノ』のファンで、その話をしたかったので、本当にありがたいです。なのでこれが配信されてるころは、地上波の放送は終わっちゃってるんですけど、(そのあとも)何かしらドラマの配信はありますもんね。

 FODではずっと配信されてるので、観られます。

飯田 なのでこれをきっかけに、(『コルミノ』を)知らなかった方にもぜひ観てもらえたらいいなって。

高橋 そもそも斜線堂有紀先生の原作小説から実写ドラマ化されたということなんですけど、その経緯は……?

 ここ2年ぐらいずっとご一緒してるプロデューサーがいて、そのプロデューサーに「枝さんのGL(ガールズラブ)を見たい」って言われて。そのプロデューサーがもともとGLを作ったりしていたので、GLか〜と思って。

私そもそも長編映画のデビュー作が、GLではないんですけど女の子同士の話ではあったので、“女性同士で描ける何か”みたいなものをたぶん期待されてるなと思ったし、たしかに最近やってなかったなと思って。

ある種原点であり、真骨頂みたいなところを、この時期にもう一度向き合うのもいいんじゃないかと。「じゃあやってみますか」っていう、どっちかっていうと“GL”が取っかかりで始まったんですよ。

そこからお互いにいろいろな作品を見漁って、これがいいねあれがいいねとか言ってるなかで、私がたまたまこの『コールミー・バイ・ノーネーム』(の原作小説)を見つけてきて、あらすじを読んだ時点でなんかざわざわしたというか。

だいたいいつも仕事を選んだりとか何かを決めるとき直感で決めてるんですけど、なんかそのときは予感がして。「この作品はもしかしたら、自分の今後の人生においてキーになる気がする」って感じて。

まだ自分も読んでないのにプロデューサーに「この作品ちょっと読んでみて」って言って、そのあとに自分も読んだときに、なんで自分がざわざわしたのかが、明確にこれってわけじゃないんですけど(作中に)ちりばめられていて、どれもこれも自分の要素が強いっていうか、ちょっとずつ私がいるみたいな感じがあって、「これ、私できるかも」と思って。

いつもそうなんですけど、直感で選んでからあとあと自分がなぜこの作品に惹かれたかがわかってくる……みたいなのありません?

飯田 勝手に自分で伏線張って回収しますよね、めっちゃわかる!

高橋 わかるんですか? これ、クリエイターあるあるなの?(笑)

 そう、たぶん勘のほうが先に来るの。体が先に動いて。

飯田 あとで理屈が来ますよね。

 そう! こういうことだったんだってわかる、みたいな……脳みそを使ってないんです(笑)。だから私も脚本を作りながら現場をやりながら編集をやりながら……それぞれの段階でどんどん答えが出てくるというか。

同時並行的に自分の人生も進んでいるので、その中での人間関係と照らし合わせたりとか、過去の自分の人間関係と照らし合わせたときに、私が生きづらかったのはこれがあったからなんだっていうのが、その登場人物たちの中の行動原理とかでわかったりとか。

『コルミノ』ってミステリーラブみたいに言われていて、そうではあるけど、私はもっと人間の本質の話だと思っているので。この『コルミノ』を通して、自分自身のこれまでの人生の不可解だったこととか、どうして私はこうしちゃったんだろうとか、どうして人を大事にできなかったんだろう、できないんだろう、どうして大事にされないんだろうって、不可解さのすべてが詰まってると思ったんですね。

そこを、余白を持って作ることで、みんなたぶん少し能動的に作品を観るじゃないですか。自分ひとりでは解決できないモヤモヤを、おそらく誰かと話して共有して、私はこう思ったって意見する・思うことで、自分がわかってくるというか……。

そういうものを目指したかったので、今「最終夜」目前にして、わりとSNSがそういう状態になっていて、私はすごくうれしいです。

【続きはこちらから!】原作から“改変”した設定と、その理由とは?

次回は、枝 優花さんゲスト回の続き。映像監督として大事にしていること、あの名シーンを生み出した演技指導まで、たっぷりお話しいただきます。

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