つぼみ芸人『深夜のハチミツ』で初の挫折…「爪あとを残したい」モシモシいけが100kmサバイバルマラソンにかける想い

文=いけ 編集=高橋千里


“アスリート芸人”は数多くいるが、お笑いトリオ「モシモシ」のいけは、フルマラソンで3時間切りを達成するほどのスーパーランナー。お笑いと同じくらいの情熱をマラソンに注いでいる。

そんないけが、7月20日・21日に放送される『FNS27時間テレビ』(以下:『27時間テレビ』)の通し企画「100kmサバイバルマラソン」に『深夜のハチミツ』(フジテレビ)代表として出場決定!

今回は、自分を成長させてくれた『深夜のハチミツ』への感謝を綴る。

芸人人生で一番キツかった『深夜のハチミツ』最初の1年

僕はコントが大好きです。

自分が書いたネタがうまくハマったとき。人に書いてもらったネタをうまく表現できたとき。どちらの瞬間もたまらなく好きです。

爆笑が起きたときに、客席がうねって見える現象。「ハハハ」じゃなくて、「ドゥン」と聞こえるあの現象。

フリの段階の静寂、笑いが収まるまで次のセリフを待つ、通称「笑い待ち」、ウケるかわからない新ネタの小道具の買い出し、体がぽかぽかするネタ終わり、ウケた箇所を思い返してたまにニヤける帰り道。

あの数分間に、僕の“好き”が詰まっています。
あの数分間に紐づく、準備も余韻も苦労の時間も。
とにかく僕は、コントが、ネタが、大好きです。

用意したものを、体を使って表現し、勝負する。
この環境を求め、僕は芸人になりました。

そして昨年、『深夜のハチミツ』がスタートしました。

オーディションで採用していただき、メンバーになりました。
若手芸人16組が集結し、スタジオで爪あとを残し合う、戦場のような空間です。

以下、始まってから1年間の、僕の心境の歴史です。

(1)挫折
(2)挫折
(3)挫折
(4)ちょっとしんどいわ
(5)でもがんばろう
(6)挫折
(7)あっ、きついかも
(8)挫折
(1)に戻る
以降、永遠に繰り返し

僕がそれまで歩んできた芸歴は、まったく通用しませんでした。

もともと芸歴や年齢にプライドはないけど、ない上で、粉々になりました。
たまに寝る前に思い出して、「あ゛ぁぁぁ!」てなります。

芸人人生で一番キツかった1年。
芸人である自分に、とことん向き合わされた1年。

“バラエティ”を求められ、何もできなかった自分

初めは順調でした。
順調というか、喜びや興奮が大きかったです。

初出演時は、企画でコントをやることができました。
フジテレビ×若手×テレビコント=そんなの最高以外の何物でもない。夢。めちゃくちゃうれしかった。

前日にコント出演者が集合し、スタッフのみなさんと台本読みや衣装合わせ、細かな修正をしていく。
なんかすごく、「テレビ」を味わえて、純粋に楽しかったです。

しかし、『深夜のハチミツ』はコントだけの番組ではありません。
バラエティです。

コント以外の企画で、バラエティを求められた僕は、何も手札がなく、芸人ではない、ただそこにいるだけの人になりました。

無害だけど、無味。
どう調理したらいいかわからない、食べられはするけど味のしない、謎の物体が収穫されました。小さな小さな、カッスカスの実。

これまでの僕の芸人人生を“幹”としたら、コントでしか水やりをしていなかったので、当然の結果です。

僕のこれまでは、芸人=ネタ。ライブでも、ネタ後のトークや企画コーナーはおまけ。ネタでウケればそれでいい、そんなスタンスでした。

「ネタさえがんばればいい」「ネタで評価されたい」「ネタが俺たちの武器だ」
芸人としての器をネタでいっぱいにしていました。

しかしそれは、僕という人間の素をさらけ出したくない、台本のない「平場」が苦手な自分から目を逸らすための鎧。

もともと僕はスピーチやあいさつなど、その場で考え、組み立て、伝える、アドリブ要素が多いものに、すごく苦手意識があります。

だったらネタやこのコラムのように、考えて整理して発信したいし、そのほうが得意だと思っている(けっしてうまいとはいえないけど)。

芸人として、いつかはこの問題に直面するだろうなと思っていました。

『深夜のハチミツ』では、次第にスタジオ企画が多くなっていき……
何もできず……落ち込み……尻込みし……でも何かしなきゃ……空回り……
究極の負のスパイラルに陥りました。

いつか立たされるであろうけど目を逸らしていたバッターボックスに立たされた結果が、こうでした。

「スベっても死なない」パンサー尾形さんに言われた言葉

『ハチミツ』の収録を何度か終えて、何もできていなかった僕含めモシモシは、3人で会議をしました。

出会ってから10年以上の付き合いになるけど、モシモシ史上、一番腹を割って話し合った機会だったと思います。
トリオとして、個人として、成長させないといけない部分をはっきりさせました。

僕はとにかく、根を張ることから始めました。

まずは、普段のライブの姿勢から見直そうと。
ネタではないほかの部分で、ウケる・スベる関係なしに、一回でいいから前に出ようと。恥ずかしい話ですが、そこから始めるしかなかったのです。

それでもひるんで一歩が出ないときがあります。そんなときは、ふたつの言葉を自分に言い聞かせます。

「どうせ死ぬなら、前のめりに死のう」

これはモシモシ会議の際に、メンバーのまぐろが言った言葉です。おそらく坂本龍馬の言葉を引用したものだと思います。ヒヨって背中から倒れるのではなく、立ち向かって前に倒れよう。

「大丈夫、スベっても死なない」

これは僕らが以前、『有吉の壁』(日本テレビ)に出演させていただいた際に、緊張で固まる僕たちを見て、パンサーの尾形(貴弘)さんにかけていただいた言葉です。本人からしたらサラッと何気なく出た言葉かもしれませんが、僕にとっては宝物のような言葉です。

このふたつの言葉をお守りに、
環境やまわりのせいにするのではなく、常に自分に矢印を向けて、とにかく立ち向かう。

細くてもいいから強い根を生やす日々が始まりました。

「100kmサバイバルマラソン」で、番組への恩を返したい

『深夜のハチミツ』は、2年目に突入し、『深夜のハチミツ!! Bee The TOP』にリニューアル。

組数が8組になり、2カ月に1度、下位2組が新メンバーに入れ替わるという、
レギュラーをかけたサバイバルバラエティになりました。

僕らは初めの8組に入ることができなかったので、昇格2組の座を争う、「新レギュラー決定ライブ」に回ることになりました。

これまでの僕だったら、このライブはネタだけしっかりやって、ほかは穏便に終わらそう、そう思っていたかもしれません。

でもこの日の僕は、どう表現したらいいかわからないけど、なんかすごくよかったのです。

ウケたなんておこがましくて言えないけど、少しだけ、うっすらと、輝けた?瞬(またた)けた?気がします。
根を張る日々が、少しだけ報われたかもと思えた瞬間でした。

僕らモシモシは、6月から新レギュラーになりました。

リニューアル後の『深夜のハチミツ』は、組数が8組になったこともあり、
今まで以上に、個人に求められるものが大きくなってきます。

今は正直、番組に貢献できているとはいえません。僕に何ができるのか、僕なりに貢献できることはなんなのか、また考え、根を張る日々の始まりです。

そんななかで、『27時間テレビ』の「100kmサバイバルマラソン」への出場が決まりました。

僕が、いけが、『ハチミツ』メンバーを代表して、あの『27時間テレビ』で走るのです。
こんな未来、想像もしていませんでした。

でも僕が1秒でも長く走り、1秒でも長くテレビに映れば、番組のためになれるかもしれない。
今の僕が番組に貢献できること、それはボケでもなく、ツッコミでもなく、ガヤでもなくロケでもなく、“ラン”なのです。

もちろん僕も芸人として成長しなければいけません。味はどうあれ、立派な実をつけなければいけません。

ただ、まずはいったん、ランで爪あとを残します。
そしていつか、『深夜のハチミツ』がものすごくでかくなったとき、
ターニングポイントが「いけのラン」だと言ってもらえたら、この上ない幸せ。

「100kmサバイバルマラソン」は、
僕が成長するきっかけをくれた、『深夜のハチミツ』への感謝の100kmでもあるのです。

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Written by

いけ

太田プロダクション所属、お笑いトリオ「モシモシ」のボケ担当。1992年11月4日生まれ、群馬県出身。おバカな設定と熱苦しい演技のコントを軸に活動中。『キングオブコント2023』、『M-1グランプリ2023』ともに準々決勝進出。『ツギクル芸人グランプリ2021』決勝進出。『ネタパレ』(フジテレビ)「ニ..

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