気鋭のシンガーソングライターで大のマンガ読みである小林私が、話題の作品や思い入れの深い作品を取り上げて、「私」的なエピソードとともにその魅力を綴る新連載「私的乱読記」。
今回は、2023年9月よりテレビアニメも放送中の『葬送のフリーレン』。最新巻を読んであふれ出た想いとは。
キャラ萌えのカプ厨による『葬送のフリーレン』語り
『葬送のフリーレン』、みんな読んでる? めちゃくちゃおもしろいんだよね。知ってるか、知ってるよな。俺はまだまだTwitterのことをTwitterって呼ぶんだけど、Twitterでもみんなそう言ってるもんね。
でもさ、時代背景がどうの、今までにないストーリーだのハンバーグだの、難しすぎるよね。それらももちろん魅力的なマンガなんだけどさ、このコラムはそういうのを書きたいわけじゃないんだ。
ところで俺はいわゆるカプ厨と呼ばれる人種なんだ。キャラ単体に萌えたくて、二人そろってたらときめきてえの。文脈とか関係性のオタクとか今はいろいろいるけどさ、そこんとこオールドタイプなワケ。書かれてないことばっかり想像して悶えてえワケよ。
みんなはどう? 興味ないか……この記事はキャラ萌えのカプ厨がペチャクチャ言うだけなんだ。
うん。「また」なんだ。済まない。
でも、このスレタイを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい。
そう思って、このスレを立てたんだ。
最新巻ラストページ「花言葉」の衝撃
弁解は済まされたものとする。
ここからは『葬送のフリーレン』単行本12巻までのネタバレを含む上、わりと事実を誇張した感想を述べる。適切な批評をしたいわけではなく、俺は一オタクとして書きたいだけだからだ。
そのことが気がかりな人間はブラウザバック推奨だ。
さて、最新巻まで読み進めていると、勇者ヒンメルがフリーレンへ残した愛情の軌跡を辿るという裏テーマがいよいよ明確になってくる。
魂の眠る地(オレオール)を目指しながら、各地に残る銅像や逸話、鏡蓮華の意匠の指輪、勇者一行の中に息づく思想はまさしく、ヒンメルが贈った、フリーレンが未来でひとりぼっちにならないための愛情だ。
こういうのが、本当にいちいち萌える。指ハートってあるだろ、こういうシーンのたびに俺は毎回心で指ハートを作ってる。場合によっては本当に作るし、一度ページを閉じてから目を閉じてため息をつくこともあれば、でっかい声出して身悶える。
12巻のラストページ、見た? 俺はスマホを投げて一度暴れた。
花言葉自体は全然好きじゃないし、最近は“花言葉全然好きじゃない”の逆張りが順張りになってしまってはいるが、創作の中で意味を持たせる対象としてはやっぱり便利で素敵だ。鏡蓮華(かがみれんげ)という架空の花であることも含めて。
花言葉や星占いは神様のようなもので、それを信じ合う者の中だけで真実足り得る。いわゆる“音楽の力”もその類だ(もっとも私はそのどれもに懐疑的ではあるのだが)。
これについてヒンメルが恋愛感情を持っているわけでなく、そのあとの反応から、ただ気にしていないのではないか?という意見も見かけたが、愛情というのは別に性愛だけの特権ではない。花言葉に気づいた上で渡すという行為そのものに意味がある。
それに考えてもみてほしい、恋愛感情でなかったとて、ヒンメルは愛情を注ぐ相手をフリーレンだけに限ってはいない。
幼少のころからハイターと軽口を叩き合い、アイゼンが恐怖に震える夜に寄り添う。そのふたりもヒンメルの死後、文通をしてヒンメルとフリーレンのことを想う。フリーレンに対して形に残る物を多く選び、我々がそれを追体験しているだけで、ふたりの誕生日にも贈り物をしたはずだ。勇者ヒンメルならそうする。
戦いが終わったあとにこの男の優しさに触れていく物語は、まさに我々がフリーレンの眼差しを借りる体験で、それゆえにもどかしい。ほんっと、やきもきする。
好きに決まってんだろ!好きって言え!好きって言ってたらもっと変わってたかもしんねえだろ!マルシルのお母さんはハーフエルフなのにトールマンと結婚してちゃんと悲しんでちゃんとお別れしてそのあとにノームと再婚してんだ!
すみません、急に『ダンジョン飯』の話して。「うわぁ! いきなり落ち着くな!」
恋愛こじつけ探偵による名推理
恋愛感情の有無の話はよそう、俺は争いたいわけじゃないんだ。
でも、ヒンメルがフリーレンのことを女の子と思っている描写はちゃんとある。腐敗の賢老クヴァールが封印されていた村の少年に対する態度や、言わずと知れた伝説の投げキッスへの反応、ちょっと古いマンガなら鼻血を噴き出す描写になっていそうなひとコマ。
あとこれは俺が助平だから思ったというのを念頭に置きたい話なんですけど、ヒンメルが幼少期に森で迷ったときのフリーレンの服って覚えてます? そう、短めのスカートなんですよ! キュロットっぽくも見えますが、いずれにせよ足がね、見えてるわけです。
ヒンメルが青年になっているからかもしれませんが、不思議なことに当時のフリーレンのほうが逆にお姉さんっぽく見えません? 心細い絶望の最中に助けてくれたお姉さんが使った魔法を生まれて初めてきれいだと思ったんですよ。
俺は恋愛こじつけ探偵・推理の小林くん、ピカンときたぜ。12巻、本当にありがとう。
各ふたり組につき2500字は語りたい
フェルンとシュタルクもいいよね……でも俺、ガキっぽくて優しい鈍感なイケメン好きで、正直シュタルクにゾッコンだからフェルンがジャマで仕方なくはなってるんだけど。
「臆病な俺をここまで引っ張ってきてくれたのはフリーレンだけじゃないんだぜ」
「俺はどこにも行かないよ」
クッソー! 好き! この、わかってないのにときめかせてくれるイケメンに弱えんだ俺。
これに対してフェルン。
「じゃあ おいで」
こんなこと言える!? 思春期じゃなくても言えねーよ。
ロンとハーマイオニーみたいに認め合いながら衝突し合ってほしい、でも逆に心配なのはふたりとも交際という選択肢がまったく頭になさそうなところなんですよ。
こういうのは最初に意識しておかないと後々こじれるというか、『ドラゴンクライシス!』の竜司とローズみたいな気まずさが訪れかねない。いいんですけどね、気まずさの経験って大事だから。
文字数が足らなくなってきたが、ゲナウとメトーデもいいよね、このふたりが仮に結婚するとしたら伴侶と呼びたい。ユーベルとラントならアベック。
こういう妄想を無限にしていたい。
本当は各ふたり組につき2500字は書きたいが、楽園へと導く魔法(アンシレーシエラ)。
囚われよ、果ての無い深き幻影の中へ。
連載「私的乱読記」は2月発売予定の『クイック・ジャパン』vol.170にも掲載。
『クイック・ジャパン』では、マンガ『鍋に弾丸を受けながら』を取り上げます。
(※本連載は『クイック・ジャパン』と『QJWeb』での隔月掲載となります)
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