台湾やインドなど世界各国の映画に触れる秋!2022年10月のオススメ映画
映画ファン必見の10月公開予定作をラインナップ! 映画評論家・映画ライターのバフィー吉川がセレクト&推薦する、注目の映画作品をお届けします。
目次
テレ朝らしい連続ドラマ&サスペンスの風格漂う『七人の秘書 THE MOVIE』
監督:田村直己
脚本:中園ミホ
出演:木村文乃、広瀬アリス、菜々緒、シム・ウンギョン、大島優子、室井滋、江口洋介、玉木宏、濱田岳、吉瀬美智子、笑福亭鶴瓶ほか
10月7日(金)全国東宝系公開
ストーリー
熾烈な戦いの末に政界のドンを辞任に追いやった秘書たちは、今日もラーメン萬で平和な日々を噛み締めていた。そんな彼女たちのもとに新たな依頼が舞い込む。今度のターゲットは信州一帯を支配する「九十九ファミリー」。表の顔は経済を潤してくれる地元の名家だが、その裏の顔は、国家とつながり私腹を肥やすためには手段を厭わない極悪一家だった……。過去最大の悪人を懲らしめるため、雪深き地へ向かった七人。しかし、そこで彼女たちを待ち受けていたのは、史上最高難易度の任務と、決して知られてはいけない秘密だった!
おすすめポイント
社会構造の裏側で渦巻く腐敗、権力、そしてジェンダーギャップにメスを入れたドラマシリーズの社会派なテイストはそのままに、劇場版では、謎解きミステリーやサスペンスの要素も加わり、テレビ朝日の連続テレビドラマ色を強化。『科捜研の女』『ドクターX~外科医・大門未知子~』『相棒』シリーズのように、いつシリーズ化してもおかしくない安定感・安心感がある。
それもそのはず。本作は『特捜9』『刑事ゼロ』などを演出してきた田村直己監督、『ドクターX~外科医・大門未知子~』シリーズの脚本家・中園ミホというテレ朝ドラマのプロたちが手がけているからだ。
土地開発と政治家との癒着や、環境ビジネスの真実など、社会の裏側を切り取りながらも、社会派に完全には向き切っていない。そんな、ちょうどいい温度感が『七人の秘書』シリーズの魅力といえるだろう。ぜひシリーズ化してもらいたい!
アクション映画に見せかけて哲学映画『デュアル』
監督・脚本:ライリー・ステアンズ
出演:カレン・ギラン、アーロン・ポール、ビューラ・コアレ、テオ・ジェームズほか
10月7日(金)全国ロードショー
ストーリー
サラは同棲中の恋人ピーターとマンネリ気味。父は亡くなり、過保護な母は毎日連絡してくる。平凡な毎日を過ごすサラだったが、ある日、突然の悲劇が訪れる。密かに体を蝕んでいた病魔により、余命が残りわずかだというのだ。茫然自失のサラに、医師から「リプレイスメント(継承者)」のカタログが手渡される。それは、間もなく死を迎える者が、遺族を癒やすために自らのクローンを作り出すというプログラム。サラは「リプレイスメント」を決断し、残された時間をクローンへの引き継ぎに充てる。目の前で、ピーターや母と親しくなっていくクローンの姿に寂しさを覚えるなか、サラの病が奇跡的に完治したという報せが入る……。
おすすめポイント
オリジナルとクローンが対決する映画には『アイランド』(2005年)や『ジェミニマン』(2019年)などがあり、本作も対決がベースにある物語ではあるものの、実は、アクション映画ではない。あえて類似作品を挙げるとすれば、マハーシャラ・アリ主演のApple TV+映画『スワン・ソング』(2021年)に少し似ている。余命宣告された主人公が、奇跡的な完治により、自分は死なないとわかってからの人生観の変化は、なかなか観応えがある。
生きられることはうれしいことではあるし、生きたいと願うことに間違いはないのだが、極限の精神状況から、身辺整理に気持ちを切り替えて、また戻されるのも、難しい心境。
葛藤や記憶もコピーされているため、クローンは自分そのものなのに、自分の人生が奪われてしまうような喪失感。設定自体は、おバカではあるものの、なかなか哲学的な物語でもある。
誰かを殺してまで生きる意味がある世界なのか……。
この「誰かを殺して」というのが、本作においては字面どおりの意味と「自分を殺して生きる」という意味とのダブル・ミーニングになっているのも深い。
監督の体験が反映された濃厚な人間ドラマ『アメリカから来た少女』
監督・脚本:ロアン・フォンイー
出演:カリーナ・ラム、カイザー・チュアン、ケイトリン・ファン、オードリー・リンほか
10月8日(土)ユーロスペースほか全国順次公開
ストーリー
2003年冬、母と妹とロサンゼルスで暮らしていた13歳のファンイーは、乳がんになった母の治療のため3人で台湾に戻ってくる。台北の学校に通い始めたファンイーだったが、アメリカでの学校生活との違いから周囲になじめず、クラスメイトからは「アメリカン・ガール」と呼ばれて疎外感を味わう。家では、母が術後の不調を訴え、久々に一緒に暮らすことになった父は出張で家を空けてばかり。ファンイーはやり場のない怒りや不満をブログに書いて気を紛らわせていたところ、ブログを読んだ教師からスピーチコンテストに出ることを勧められる。しかし、コンテストの前日、発熱した妹がSARSの疑いで病院に隔離されてしまう……。
おすすめポイント
第34回東京国際映画祭で上映された『アメリカン・ガール』が『アメリカから来た少女』として公開。監督を務めるロアン・フォンイーによる2017年の短編『おねえちゃん』の設定を少し引き継いでいるようにも感じられるが、それもそのはず。どちらも監督の少女時代が物語に反映されているからだ。
母の病気が発覚して、アメリカから、故郷の台湾に出戻りしてきた家族。母は、闘病のイラ立ちや悲しみ、死への恐怖などが入り混じり、情緒不安定でネガティブ思考。病気になって一番つらいのは、本人であることに間違いないが、いつまでも悲しいドラマのような余韻に浸っているわけにもいかない。SARSの流行により、日々の生活と、自由が拘束される状態で、通常時以上の経済的負担を強いられる状況によって、父もイラ立ちを隠せず、夫婦ゲンカが増えていく。日常は病気を待ってはくれない現実を、大人であっても受け入れるのが難しいというのに、10代の少女に理解を求めるのも無理な話だ。
13歳の視野の広さも限られているなかで、ファンイーが母に対してどう折り合いをつけていくのかが繊細に描かれている。
『バーフバリ』につづく、日本でのインド映画旋風が再び!?『RRR』
監督・脚本:S・S・ラージャマウリ
出演:N・T・ラーマ・ラオ・Jr.、ラーム・チャラン、アジャイ・デーヴガン、アーリヤー・バット、レイ・スティーヴンソン、オリヴィア・モリスほか
10月21日(金)全国公開
ストーリー
1920年、英国植民地時代のインド。英国軍に捕らわれた村の少女を救い出す使命を背負った“野性を秘めた男”ビーム(NTR Jr.)と、英国の警察官で“内なる怒りを燃やす男”ラーマ(ラーム・チャラン)。敵対する立場のふたりは互いの素性を知らぬまま唯一無二の親友となっていくのだが……。
おすすめポイント
日本でも一定の支持を受けるインド映画『バーフバリ』シリーズのS・S・ラージャマウリ監督最新作。インドでは、公開前からすでに盛り上がりを見せている。
1920年代、イギリスの植民地だったインドの独立においてそれぞれ別の場所で活躍していた実在の伝説の英雄ふたりが、もし出会っていたとしたら……という、インドの歴史を大胆にアレンジしてみせたアクション大作。ダイナミックなアクションシーンや、王道の感動シーンなど、とにかく見どころが満載で約3時間の上映時間をまったく感じさせない。作中曲「ナートゥ・ナートゥ」は、中毒性のあるサウンドとダンスが話題となり、世界中でリアクション動画やダンス動画が拡散されるまでになっている。
また、ヒンディー語映画女優であるアーリヤー・バットが、今作でテルグ語映画(テルグ語で製作された映画)デビューを果たしたことにも注目してもらいたい。ちなみに彼女は、先日、予告編が公開されたNetflix映画『ハート・オブ・ストーン』でガル・ガドットと共演。アメリカ映画デビューを果たしている。
それは純愛か、それとも狂気か……『君だけが知らない』
監督・脚本:ソ・ユミン
出演:ソ・イェジ、キム・ガンウ、パク・サンウク、ソンヒョクほか
10月28日(金)よりシネマート新宿ほか全国公開
ストーリー
事故に遭い、記憶を失ってしまったスジン(ソ・イェジ)。夫のジフン(キム・ガンウ)の献身的なサポートで、日常生活を取り戻し始めるも、幻覚で未来が見えるようになっていく。そんなある日、スジンは殺人現場を目撃してしまい、実際に死体が発見された。次第に、彼女の精神は混乱していき、夫のことさえも怪しむようになっていく……。
おすすめポイント
記憶喪失になってしまったスジン、それを支える優しい夫。スジンは夫に支えられながらも、まわりで起きる不可解な現象や、夫の不審な行動が気になり始める。
ドラマ『トゥルー・コーリング』のような、スーパーナチュラル系サスペンスなのかと思いきや、物語は二転三転。ネタバレになってしまうので、詳細は書けないが、前半と後半とでは、ジャンルが大きく変化する構造となっている。観客は、夫も友人も、そしてスジン自身も、誰も信じられなくなっていく。そんな視点が、スジン自身の視点とリンクする没入型とでもいうべき、終始油断できない物語だ。
『他の道がある』(2015年)や『ワーニング その映画を観るな』(2019年)など、不安な表情が抜群に上手いソ・イェジの不安顔が今回も炸裂!
美しい映像で観る、醜い世界『ノベンバー』
脚本・監督:ライナー・サルネ
出演:レア・レスト、ヨルゲン・リイイク、ジェッテ・ローナ・ヘルマーニス、アルヴォ・ククマギ、 ディーター・ラーザーほか
10月29日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
ストーリー
月の雫の霜が降り始める雪待月の11月、「死者の日」を迎えるエストニアの寒村。戻ってきた死者は家族を訪ね、一緒に食事をし、サウナに入る。精霊・人狼・疫病神が徘徊するなか、貧しい村人たちは「クラット」を使役させ、隣人から物を盗みながら、極寒の暗い冬を乗り切るために、思い思いの行動を取る。そうしたなか、農夫の娘リーナは村の青年ハンスに想いを寄せている。ハンスは領主のドイツ人男爵の娘に恋い焦がれるあまり、森の中の十字路で悪魔と契約を結ぶ……。
おすすめポイント
フォトジェニックな美しい映像と、人間の欲望渦巻く醜い映像が並べて映し出される。謎の存在「クラット」とは、いったいなんなのか。何かのメタファーなのか、そもそも意味など存在していないのか……。
謎も多く、とんでもない設定が次々と出てきて、常に観客を困惑させてくるのだが、観ているだけでも価値があるような、圧倒的映像美が妙な説得力を与えていて、「これは何か意味があるのではないか……」と、想像力を掻き立てられる。
新感覚の映像体験だ。
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