波乱の年、“与えられた曲”から“自分たちの気持ち”へ
2017年、こぶしファクトリーは波乱を迎えることとなる。1年の間に藤井梨央、小川麗奈、田口夏実の3人がグループを離脱したのだ。主演舞台『JKニンジャガールズ』の上演とその映画化作品の公開、2度のライブハウスツアーは行ったが、リリースしたシングルは『シャララ!やれるはずさ/エエジャナイカ ニンジャナイカ』の1枚のみ。グループはここで大きな変化を余儀なくされた。
2018年からは、5人体制での活動が本格的にスタート。3月には両A面シングル『これからだ!/明日テンキになあれ』をリリースする。この2曲では、苦境に立たされた者がいかにして前に進んでいくか、ということが歌われている。8人から5人になった当時のこぶしファクトリーの難しい状況をそのまま歌っているのだ。
また、サウンド面でもオマージュ的要素は軽減し、よりキャッチーなロックに近づいていく。“元ネタ”を知らなくても、直感的に盛り上がれるような楽曲へとシフトしたことで、メンバーと楽曲との間にあったギャップは確実に埋められていった。
以降に発表されたシングルでも、こぶしファクトリーの状況とリンクした生々しい歌詞が多い。メンバーたちもおそらく、自分たちの気持ちをうまく乗せて歌えるようになっていったことだろう。“与えられた楽曲を歌う”という初期のこぶしファクトリーから、“自分たちの気持ちを歌う”こぶしファクトリーへと変化していった。それはまさに、こぶしファクトリーの自立なのだ。
唯一無二の個性となったアカペラ
メンバーの離脱という逆境を経験したことで、自立への道を切り開くこととなったこぶしファクトリー。そのなかで出会ったのが、アカペラだった。
こぶしファクトリーが初めて本格的にアカペラに挑戦したのは、6人体制で行った2017年秋のライブハウスツアー。この時は1曲のみの披露だったが、5人になった後もアカペラの鍛錬を重ね、レパートリーを増やしていく。
もともと歌唱力が高いグループだったということもあり、アカペラは見る見るうちに上達。YouTubeで公開した動画も大好評となる。いつしか“こぶしといえばアカペラ”とのイメージが定着し、2019年10月リリースのセカンドアルバム『辛夷第二幕』にはアカペラで6曲が収録(初回生産限定盤B特典ディスク)。ライバルが多い女性アイドルシーンのなかで、アカペラはこぶしファクトリーにとっての大きな武器となったのだ。
アカペラは、スタッフから「やりなさい」と言われてすぐにできるものではない。形にするには相当な練習が必要であり、最後までやり遂げるには強い意志も必要だ。アカペラという課題をクリアしていくなかで、グループはより主体的な方向へ進んでいった。
そしてリーダーの広瀬彩海は「自らの歌」を強く意識するようになり、ハロー!プロジェクトを離れて「ひとりで活躍できるアーティストになりたい」との決意を固める。そんな広瀬の思いを受けて、メンバー5人が話し合いをした結果、それぞれが新たな道へと向かうべく、グループを解散することを選んだ。
広瀬は4月から音楽大学に通い、より深く音楽を学ぶこととなる。野村みな美は芝居の世界に飛び込んでいくという。浜浦彩乃は歌やダンス、女優、モデルなど幅広い活動を目指す。井上玲音はハロー!プロジェクトに残り、アイドルとしての活動を継続。そして、和田桜子は芸能界を引退する。
自らの選択でグループとしての活動を終了し、次なる道へ進んでいくこぶしファクトリー。“与えられた楽曲を歌う”というスタイルだった少女たちは、いつしか完全に自らの強い意志で動くようになっていた。
5年という活動期間で解散してしまうことについて「もったいない」という声が多いのも事実。しかし、10代の若者が成長するには、5年という月日はじゅうぶんすぎる。自らの成長を実感した彼女たちが、さらなる成長を求めて解散を選択することは、むしろ現実的でもある。こぶしファクトリーは、ただ“生々しいまでの少女たちの成長”を見せているだけなのだ。
自分たちの苦境を描いた“生々しい歌詞”によって変化することとなったこぶしファクトリーが、まさに生歌そのものであるアカペラに行き着いたのは、必然だったのかもしれない。そして、そんな5人が成長していく姿を嘘偽りなく見せるのもまた、自然な流れだろう。
ラストシングル『青春の花/スタートライン』は3月4日にリリースされる。この2曲では、こぶしファクトリーのこれまでとこれからが、生々しく歌われている。そして、最後のステージとなるのは、3月30日。そこからまたこぶしファクトリーの5人は、今まで以上に生々しく成長していくのだ。
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