『nerd』からスタートする、Kroi“第2章”「聴いたことがない音楽を創り出したい」
2021年6月にメジャー1stアルバム『LENS』をリリース。R&B、ファンク、ヒップホップ、ロックなどを縦横無尽にミックスアップさせたサウンド、語感の気持ちよさと鋭利なメッセージを兼ね備えた歌詞、そして、自由という概念をリアルに体現したステージによって音楽ファンの支持を拡大しつづけているKroi(クロイ)から、新作EP『nerd』が届けられた。
先行配信された「Juden」、リードトラック「WATAGUMO」などを含む本作からは、音楽性、サウンドメイクを含め、このバンドの創造性がさらに拡がっていることが伝わってくる。バンドの“第2章”の始まりを告げるEP『nerd』を軸にしながら、ライブに対するスタンスや音楽シーンにおける立ち位置などについて、メンバー5人に訊いた。音楽性やライブの雰囲気そのままの、自由奔放なトークセッションを楽しんでほしい。
目次
「自由にやるから、好きなように聴いて」というスタンス
──新作EP『nerd』の話の前に、まずはKroiのライブについて聞かせてください。みなさん、ステージの上でもめちゃくちゃリラックスしているように見えるんですが、“普段の雰囲気のままでやろう”みたいなことを意識しているのでしょうか?
関将典 「こういうライブにしよう」みたいな話はしてないですね。
千葉⼤樹 うん、それはないです。
関 それぞれ「こういうフレーズを弾こう」みたいなことは考えていると思うけど、ライブ全体に関しては「まずは自分たちが楽しむ」というだけなので。
内⽥怜央 あとは空気を読みますね。会場の雰囲気だったり、お客さんの感じを見て、「今日はこの世界に入って、そのままの俺らで遊ぶ」というか。たとえばイベントの場合、前のバンドがガンガン盛り上げてたら「俺も盛り上げるか」とか。
長谷部悠⽣ そのほうが自分たちも楽しいですからね。自然体でライブをやって、いい演奏になることもあるし、ならないこともあるんだけど。
関 ハハハハハ(笑)。リアルだな。
内田 “ガチャ感”はあるよね。
──やってみないとわからない、と。
関 そうですね(笑)。うまくいかなくても、しょげるわけではないし。
──益田さんはどうですか? ライブに関して。
益⽥英知 4人と違って、俺は毎回緊張してますね。
内田・関・千葉・長谷部 ハハハハハ!
益⽥ 緊張から入って、お客さんやメンバーの雰囲気に感化されながら、少しずつリラックスするというか。
関 メンバーの中で唯一、ライブ前にルーティーンもあるよね。
益⽥ うん。寝て、ストレッチして、レッドブルを飲む(笑)。
長谷部 確かに毎回やってる(笑)。
内田 俺も緊張はしますけどね。“ガチャ”でいいのが出るかもわからないし。
──Kroiのライブは、そこも魅力なのかも。決められたことをこなすのではなく、どうなるかわからない危うさがあって、それが解放感につながっているというか。
関 うれしいです。アーティストのほうがガチガチに作ってると、お客さんもそれに沿った見方しかできない気がして。
長谷部 気張ってるライブがよくないわけじゃないんですけどね。
関 うん。自分たちは「俺らも自由にやるから、好きなように聴いて」というスタンスが合ってるだけで。
内田 それぞれに得意なやり方があるからね。ただ、レアなライブはやりたいかな。
聴いたことがないジャンルを創り出したい
──新作『nerd』について聞かせてください。1stフルアルバム『LENS』のリリース時に「次からは第2章」とコメントしていましたが、今回の制作に関しても、そういう意識はあったんでしょうか?
内田 “第2章”というのは、外に向けて「次はすごいです」とアピールしているのではなくて、自分たちに「次は新しいものを作る」と意識させるために言ってたんですよね。たぶんメンバーも、“ここまでが第1章”みたいなことは考えてなかっただろうし。
関 ただ、怜央が言ってることには納得していて。(1stアルバムのリリース後は)新しいステップというか、自分たちの気持ちを入れるタイミングでもあったので。
千葉 少なからず意識してましたね、そこは。
内田 俺が考えていたのは、「聴いたことがないジャンルを創り出したい」ということなんですよ。実験的なことを押し進めることも、そろそろ始めたいと思っていて。ずっとルーツは大事にしてきたんですけど、さらにステップアップしたいし、「これは新しい」という音楽を作っていきたいので。
長谷部 うん。常々、「バンドは変わっていくことがおもしろい」と思っているんですよ。Kroiとしても個人的にも、アルバムを出す前から「次は変わりたい」「新しいことをやりたい」と思っていたし、とにかく変化したくて。それが退化なのか進化なのかはわからないけどね。
内田 進化の方向性は一方ではないからね。ただ前に進んでいけばいいというものでもないし。
関 動きがなくなることが一番よくないので。
──なるほど。これまでの活動でも常に変化を繰り返しているし、聴く人によってかなり印象が異なるバンドだと思いますけどね、Kroiは。
内田 そうだったらうれしいです。
──似ているバンドもいないし、どこかのシーンに属しているわけでもなくて。
内田 そうなんですよ(笑)。
千葉 うしろ盾がない(笑)。
関 昔はライブハウスのブッカーの人に、「Kroiはどういうバンドに当てればいいのかわからない」って言われてましたね。結成は2018年なんですけど、そのころはバンドよりもトラックメイカーとか、ソロのシンガーが目立っていて、(Kroiは)カウンター的なところがあったのかも。
内田 そのころは日本で流行っている音楽をちゃんと聴いてなかったんですよ。自分たちも「こういう方向性でやっていこう」みたいなことを決めてなかったし、「新しいことをやる」「ぶっ壊してやる」って(笑)、ただ好きなようにやってただけで。
千葉 それがよかったんだと思います。「こういう活動をしたら、こうなる」みたいな考え方が怜央にはなかったし、それがKroiらしさにつながったんじゃないかなと。
益⽥ 顔色をうかがわないというか、トレンドを意識したり、同調しないで、やりたいことを発信することが大事なんだと思います。それが受け入れられるかどうかはわからないけど、自分たちがいいと思うことをつづける姿勢は持っていたいし、そうすることでジャンルに縛られず、自由度も増すのかなと。
内田 ただ、今はKroiの立ち位置も見えてきてるし、まわりのことも一応、見てはいますけどね。そうじゃないと、「新しい!と思ってやったことが、実はめちゃくちゃ凡庸だった」みたいなこともあり得るので(笑)。
関 インプットするとかではなく、音楽シーンを把握するのは大事かもね。メンバー全員、邦楽を聴いてた時期がどこかで止まってるので(笑)。
「Juden」は“呪い曲”
──新作『nerd』の収録曲についても聞きたいのですが、6曲ともテイストがまったく違っていて。よーい、ドン!で、全員がバラバラの方向に全力で走り出した、みたいな……。
関 めっちゃいいですね、その表現(笑)。
千葉 「何をやってるんだ、お前ら!」って(笑)。
内田 自然とそうなっちゃうんです。たとえばリード曲を作るときは、“同じ方向性で、少し違う”という感じの曲がいくつかできるんですけど、アルバムやEPに向けて制作すると1曲1曲がバラバラになるんですよね。作りながら飽きてくると、まったく違う方向の曲を作りたくなるので。
──途中で飽きることって、けっこうあるんですか?
内田 ありますね。ちょっと壁にぶち当たると、すぐにほかのフォルダを開いて違う曲に取りかかるんですよ。なので曲が大量にできるし、方向性もいろいろなんです。曲を作るのはめちゃくちゃ好きなので、悩む時間がもったいないんですよね。壁にぶち当たった曲も、メンバーに渡せば解決してくれるし。みんな、凄腕なので。
──目の前で言うのはアレですけど、皆さん、うまいですよね。
内田 そうなんですよ。
関 ありがとうございます(笑)。
長谷部・千葉・益⽥ ハハハハハ(笑)。
──演奏がうまいって、当たり前ですけど大事ですよね。アイデアがあっても、技術が伴わないと曲に結びつかないので。
内田 そう。高校のころはそこがコンプレックスで。自分の頭の中で思い浮かんでる曲をうまく表現できなかったんですよ。なので、暗かったですね。
千葉 性格に影響してたんだ(笑)。
内田 今は健康だけどね(笑)。
──EPのリリースに先駆けて、オーセンティックなファンク・ナンバー「Juden」が先行配信されました。新しさを追求した結果、ファンクに辿り着いたというか。
千葉 バレた(笑)。
内田 「Juden」は“呪い曲”ですね。
──ファンクの呪い?
内田 というか(笑)、良くも悪くもナチュラルな曲になったのかなと。メンバーのフレージングにしてもビートのアプローチにしても、わりとナチュラルな感覚が出てるんですよね。
ダサいものをいかにカッコよく見せるか
──リード曲「WATAGUMO」は、まさにKroiの新機軸といえる楽曲だと思います。
関 ほかの収録曲が決まってから、最後の1曲として、デモ音源の中から怜央がピックアップしたのが「WATAGUMO」だったんです。これまでのリード曲とも照らし合わせて、この曲を選んだんじゃないかなと。
内田 まずサウンド的な快楽、心地よさが欲しかったんですよね。そういう曲をリードにしたことはなかったし、これまでとは違った面を押し出せるのかなと。俺はトラックを作るのが下手だから(笑)、やりたいことを言葉で伝えて、あとはみんなに渡したいんですけどね。
千葉 “耳に心地いい音”というのは聞いていたので、それを前提にしながら制作しましたね。ただ、そういう曲って、バンドじゃないことが多いと思うんですよ。ネオソウルだったり、シンセがきれいに入ってる曲だったり。ビートも打ち込みがメインだし、そこをどうバンドに落とし込むかを考えていました。
益⽥ ドラムは……一番難しかったですね。プリプロ作業がまとまったのが、レコーディング当日の朝で。かなり打ち込みチックな感じで、最初の音源とはかなり違っていたんです。ドラム録りまでの時間がなくて、自分の中の落としどころというか、到達地点がなかなか見えなかったんですよ。
長谷部 テンション低かったよね。
益⽥ 悩みながらやってたから。でも、ミックスされたものを聴いたときに、「なるほど、こういうことか」と。
──ギターの音色もすごく個性的ですよね。
長谷部 楽曲に寄り添う音のチョイスをした記憶がありますね。ベース、ドラムを録ったあとにギターを乗せたんですけど、その場で「こっちのほうがいいかな」って音を変えたり。
内田 だいぶ変だけどね(笑)。Cメロの裏のギターの音なんて、聴いたことないよ。
長谷部 プラズマペダル(エフェクター)で歪ませてるやつね。
内田 あれはこだわりポイントでしょ? さっき「サウンド的な快楽を求めた」って言いましたけど、そこを追求すると、音数を削減したほうがいいし、丸っこいサウンドになっていくんですよ。でも、それをやり過ぎるのは自分たちのクリエイションとしては違うのかなと。
──実際、「WATAGUMO」の音にはトガった手触りもありますね。
関 サウンドメイク、ミックスを千葉がやってるのもデカいんですよね。サウンドを平たくし過ぎず、“出る杭はどれも打たない”というか。
内田 うん、それはホントに重要。
関 自分たちがやりたいことを汲み取ってくれて、千葉のアイデアも足してくれて。プレイヤー目線も持ってるし、全員が満足いくかたちに落とし込めるのは、メンバーがミックスしていることがデカいと思います。
千葉 もともとトラックを作るのが好きで、その延長でやってる感じなんですけどね。
──最初の発信は内田さんだとしても、メンバー同士でやりとりして、バトンを渡しているなかで化学反応が起きるんですね。
内田 そうなんですよね。(作曲ソフトの発達などによって)今は誰でも曲を作れるし、いい曲を作る人もいっぱいいる。ミックスまでやれるというのは稀有だと思うし、本当にうれしいことだなと思ってます。
──そのほかの楽曲も、めちゃくちゃ多彩なアイデアが反映されていて。「blueberry」「おなじだと」あたりには80‘sジャズ・フュージョンの匂いもしますが、そこも皆さんのルーツなんですか?
内田 そうなのかな? そもそもフュージョンに目を向けてるバンドって、今あまりいないですよね(笑)。
関 この前、対バンツアー(どんぐりず、韻シスト、CHAI、ニガミ17才、マハラージャン、在日ファンクが参加する対バンツアー『Dig the Deep』)に参加してくれる韻シストさんと話したんですけど、そこでもフュージョンの話題になって。「フュージョンが好きって、なかなか言えなかった」と言ってたんですよ。
千葉 (笑)。80年代のJ-フュージョンね。
関 「ファッションも関係してたんじゃないか」って、言ってましたね(笑)。ロックやヒップホップと違って、優等生がやる音楽みたいなイメージもあったので。音楽的には“ワルい”んですけどね。
──すごくプログレッシブですからね、80年代の日本のフュージョン。ただ、長い間“ダサいもの”として見られていたのも確かで。
内田 アーティスト活動って、“ダサいものをいかにカッコよく見せるか”という活動でもあると思っていて。
関 なるほどね。ダサいとされてるものを「これ、カッコいいでしょ」って見せて、みんなが「カッコいい!」と言えば勝ちというか。勝ち負けじゃないけど(笑)。
長谷部 それを考えずにやれたらもっといいよね。
内田 そう、意図せずやったらカッコいい。
Kroi、それぞれのナード
──では、最後の質問です。EPのタイトル『nerd』にかけて、皆さんのナードな趣味を教えてもらえますか?
益⽥ 前職がSE(システム・エンジニア)だったんですけど、今もプログラムが好きで。「設計思想」と言うんですけど、システムをどう構築するかを最初にイメージするんですよ。縦に積んでいくのか、奥から手前に向けてレイヤーを作るのか、いろんなところに丸があってそれを結ぶのか。それを作るのが好きです。
──すごい! 何を言っているか全然わからないです(笑)。
益⽥ (笑)。たとえば、ここにペットボトルがあるじゃないですか。完成形は同じでも、プログラムの場合、ここに至る経路や中身の構造は人によって千差万別なんですよ。
関 音楽のことよりハキハキしゃべってる(笑)。
内田 それがナードでしょ。やめろと言われるまで、しゃべりつづけるっていう(笑)。
──長谷部さんは?
長谷部 楽器や機材はもちろんですけど、それ以外だと洋服ですかね。ビンテージが好きなんですけど、作られた時代背景を調べるのがおもしろくて。ウエスタンの服の袖の“ビラビラ”はどうしてついているのか、とか。
千葉 なんでついてんの?
長谷部 雨とか砂を逃がすため。
関 え、そうなの?
長谷部 らしいよ。ジーンズの製法も時代によって違ってて。戦争中で鉄が足りなかったから全部布で作ってたり、裏地の素材が違ってたり。
千葉 俺は……最近、楽しいことをした記憶がないな。制作とライブだけで。
内田 仕事がナードなんじゃない?
千葉 そう、仕事が好きなんですよ。たまにWEBのデザインをやるんですけど、それもすごく楽しくて(笑)。
──向いてるんでしょうね、モノ作りが。
内田 プラグインの話とか、ずっとしてますからね(笑)。
関 千葉は服も好きだし、好きなものを掘る習性があるんでしょうね。俺は楽器ですね。大学のときにずっと楽器屋でバイトしてたんですけど、高価な楽器がいい音なのは当然だと思うようになって。今もそうなんですけど、安い楽器を改造して、いい音にするのが好きなんですよ。はんだごてを持って、ニヤニヤしてます(笑)。
内田 俺は浅いですよ。
関 そんなことないでしょ(笑)。
内田 網羅したいんですよね、いろいろ。男の子が好きなものは全部好きですね。恐竜、銃、怪談、SFとか(笑)。
Kroi New EP『nerd』
発売日:2021年11月17日(水)
CD&デジタルリリース
■トラックリスト
M1. Juden
M2. pith
M3. Rafflesia
M4. blueberry
M5. おなじだと
M6. WATAGUMO
■DVD収録内容
Major 1st Album『LENS』Release Tour “凹凸” from 2021.08.27 LIQUIDROOM
Kroi Live Tour 2021『Dig the Deep』
■スケジュール
2021年11月27日(土) 福岡 Drum Be-1 w/どんぐりず
2021年12月11日(土) 名古屋 CLUB QUATTRO w/韻シスト
2021年12月16日(木) 北海道 PENNY LANE 24 w/CHAI
2021年12月18日(土) 梅田 CLUB QUATTRO w/ニガミ17才
2022年1月8日(土) 渋谷 CLUB QUATTRO w/マハラージャン
2022年1月9日(日) 渋谷 CLUB QUATTRO w/在日ファンク
Kroi
(クロイ)内⽥怜央(Vo.)、長谷部悠⽣(Gt.)、関将典(Ba.)、益⽥英知(Dr.)、千葉⼤樹(Key.)による5人組バンド。2018年2月にインスタグラムを通じてメンバー同士が出会い、結成。R&B/ファンク/ソウル/ロック/ヒップホップなど、あらゆる音楽ジャンルからの影響を昇華したミクスチャーな音楽性を提示する。バンド名の由来はあらゆる音楽ジャンルの色を取り入れて新しい音楽性を創造したいという考えで、すべての色を混ぜると黒になることからくる「黒い」と、メンバーが全員ブラックミュージックを好み、そこから受けた影響や衝撃を日本人である自分たちなりに昇華するという意味を込め、Blackを日本語にした「黒い」からKroiと命名。2018年10月に1stシングル『Suck a Lemmon』にてデビュー。翌年夏『SUMMER SONIC 2019』へ出演。2021年6月にメジャー1stアルバム『LENS』をリリースし、ポニーキャニオン内レーベル「IRORI Records」よりメジャーデビュー。音楽活動だけでなく、ファッションモデルやデザイン、楽曲プロデュースなど、メンバーそれぞれが多様な活動を展開し、カルチャーシーンへの発信を行っている。