上坂すみれが語る「お金、生活、そしてナチュラルな私」声優デビュー10年、アーティストとしての未来
声優のみならず歌手としてもコンスタントに活動をつづける上坂すみれ。10月27日にリリースされた通算12作目のシングル「生活こんきゅーダメディネロ」は、自身も声優として出演するテレビアニメ『ジャヒー様はくじけない!』(テレビ朝日)第2クールオープニング主題歌として書き下ろされた一曲で、ヒャダインこと前山田健一が作詞・作曲した王道電波ソングに仕上がっている。
距離が近いように見える上坂とヒャダインだが、意外にもタッグを組むのはこれが初めて。インタビューではこの曲の制作過程や、同曲に匹敵する個性的なカップリング曲の魅力について話を聞いた。
2021年11月26日発売『CONTINUE』Vol.74より、上坂すみれロングインタビューの一部を特別に先行公開。
目次
スペイン兄貴に電波ソングを届けたい
──新曲「生活こんきゅーダメディネロ」を制作する上で、上坂さんからヒャダインさんにどのようなオーダーをしたんですか?
上坂すみれ(以下、上坂) 今回はヒャダインさんに楽曲提供をお願いしたいという決め打ちで、一度ヒャダインさんと直接打ち合わせをさせていただきました。題材となる『ジャヒー様はくじけない!』を軸に「やっぱり電波ソングがいいですよね!」みたいな話をしつつ、そこから「“ダメディネロ(Dame dinero)”という言葉を入れよう」と決まっていったんです。
──“ダメディネロ”はスペイン語で「お金をください」という意味のワードですが、そもそもどこから出てきた言葉だったんですか?
上坂 最初、私が声優と主題歌アーティストとして参加させていただいたアニメ『イジらないで、長瀞さん』の話をしていて。実は長瀞さんが南米でとても人気なキャラクターで、それもあって(上坂が歌う同作のオープニング主題歌)「EASY LOVE」のミュージックビデオのYouTubeコメント欄などで、とてもスペイン語のコメントが多いんです。そこから「ジャヒー様も褐色ヒロインといえばそうなので、スペイン兄貴に電波ソングを届けたいですね!」ということで、ジャヒー様っぽい可愛らしいスペイン語を探しまして、そこから「お金をください」という意味の“ダメディネロ”というワードにたどり着いて。すごく簡潔で日本語っぽくもあるし、キャッチーでいいですねということで、採用することに決まりました。
──スペイン語を知らない人からしたら、ちょっと日本語の造語っぽくも見えますし。
上坂 そうなんです。“ダメ(=駄目)”も“ネロ(=寝ろ)”も日本語にありますし、そもそもダメディネロの意味を知らなくてもなんとなく楽しめるという点でも、いい単語だと思います。
──作詞の上では『ジャヒー様はくじけない!』という作品が大前提としてあったと思いますが、その中で「どういうことを伝えたいか?」などお話ししたことは?
上坂 絵は可愛いけど、ジャヒー様が貧乏と戦っている暮らしのお話ですし、「生活と貧しさみたいなものを、いかにポップなカラーで描きましょうか?」みたいなところまでは打ち合わせしたんですけど、それ以降はヒャダインさんにお任せで。仕上がった歌詞を読んで、本当にすごいなと感動しました。
──ジャヒー様が本当にこういう生活を送っているだろうな、と想像できる内容ですし、それを作中ではジャヒー様の敵役でもある魔法少女を演じる上坂さんが歌うというのも、面白いなと思って。
上坂 そうですね。原作漫画だと途中から自称・大親友になったりと、結構思い込みの激しい子なんですけれども、この歌に関しては魔法少女としてというよりは作品全体の総括として臨んで、歌うようにしています。
──その歌詞が展開の激しいトラックに乗せられ、上坂さんはパートごと、ブロックごとにサウンドに合った声色を当てて歌っています。この曲を歌う際、特に意識したこと、注力したことはどういったところでしょう?
上坂 レコーディングでは直接ヒャダインさんがディレクションしてくださったので、すごく明快でわかりやすかったです。電波ソングってテンポが速いんですけど、それでも歌詞が聴き取れることが重要だと思うので、特に今回は歌詞をはっきり発音すること、それからオケに沿って……オケが歌謡曲っぽくなったり、ちょっとロックっぽくなったりと、極端に変化したらそれに合わせて歌い方も大袈裟に変えて、カラーを変えていくというディレクションでした。
いつか騙されて大金を失いそうなヤツだと思います
──ミュージックビデオでもいろいろな衣装を着ていますね。
上坂 今回は5パターンの衣装を着まして、いろんなバイトをしてお金を稼いで魔法少女になるという、この上なくぴったりな設定を作っていただいたんですけど、CGがすごく豪華だったので、完成版を観てとても感動しました。
──ちなみに、上坂さんご自身はアルバイトのご経験は?
上坂 ないです。
──もし学生時代にアルバイトをやれていたとしたら、どんなお仕事をしたかったですか?
上坂 私は秋葉原でメイド喫茶か、神保町で古書店のバイトがしたかったです。やっぱりメイド服が好きですし、コスプレも好きだったので。でも、そのわりにお客さんとしてメイド喫茶に通っていたわけではないんです。アキバにフィギュアやCDを買いに行くたびに「メイドさんいいなー」と思っていたので、やってみたかったですね。
──『ジャヒー様はくじけない!』という作品にしろ、楽曲の内容やMVの中の設定にしろ、お金がキーワードといえますが、上坂さんにとってお金ってどういうものですか?
上坂 そうですね……私はお金に関して、特別思い入れがあるというわけではないんですよね……。
──そうなんですね。
上坂 収入より出費が多くても、あまり気にしないという感じです。ただ声優さんというお仕事は歩合制なので、日々頑張って稼がなければと思っています。
──お金に執着はあるほうですか?
上坂 そんなにないかもしれないです。節約とか財テクとかわからないですし、銀行から来る「やってみよう、投資」みたいな紙を見てもなんのことやらわからないですし。いつか騙されて大金を失いそうなヤツだなと思います(笑)。
──(笑)。そういう方がこの曲を全力で歌っているという事実が、聴き手としてはシビレます。
上坂 なので、あまり現実味を持たせすぎないようにしましょう、というのはありました。〈金があっても 地獄は地獄なの〉という歌詞もありますが、「お金は必要だが、お金がすべてではない!」という歌にしようという話し合いもありましたし。私自身、もし「本当に今月の家賃が……」と思っていたら、歌い方がもっと違ったのかもしれませんが、楽曲自体はファンタジーなので、わりとベースはのほほんと歌うようにしています。
──そこに執着がありすぎたり、悲壮感が強すぎたりすると、この曲で表現したいことは伝わらないと思いますし、上坂さんのこの距離感だから響くものがあるんだなと、いまお話を聞いて感じました。
上坂 そうかもしれないですね。貧しさと富める者という構造を俯瞰で見るという、程よいフィクションになっているんじゃないでしょうか。