欧米のドラマのトレンドとは真逆の試みが成功している『愛の不時着』
そして2本目は『愛の不時着』。“下剋上”の痛快さを一番の売りにした『梨泰院クラス』と異なり、北朝鮮と韓国の対立という、韓国映画でもここまでやった作品はなかったほど生々しい現実が背景。しかし、エンタメ色を前面に出したのがまず出色。
韓国の財閥の令嬢で、セレブでもあるユン・セリ(映画『私の頭の中の消しゴム』のソン・イェジン)はパラグライダーに乗った直後、竜巻に巻き込まれてしまうが、不時着したのは北朝鮮。そこでイケメンの軍人リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)と出会い、韓国への帰還を目指すが、彼と互いに愛情を抱くようになる。
ひとつネタバレすると、筆者は当初、舞台は北朝鮮からすぐに韓国に移ると予想した。38度線を間に挟んだ韓国と北朝鮮は社会が大きく異なり、ドラマにするのが大変だからだ。しかし本作はかなり長い間、北朝鮮で展開。そして北朝鮮のある村に住む、兵士たち・おばさんたちも重要な登場人物になっていく。なので超シリアスな場面の直後、コント風のコミカルな場面がつづいたかと思えば、その反対もしょっちゅうで、シリアスドラマとコメディドラマの境界線が明確な欧米の作品と比べると、本作はまるで“カオス(混沌)”を思わせる。
上級軍人・政治家・実業家から下級軍人・庶民まで幅広い登場人物が集まるなか、恋愛、陰謀、冒険など多彩な見どころを満載。とびきりロマンティックな場面(スイスでもロケをしている)と『マッドマックス』風の改造トラックが登場するアクションが同居して、独自の相乗効果を発揮しているのだ。近年、欧米のドラマは老若男女の視聴者、それぞれの好みに沿う傾向があるが、真逆の方向に進み、それに成功しているのがおもしろい。
もちろん、韓国と北朝鮮の分断という題材そのものが世界的にもユニークだ。なおかつ、今なお『冬のソナタ』に通じる“初恋”、“四角関係”、“雪”といったベタな要素も駆使。ジョンヒョクはあるエピソードで宿敵にこう言い放つ。「俺の恋人がお前と同じ空の下にいる限り、俺は去らない」。世界の大衆はこういうのを望んでいるのではないか。
『梨泰院クラス』と『愛の不時着』、日本人の感覚からするといずれもやり過ぎている部分が多いのだが、その情熱に接し、人はなぜドラマを観るのかという原点を考えさせられる。
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