新型コロナウイルスの蔓延から考える、これからの差別との向き合い方(UUUM鎌田和樹)
近ごろ、SNSで炎上するネタとして鉄板なのが「差別批判」だ。しかし、差別に対し、当事者意識を持って発言している人はどれほどいるのだろうか。
HIKAKINや水溜りボンドなど有名YouTuberたちの数多くを擁するUUUM株式会社の鎌田和樹氏が、新型コロナウイルス感染症によって冷ややかになる「日本人」への視線を踏まえて、これからの差別との向き合い方について考える。
エンターテインメントは、「モラルのギリギリ」を攻めて発展してきた
新型コロナウイルス感染症の影響で、さまざまなライブやイベント、プロスポーツの試合が中止、無観客開催などの決定をしている。かくいうUUUMも2月19日と25日、「U-FES. TOUR 2019」など主催イベントの開催を中止とする決断をした。ファンの皆さまには申し訳ないが、今後も感染拡大の防止に向け、予断を許さない状況がつづいている。
多くのイベントがコロナウイルス感染症によって中止の決定を迫られるなか、違った角度から中止を求められる作品があった。2月中旬に公開された映画『バイバイ、ヴァンプ!』だ。
作品の設定は、吸血鬼(ヴァンプ)に噛まれた人間が同性愛に目覚めるというものだ。性的マイノリティへの差別的な表現が随所に見られることから、予告篇の公開直後からSNSを中心に批判の声が殺到。上映中止を求める署名キャンペーンが立ち上がるまでに発展した。
この騒動について僕は、上映の中止は「筋違い」だと感じている。「売れなくて上映が終わる」のと「強制的に上映が終わる」のでは、エンタメ業界に与える影響は大きく異なる。前者では失敗を教訓に、工夫して違ったコンテンツを出そうとする改善につながるかもしれないが、後者では性的マイノリティをテーマにした作品自体を作れなくなってしまうリスクがある。
エンターテインメントは、「モラルのギリギリ」を攻めることで発展してきた側面を持つ。批判や炎上に対して、それだけを理由に上映中止してしまうことは、見る側も作り手も思考停止に陥り、表現の幅は狭まり、この世に生まれるかもしれないコンテンツが消滅してしまうリスクを孕んでいる。これこそ表現の自由の侵害なのではないだろうか。
これからの時代、真の意味で「多様性を受け入れる社会」になっていくのであれば『バイバイ、ヴァンプ!』はそもそも大衆から相手にされず、勝手に劇場から姿を消すはずである。インターネット上の批判やそれを増長させるメディアによってエンターテインメントが消滅するのではなく、建設的な議論と改善によって前進する未来にしていきたい。