わが征くは百合の大海!『ささやくように恋を唄う』を讃え、献身のココロでファイエル! (マライ・メントライン)
日本在住ドイツ人・マライ・メントラインが受けた啓示「百合コミックに注目だ!」。啓示のままに読み進めた中でひときわ素晴らしかった『ささやくように恋を唄う』を、不当にも忘れられた文芸的ニーズの一側面を深く突いてしまった傑作と読み解く。そして、そのキャラクタライズ考察を深めていくと、『バンドリ』『アマデウス』を経て、やはり『銀河英雄伝説』に思い当たった。
『ささやくように恋を唄う』が凄い
ネットで文化市場の模様眺めをしていると、視覚に直結した脳の自動分析機能のなせるわざか、何かしらのメッセージが啓示のように降りてきたりします。先日、こういうのが来ました。
いま、百合コミックに注目だ! と。
ちなみになぜBLでなく百合なのか? それは私の姉が同性愛者で女性と結婚しているという背景事情もあるかもしれません。そんなわけで作品が放つオーラを頼りにいくつか読んでみたのですが、うん、確かにこれはなかなかグッとくる。特に『ささやくように恋を唄う』(通称『ささこい』竹嶋えく)というのが凄かった。本作は最近アニメ化決定したことで沸いていますが、私が読んだのはその前ですよ! とつまらない意地を張ってみたり(笑)。
文芸以上の「文芸み」
『ささこい』は学生ガールズバンドを軸にした学園ドラマです。そして純愛。驚くほどに純愛です。そもそも単行本7巻時点で、エロい場面がほとんどありません。これは凄い。で結局何が内容的にインパクト大かといえば、恋愛要素が目的というより触媒になっていて、
人はいかにすれば誠実に生きられるか
という問題を、登場人物全員がそれこそアホみたいに突き詰めて悩み抜く点です。主人公ふたりはもとより周囲の友人たちや、トリックスター的な敵役として登場する志帆先輩に至るまで。
これってある意味「純文学的」といえるかもしれないけど、逆に、いまどき実際の純文学はこんなベタなテーマで直球勝負しません。『推し、燃ゆ』(宇佐見りん)とか最近の芥川賞のすごいのを見りゃわかるでしょ。でも、でも、でも、これ………凄くいい!!! 文芸以上に「文芸み」を感じさせる瞬間があるというか、不当にも忘れられた文芸的ニーズの一側面を深く突いてしまったというか。
また、同性愛ベース作品だからこそ「人間とは」的なベタなテーマでの直球突きにも、並ならぬ威力と説得力が備わる面があるように思います。なぜなら男女の異性間ドラマの場合、実際そうだから仕方ないけど、性差にもとづく(っぽい)心理的断層の狭間に多くの問題の核心を押し付けがちだからです。ここでのパワーロスが、男女を超えた汎人間的な問題の追究をさまたげてしまう面がなくもない。フェミニズム系論争が攻撃的に盛り上がる昨今の空気感の中ではなおさらですね。
ということで『ささやくように恋を唄う』、こんなところに! こんな形で! 人間深掘り物語の味わいがあったのか! という感じで素晴らしい。オススメです。
強いてアレな部分を挙げるならば、主人公が所属するバンドの名称が「SSガールズ」というあたりでしょうか。うかつにミリタリーイベントに出たりして炎上しそうな名前です。武装SSなのかアルゲマイネSSなのかとか聞いてはいけません。かのデトロイト・メタル・シティと対バンして撃破するのが目的ならそれもありかもしれないけど、とにかくそのままではドイツに輸出しづらいんですよ! というローカルな問題でした。この件は以上。
根源には『アマデウス』サリエリ
ときに。
『ささこい』では前記した、敵役(っぽい触れ込み)の志帆先輩というキャラが印象的です。
彼女の「身近に居た天才の能力を目の当たりにして挫折した経験を持つ、ストイックな超絶技巧派の陰キャ秀才」というトラウマ怨念的アウトラインは、同じガールズバンド系の超有名メディアミックスコンテンツ『BanG Dream!』(通称『バンドリ』)に出てくる精鋭バンドRoseliaのギター担当、氷川紗夜にものすごく似てます。実は根がすごい善人だったりする点も同じです。仕様と設計が95%同じといっていい。ちなみに志帆先輩の残り5%成分は、惣流・アスカ・ラングレーです。でもパクリだみたいな話は別に出てこないんですね。それってたぶん価値あるキャラクター類型のツボを的確に突いているからで、そもそもこの両者の根源には傑作戯曲/映画『アマデウス』のアントニオ・サリエリが存在します。「なぜだ? なぜ神はかくも下劣な若造を選んだのだ!」の彼こそが、この一族の代表でしょう。史実のサリエリとモーツァルトの関係はあんなじゃなかったとはよく言われるところですが、フィクションのサリエリには「キャラ発達史」的に重要な、独自の価値があると思います。
どう考えてもキルヒアイス
さて。
『バンドリ』のRoseliaといえば、わりと明確に「ドイツ軍」的な何かをイメージコンセプトに据えたバンドとして興味深いです。暗色ベースのキメキメ威嚇系コスチュームが基本で、アルバム名やライヴコンサート名でもドイツ語を多用していたり等。各コンテンツの人気拡大につれて実態が軟化していった感はありますが、そもそもバンドリの設定では、中心たる主人公バンドPoppin’Partyの「友情+努力+楽しさ」による「王道」路線に、Roseliaの「才能+統制」による「覇道」路線をライバル対置させていました。
Roseliaが何故そういうバンドなのかといえば、リーダーである湊友希那の「才能豊かなミュージシャンだった父を潰し、引退に追い込んだメジャー音楽業界に復讐する!」という怨念が結成動機だからです。氷川紗夜はRoseliaの幹部将校としてプロイセン的な規律を(少なくとも当初)バンドメンバーに強要するのですが、より重要な文脈キャラとして今井リサというメンバー(ベース担当)が居ます。彼女は湊友希那の幼馴染であり大親友で、バンドの目的性と真逆の温厚な人格でありながら「親友の屈託のない笑顔を取り戻したい」という一念でRoseliaに参加し、プライドが高く直情的な湊友希那の「覇道」を献身的に支えるのです。
これってどう考えても『銀英伝』のキルヒアイスですね。
自由惑星同盟の将兵からの、じゃなかったPoppin’Partyとかライバルバンドのメンバーからの人望も圧倒的に厚く、この人のおかげでいろんなものが空中分解せずに済んでいる、というあたりもキルヒアイス度が高いです。湊友希那のラインハルトっぽさは「まあ、そういうのは他にもあるかな」と感じられなくもないですが、今井リサは凄いです。別格です。まさに「死なないキルヒアイス」としてイチオシの存在です。ゆえに、「もし今、キルヒアイスが生きていたら!」とか嘆く必要がない湊友希那は、かなり贅沢な人生を送っているといえるでしょう。プロージット!
そんなわけで、物語キャラとして「サリエリ系」などと並び、「キルヒアイス系」という確固たるグループが成立していることが窺えるんですよね、というのが、今回のお話の二重底じみた最終的なオチです。なんだよ最後はけっきょく『銀英伝』かよ! とお思いの皆様、「そのとおりだ!」としか言いようがありません。それにしても物語の枠を超えたキャラ構造の連鎖というのは興味深いなと思ったり。
ではでは、今日はこのへんで、Tschüss!
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