『東京卍リベンジャーズ』稀咲鉄太の巧妙なキャラ設定から、イマドキ漫画の「悪」の描き方を考察(マライ・メントライン)

2021.11.9


稀咲鉄太の真意が明かされる場面(ネタバレ注意)

……と、そんなわけで私は『東京卍リベンジャーズ』を読みながら、勝手に稀咲鉄太というキャラの動向に大注目していたのです。最終的に悪の権化としてどう花開くのか。これまであまりまともに描かれてこなかったハイドリヒ的なダークサイド要素の展開・昇華が見られるのか。であれば、諸外国のトップ文学・エンタメがろくに成し得なかった「悪の本懐」描写を、日本の、それも「ヤンキー漫画」がやってのけるという、おお、これぞまさしく、クールジャパン云々などお呼びでないホンモノのッッッ……

以下ネタバレかもしれないのでご注意。

……と思っていたら、なんだアレは? あの独白と最期は!
勝手な期待は勝手に崩壊するものだ。そこでゴネてはいけない、と知ってはいましたが、いやはや。

稀咲鉄太の真意が明かされる場面ですね。あれは私にとってなんというか……『DRAGON BALL』で、レッドリボン軍総帥の真意(ドラゴンボール集めの動機)を知って部下が大コケする場面があるじゃないですか。あれにかなり近いです。もしYouTubeで稀咲鉄太チャンネルとかあったらスパチャ(おひねり)投入もアリか! とか思っていたのに、これは無いだろうお前! とつい思ってしまうところです。

『DRAGON BALL』<8巻> 鳥山明/集英社
『DRAGON BALL』<8巻>鳥山明/集英社

でも『少年マガジン』掲載の少年漫画ですからね。そのへん、やはり描いてよい限界というものもあるでしょう。いやまあ実際、限界によって止められたからああなったのかどうかは知りませんけど。
もし限界を超えて踏み込んだ、ハイドリヒ直伝めいた本格「悪の華」展開が進行してしまったら実際のところ、主人公と仲間たちの「愛と知恵と誠意と根性」ではどうしようもなくなるのは確か。この展開を説得力をもって潰すor倒すには、それこそ出版社&ジャンルの壁を越え、『闇金ウシジマくん』あたりに登場願って助けを求めるしかないでしょう。でもそうなると、何が正義か善か、魂のベクトルがどっちを向いているのかわかんなくなるという、硬派ヤンキー漫画としてあるまじき状況が不可避的に現出してしまうわけで、それもなかなか悩ましい。

『闇金ウシジマくん』<1巻>真鍋昌平/小学館
『闇金ウシジマくん』<1巻>真鍋昌平/小学館

ということで総合的に見て、人口に膾炙するような超人気作品で「悪の真髄」を描くのってそもそも難しいんだなー、ということを改めて痛感させられた印象があります。

『行け!稲中卓球部』のがパンダカーが視野を横切る

ただ、ただしですね。
稀咲鉄太の「恋愛爆死しちゃったオレって」に収束する結末は、神の手とかによってもうちょっとなんとかしてほしかったなと思います。でなければ、陰キャなりにあふれ返っていた彼の資質がもったいない。で、ああいう人って、自分の理解力では微妙にとらえがたい「強力な文脈」のシンボルが目の前に出現すると、とりあえず食いついてくるような気がします。そんなわけでたとえば、『東京卍リベンジャーズ』の横浜最終決戦とかのここぞという瞬間に、『行け!稲中卓球部』のふたり組がパンダカーに乗りながら視界を横切ったりすると、何気にすべてが変わったんじゃないかと思ったりするのですよ。
これぞ天の配剤というもの。ちなみにBGMはなぜか『西部警察PARTII』だったり。

『行け!稲中卓球部』<1巻>古谷実/講談社
『行け!稲中卓球部』<1巻>古谷実/講談社
『西部警察PartII』DVD/ポニーキャニオン
『西部警察PARTII』DVD/ポニーキャニオン

ちなみに『行け!稲中卓球部』とは? という説明は必要でしょうか。いちおう書いておくと、心理的裏面の中核に到達したと言い張ることが可能な、伝説的超お下劣&超知性ギャグ漫画です。個人的には必読と主張したいけどそう思わない人も多いだろうなぁ。

とにかく、稀咲鉄太には稲中の前野・井沢コンビと結託した上で「ラブコメ死ね死ね団」大幹部就任の目が濃厚、というかすごく向いていると感じます。ノリの違いは努力と執念と知性で克服してくれ。その上で、稲豊中学校とラブコメ死ね死ね団をベースに戦力と精神的コンセプトを磨き上げ、満を持して東京卍會に対しリベンジを挑む! という展開のほうが、現世現実の道理に対してマジで脅威度が高いと同時に魅力的であるように思うのです。

ああああー見たいなー「東京卍會vs稲中卓球部」総力決戦。
中学生バトルとしては伝説化して語り継がれる最高かつ最凶なものとなるでしょう。なんといっても同じ講談社の作品だし(以下自主規制)。

以上です。


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マライ・メントライン

翻訳(日→独、独→日)・通訳・よろず物書き業。ドイツ最北部、Uボート基地の町キール出身。実家から半日で北欧ミステリの傑作『ヴァランダー警部』シリーズの舞台、イースタに行けるのに気づいたことをきっかけにミステリ業界に入る。ドイツミステリ案内人として紹介されたりするが、自国の身贔屓はしない主義。というか..

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