メルケル「後」に何が来るのか「教養系最後の大物政治家」を惜しむ…日本だと誰?(マライ・メントライン)

2021.10.11

世界パワーゲームにおける「ドイツ」の将来は

閑話休題。
まあでもサルコジの場合、良くも悪くも対外的なキャラが立っていたので将来的な方向性が見えやすいというのがありました。そして、今後のドイツでどうにも不透明かつ不安なのがその点です。ポスト・メルケルとなり得る候補がみな小粒というか、何か国際的に芝居を打てそうなタマじゃないというか、とにかく要するに、世界パワーゲームにおける「ドイツ」の将来イメージが見えにくい。

見えにくい、というのは「無い」ことの暗示なのかもしれない。

メルケルの所属政党である中道保守CDU(キリスト教民主同盟)の今年の党首選も、建前的には政策論議の末に決定されたことになっているけど、実際には某国の某自民党(中略)みたく派閥力学っぽい要素で決まってしまった感があります。しかも選出されたアルミン・ラシェットって、完全に国内の「地域密着型」キャラなんですね。世界を相手にできるのか。なぜだ。なぜそんなことになってしまうのか。メルケルから直々に後継者指名を受けたけどパッとしなかったアンネグレート・クランプ=カレンバウアーもそうだけど、世代的にちょうど人材難なのか? ドイツの場合、与党党首が即首相になりやすいわけではないけれど、もしラシェットがそのままメルケルのポジションを受け継いで「欧州の顔」として実戦の場に打って出たりしたら、ぶっちゃけ、プーチンや習近平のいいカモでしょう。そして国内からは「極右ではないと言い張っているけど怨念が動力源なのでいろんな人からヤバがられている」AfD(ドイツのための選択肢)あたりからの突き上げを食らい、AfDの党勢拡大を招きながら地味に撃沈されてしまう。そんな侘しい予感しか出てこない。

ちなみにラシェット以外でメルケルの後継者候補と目されているのが、CDUと連立政権を組む可能性が高い中道左派SPD(社会民主党)のトップ、オーラフ・ショルツです。交渉事など実務能力面で評価されているものの、カリスマ性の乏しさがネックであり、彼は彼でメルケルを継ぐ者としていまいちピリッとしない感が残ります。

プーチンの対ドイツ・EU政策は賞味期限的にヤバい

私はドイツと欧州をめぐるパワーゲームの分析でけっこうロシア(というかプーチン)脅威論的な見解に立つことが多いのですが、そういえば、プーチンの対ドイツ・EU政策ってそもそも賞味期限的にヤバいんですよね。基本的に彼の政治的使命感とモチベーションは「ソ連崩壊後に西側諸国から受けた侮辱的なアレコレに対する恨み」を基底としており、それが長らく有効に機能していたけれど、昨今、特にミレニアル世代以降のロシア人からは「ダサい! そんなだからいつまでもロシアは旧ソ連の延長みたく見られちゃうんだ」という不満が噴出していて、その傾向が今後収まるとも思えないので、何か画期的な新機軸を打ち出さない限り「縮小再生産的な黄昏化」は避けがたいのです。と思っていたら小泉悠先生の『現代ロシアの軍事戦略』にも似たようなことが記されていたので、たぶんこれは正しいのでしょう。

『現代ロシアの軍事戦略』小泉悠/筑摩書房
『現代ロシアの軍事戦略』小泉悠/筑摩書房

メルケル引退は「単純でない混沌」をもたらす可能性

そんなこんないろいろと考えるに、メルケル引退はドイツの、というか欧州の政情に「単純でない混沌」をもたらす可能性があるなぁ、と思います。ちょっと前だったら「これを契機に一気にポピュリズムの拡大が!」的な見解もアリだったと思いますが、たとえば米大統領選におけるドナルド・トランプ現象のあれこれを通じて、「ポピュリズム的力学は、詰まるところ市場囲い込み的な信者商売に収斂してしまう」という認識が広まったことなどにより、そっち方面の勢いも何気に減殺された印象があります。ドイツだと、既存政党の足踏みとポピュリズム政党の頭打ちの間隙を縫って緑の党が躍進し、地味にいろいろな領域の決定権を握りつつある感じです。しかしだからといって、緑の党を軸とした中長期的な政治的展望を描くのも難しい。

ドイツの場合、そもそも何が強いのかといえば経済、産業。たとえば(スキャンダルにまみれながら妙に堂々としている)自動車産業などです。もし、ドイツ産業界が国内の政治家の「使えなさ」に見切りをつけ、いっそEU内のどこかの強カリスマ政治家と密かに結託し、というか利用&バックアップしながら世界市場のコントロールに乗り出す……みたいな流れが生じたりしたら、ダークサスペンス的にも見逃せない展開です。でもそういうのはやっぱり現実的じゃないのかなぁ、などと余計なことを考えてしまう今日このごろでした。

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