ピンキリだったオリパラ報道で考えたこと「啓発っぽいものによる啓発を超える啓発力って重要ね」(マライ・メントライン)

2021.9.9


パラリンピックは、車いす陸上解説の花岡伸和さん!

一方パラリンピックは正直、最初かなりアレレと思わせる実況解説が目立って残念に感じていたところ、ボッチャの「ビッタビタ」新井大基さんや、ソフト関西弁が特徴な車いす陸上の花岡伸和さん、といった只者でない解説陣が視野に入ってきて驚きました。

特に花岡伸和さん。

彼の解説は、自身のパラアスリートとしての経験にもとづく戦術分析、競技用車いすの仕様やその技術面のウラ話、選手エピソードのワールドワイドさなど、

・情報量が豊富
・ネタの切り出し方が絶妙
・語り口が明るくフランクで親しみやすい

という点が特徴で、実際、世間的にもそんな感じで好評だったのだけど、何やら、それではじゅうぶんに彼の魅力を述べ切ってない感があるのですよ。ううむ。彼が語っていた内容で妙に私の印象に残っているのが、

「アメリカの学生の車いす陸上競技者は、大学でスポーツ医学などの学問を専攻していることが多く、学位取得を競技よりも優先させがちなのが競技成績の変動に表れたりする」
「同じ車いす競技者でも、状況により、たとえば成長後での欠損よりも四肢発育障害の選手が優位になる場合がある」

といった話で、ここで重要なのが、そのいずれについても「そういうのもアリなんです。それもまたよし!」という雰囲気で語られていた点です。

これらは、いわゆる身障者ダイバーシティ系の社会啓発コンテンツの王道たる「がんばっている彼らをリスペクトしましょう」的文脈のお行儀よさからはビミョーに遊離した話です。が、逆に、実際のダイバーシティ推進効果がめっちゃ高い気がするのです。別に王道コンテンツがダメとかいうつもりはないんだけど、人間って、問答無用に内容豊かでオモシロで結末が読めない領域を自然にリスペクトしやすいと思うのですよ。啓発系っぽくない装いで中身のあるヤツのほうが、結果的に啓発パワーも高いというか。花岡伸和さんは競技の解説だけじゃなく、別種の「価値体系」の魅力を絶妙にチラ見させてくれるというか。そう、彼の「語り」の真のすごさはそのへんにある気がするのです。
結果としてそこに現出するのは、あらゆる境界や障壁を超えた愛とリスペクト。これは先述した田中琴乃さんも同じでしょう。「いい勝負だった!」というだけでなく「ここにはいい世界がある!」と感じさせる、その魂に私は深く敬意を表したい。

産業化された「知的興味」の既存文脈を揺さぶるアクションを

パラリンピック紹介番組はだいたい「この感動を、社会の共生化推進でどう活かすか、それは私たち観客の在り方にかかっています」みたく締められてて、具体的には街中のあれこれのバリアフリー化に対する理解・認識アップみたいな話につながることが多いけど、私としては「たとえば花岡伸和さんのトークをしばらく聞けなくなるのが寂しい。パリって3年後ですか。えーなんとかしたい」みたいなのがあって、何か即できるわけではないものの、考えてしまうのです。それは単に彼がどこか目立つ場所に引きつづき登場すればいいという話ではない。適切な文脈と状況がセットされた上でなければ、そもそも意味ないし楽しくないし。で、そのためにも、産業化された「知的興味」の既存文脈がいろいろなかたちで揺さぶられることが望ましい、と思うのです。そのアクションの末端では何かやれるかもしれない。そうか。それが「私にできること」のひとつなのか。切り口というのは人それぞれだ!

……というのが今回のお話ですが、最後にセルフ広告です。

池上彰さん、増田ユリヤさんと私が「現状ドイツってどうよ?」と語り尽くす対談本『本音で対論! いまどきの「ドイツ」と「日本」』がPHP研究所さんから出ました。日本社会にあふれるドイツ礼賛/糾弾の言論って、だいたい構成パーツはそれなりに言えてる内容だけど結論が極論ぽくまとめられがちで、なんだかなぁという感じになってしまう。しかもそういうのがやたら目立つし。もっと思考材料からうまくダシを取りながら、是々非々で議論し吟味しましょう!という路線の本です。

『本音で対論! いまどきのドイツと日本』池上彰、マライ・メントライン、増田ユリヤ/PHP研究所
『本音で対論! いまどきの「ドイツ」と「日本」』池上彰、マライ・メントライン、増田ユリヤ/PHP研究所

池上さん、増田さんが70年代からゼロ年代あたりまでの日本人的な「ドイツ」イメージを繰り出し、それを私がひたすら受けるという情報の千本ノックみたいな展開ですが、世代間対話的な面もあって興味深い。世代といえば社会的な既得権をめぐる呪いの応酬に収斂しがちなSNS言論とは違う空気がそこにあるというか、こういう面でやはり紙媒体的な「論」の空気はいいな、と感じる瞬間が多かったです。

そんな感じで、どうぞよろしくお願いいたします!


この記事の画像(全3枚)




この記事が掲載されているカテゴリ

CONTRIBUTOR

QJWeb今月の執筆陣

酔いどれ燻し銀コラムが話題

お笑い芸人

薄幸(納言)

“ラジオ変態”の女子高生

タレント・女優

奥森皐月

毎日更新「きのうのテレビ」

テレビっ子ライター

てれびのスキマ

⾃⾝の思想をカタチにする「FLATLAND」

アーティスト・モデル

森田美勇⼈

お笑い・音楽・ドラマの「感想」連載

ブロガー

かんそう

「BiSH」元メンバー、現「CENT」

アーティスト

セントチヒロ・チッチ

ドラマやバラエティでも活躍する“げんじぶ”メンバー

ボーカルダンスグループ

長野凌大(原因は自分にある。)

“永遠に中学生”エビ中メンバー

アイドル

中山莉子(私立恵比寿中学)

最新ニュースから現代のアイドル事情を紐解く

振付師

竹中夏海

平成カルチャーを語り尽くす「来世もウチら平成で」

演劇モデル

長井 短

子を持つ男親に聞く「赤裸々告白」連載

ライター・コラムニスト

稲田豊史

頭の中に(現実にはいない)妹がいる

お笑い芸人「めぞん」「板橋ハウス」

吉野おいなり君(めぞん)

怠惰なキャラクターでTikTokで大人気

「JamsCollection」メンバー

小此木流花(るーるる)

知らない街を散歩しながら考える

WACK所属「ExWHYZ」メンバー

mikina

『テニスの王子様』ほかミュージカル等で大活躍

俳優

東 啓介

『ラブライブ!』『戦姫絶唱シンフォギア』ほか多数出演

声優

南條愛乃

“アレルギー数値”平均の約100倍!

お笑い芸人

ちびシャトル

イギリスから来た黒船天使

グラビアアイドル/コスプレイヤー

ジェマ・ルイーズ

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。