苦しみを苦しさとして残したまま漂う
その「時の流れの向こうに残してきた人々」の中でも映画の中で重要な人物が、ジュゼップの旧知の人物エリオスだ。エリオスは憲兵の不条理な振る舞いに反抗したため、見せしめに杭に繋がれ絶命する。老セルジュが自室に飾っている男のスケッチは、『強制収容所』が完成したとき、書籍とともにセルジュのもとに送られてきたものだった。
このようにこの映画は、まず孫と祖父セルジュの会話から、そこには存在しないジュゼップが召喚される。その点で孫が途中で「祖父がジュゼップ本人ではないか?」と勘違いしかけるくだりは興味深く、そのとき、老セルジュはジュゼップを“降ろしていた”とも解釈できる。そしてジュゼップが召喚された結果、死者であるエリオスもまたそこに呼び出されることになる。
エリオスを埋葬した、ジュゼップとセルジュの中だけで共有されている彼の姿。それだけではただ個人的な記憶に過ぎない。エリオスはただ過去に取り残されているのである。しかしエリオスが呼び起こされ、その絵がセルジュの孫に渡されたことで意味合いが変わってくる。エリオスの姿は最終的に、公に開かれ、ジュゼップとセルジュの記憶から、「わたしたちの記憶」へと受け継がれることになる。それは1939年に男が死んだという事実が、「時はどこから来てどこへ流れてゆくのか。それは何かを浄化してくれるのか。それとも、苦しみを苦しさとして残したまま漂うのか」という問いとなって私たちに突きつけられるということでもある。
片渕監督が書いた「苦しみを苦しさとして残したまま漂う」というのはつまり「残念(残恨の思い)」があるということだ。観客はジュゼップのスケッチから、それを受け取ることになる。
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