マライ・メントラインプロフィール中の〈「エンタメ途上国」ドイツへの視線は自然に厳しくなるとも言える〉。この一文に、ネット上で興味深い反応があった。そこでマライの脳裏に改めて浮上した命題は「ドイツはなぜ『エンタメ途上国』なのか」。今回のクイックジャーナルは「シン・エヴァンゲリオン考察」を端緒として、ドイツ「文学の法王」と呼ばれた人物の去就に及ぶ。
きっかけは「シン・エヴァンゲリオン考察」
意味はありませんが、今回は「です・ます調」文章でいきます。
先日、『女子SPA!』というWEB媒体に「ドイツ人が見た『エヴァンゲリオン』のヒロイン像。アスカがしんどい」という記事を書きました。
ぱっと見、ドイツ考証的にエヴァの重箱の隅をつつく内容のように見せかけて実はそうでもない、というプチ罠みたいな記事で、編集担当はこの『QJWeb』と同じアライユキコさんでした。アライさんどうもありがとうございます。
……という背景に甘えてココに書くわけですが、当該記事、中には意表を突いたトコに目をつけておもしろい好奇心のふくらませ方を見せる感想もあったりします。
その最たるものがこの『【メモ】「ドイツはエンタメ途上国」(マライ・メントライン)…という話について考える』というgryphon氏のはてなブログ記事で、ぶっちゃけマライ氏のエヴァ考察記事本体じゃなく、最後に載ってる筆者プロフィールにある「エンタメ途上国ドイツ」という文字列に触発された考察だったりします。
だがそれがいい!
ありがちでなく知的でおもしろい考察の材料になるのなら全然アリっしょ、というのが私的ルールです。
というわけでまずは皆様、gryphon氏の記事を読んでみてくださいませ。
(ここで読み読みタイム!)
文芸批評家マルセル・ライヒ=ラニツキとは?
まず目について気になるのが、マライ氏の発言にある〈ドイツ文壇に長らく君臨していた「ハイカルチャー文学をエンタメ的に紹介する達人」とは何者なんだ? そんな奴いるのか?〉というトコでしょう。はい、これはドイツ文学関係でプロ度の高い人ならおそらく名前を耳にしたことぐらいはあるだろう、「文学の法王」の異名を取った文芸批評家マルセル・ライヒ=ラニツキのことです。
ライヒ=ラニツキはポーランド生まれのユダヤ人で、両親はナチのホロコーストの犠牲となり、自身も戦時中にワルシャワ・ゲットーから脱出して九死に一生を得たりしています。そんな人物が、なぜわざわざドイツ文芸界に君臨?という数奇な人生の物語はジャンル無用にあまりにもおもしろく、彼の自著である『わがユダヤ・ドイツ・ポーランド:マルセル・ライヒ=ラニツキ自伝』に活写されております。

自伝だから彼にとって都合の悪いことはカットされたり捻じ曲げられたりしているのだろうけど、もし仮に8割ウソだとしてもなおおもしろく圧倒的に価値がある!と言い切れてしまう超絶本です。いろんな書き物に通じる話ですが、やっぱ最終的に重要なのは人間観察力の鋭さと滋味深さ、そして文章の色気と言霊力ですよ。柏書房の日本語版はそのへんをも十二分に汲み取った翻訳が素晴らしく是非オススメなのだけど、知ってる人は少ないのだろうな。残念過ぎるぞ。
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