物語は終わって、社会が始まる──『シン・エヴァンゲリオン劇場版』から考えたこと

2021.4.12

文=TVOD 編集=森田真規


2020年1月、20年代の始まりに『ポスト・サブカル焼け跡派』という書籍を上梓した1984年生まれのふたり組のテキストユニット、TVOD。同ユニットのパンス氏とコメカ氏のふたりが、前月に話題になった出来事を振り返る時事対談連載の第5回をお届けします。

今回は、3月8日に公開された『シン・エヴァンゲリオン劇場版』に始まり、呉座勇一氏がツイッターの鍵アカウントで北村紗衣氏を誹謗中傷していた問題について触れつつ、「大人になる問題」について考えていきます。

※この記事は映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のネタバレを含んでいますのでご注意ください。

『シン・エヴァ』と「大人になる問題」

コメカ TVODが3月を振り返ります。まず、3月8日に公開された『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の話をしたいなと。まあもう各所でいろんな人がいろんな角度から言及している本作ですが……とりあえずTVOD的には、「大人になる問題」みたいな論点で話をしたいなと。前回の菅長男の話からもちょっと連続性を帯びるわけですけど(笑)。

追告 A『シン・エヴァンゲリオン劇場版』

パンス またその話に! TVODのふたりってエヴァ直撃世代なんですが、僕はリアルタイムだとさほど観ていなかったんですよね。なのに今回は過去作も含めて観たりと、かなり熱心でした。庵野秀明の過去インタビューも読んだり、果ては今、江藤淳『成熟と喪失』を読み返しているところ。

コメカ 僕も実はリアルタイムからちょっと遅れて、ゼロ年代の頭ぐらいにテレビ版・旧劇版を観たんだよな。新劇場版は一応公開ごとにリアルタイムで観てるけど。だからふたりとも年齢・世代的には直撃なんだけど、“エヴァ・コンプレックス”はまったくない(笑)。なのでこの場でもいわゆる「成熟」観的な話に論点を絞って会話できればと思うんだけど……でも僕はこの最終作で提示された世界観は基本的には好きなんですよ。
ミサトの最終的な行動=「大人の責任の取り方」が、『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』オマージュの特攻・玉砕になってしまうのはどうなんだろうとか、いろいろ思うところはあるんだけど。ただ、「一歩踏み出して『他者』と出会っていくしかないんだ」というビジョンが、かつての悲観的なかたちとは違う描き方で提示されたこと自体は肯定的に受け止めたいと思った。

Character Promotion Reel 葛城ミサト 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』

パンス 僕も同意。いろんな人の感想を読んでも、「成熟」に至ったという評価が多いよね。観る側も26年間並走するようにして成長していったというのもあり。碇ゲンドウが驚くほど素直に自己を吐露するのがおもしろかったな。ゲンドウによるツイッターのツリーを読んでいるような気分になった。

コメカ 連ツイって感じで(笑)。ゲンドウが結局、実質的には独白だけで自己開示と退場をすませてしまったり、シンジも劇中で急激に内面が成長してしまったり、ストーリーテリングとしては相変わらず歪なんだけども。でも、(女性キャラクターたちを「他者」として描き直した上で)母子癒着というオブセッションから本気で脱却しようとしている意志は伝わってきた。個人的には、アスカがかつてのシリーズとは違って自分の身体を(誰かのためのモノではなく)自分自身の手に取り戻している感があって、そこに感動したな。
まあただ、「「一歩踏み出して『他者』と出会っていくしかないんだ」というビジョンが、かつての悲観的なかたちとは違う描き方で提示された」とさっき言ったけど、庵野の基本的な姿勢自体はだから昔と変わってないと思うんだよね。「ひきこもり」的思想が反映された作品としてエヴァは引き合いに出されることが多いけど、テレビ版のラストにしても旧劇版のラストにしても、そこから脱して「他者」と出会うためのプロセスを変奏しつづけていたと言えるわけで。それをようやくきれいに描くことができた、ということだよね。

パンス 人類補完計画はできなくなっちゃうわけだけど、むしろここから「大人」の生活が始まるわけよね。そういう可能性の残し方をしているのがよかったな。そして、大人になる経緯を描くのにここまで物語を積み重ねていったんだなあという感慨がある。それだけ、現代の社会を生きる人にとって大きなテーマなのかと。
物語は終わって、これから「社会」が始まる。前半の「第3村」の描写も興味深かった。協同社会みたいな場所になってるのよね。そこで綾波レイが人々と出会ったりする。思い出したのは村上龍『五分後の世界』に出てくる「アンダーグラウンド」だった。太平洋戦争が「終わらなかった」世界で、地下で戦争を継続する人たちが、理想的な、近代的な主体を確立した日本人の姿として描かれる。「第3村」は反面、前近代的、母性的な共同社会だな。たしか庵野は『ラブ&ポップ』(1998年)のころ『クイック・ジャパン』のインタビューで、『五分後の世界』を撮るのも考えたけど無理だったって話していた。

コメカ 自分の自意識の世界/もしくは「母」による承認に満たされた世界、つまり違和も齟齬もない甘やかな世界から外に踏み出して、対等な相手としての「他者」と共に共同性を作る努力をするっていう、まあ本当に古典的な問題系に辿り着くと……。

鍵アカコミュニケーションは「私的」なのか?

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