なぜ昔のたけしはOKで今の松本人志はNGなのか。『ワイドナショー』へのインテリ業界の反発から考えるこの国の「道理」

2021.3.7


いつの間にか「高級品」になったビートたけし

時に『ビートたけしのオールナイトニッポン』(またはそれに類する疑似知的コンテンツ)の何が超魅力的だったのか、について、実際にリスナーだったアラフィフ層の知人たち(そう、私の知人はオヤジが多いのだ)に訊いてみた話を総合すると、「ギャグのはずなのに、凡人がありがたがっている世間的通念よりも遥かに新鮮かつ強力な「道理」がそこにあるように感じられたから」という感じになる。

興味深い。
1983年にドイツで生まれた私は、北野武という人物をまず「日本が生んだ天才的な映画監督」として認識し、実際にその作品を観て感じた印象は、先述のアラフィフ知人たちが『オールナイトニッポン』を聴いて感じたものに極めて近い。ただ「お笑い」でないだけだ。

そう、ビートたけしはいつの間にか「高級品」になっていった……そうだ。『オレたちひょうきん族』(フジテレビ)とか『ビートたけしのお笑いウルトラクイズ!!』(日本テレビ)とかをゲハゲハ笑いながら楽しんでいた層にとっては、意識の底流で何やら複雑な渦が湧く展開だったかもしれない。
そしてそれは、松本人志が妙に叩かれることとも何か関係しているかもしれない。というか、そう感じさせる何かがある。ちなみに松本人志もアート実験的な映画を作って、そして妙に叩かれた。個人的に彼の映画には、賛否紛糾覚悟の上でのイケてる発想や感性が濃厚に感じられて、一般的世評よりは遥かに上質な作品だと思っていたりする。

ここで私は思い至る。
松本人志を叩く層の中心が、若者ではない、1980~90年代的な原体験の記憶を引きずりながら葛藤したりドヤ顔するグループ、年少期に『機動戦士ガンダム』を観てファンになり、今『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を観て「うん、コレよコレ」とか言ってるような、ガンダムと共に育った的な世代の人っぽいという点こそ重要な気がする。おそらく松本人志叩きというのは、アラフィフ的な自己主張の延長を主旋律とする、さまざまな呪力が織り込まれた「戦い」なのだろう。一概に悪とは言えないが善とも言い難い、ような。

映画監督・北野武デビュー作『その男、凶暴につき』Blu-ray/バンダイビジュアル
映画監督・北野武デビュー作『その男、凶暴につき』Blu-ray/バンダイビジュアル
映画監督・松本人志デビュー作『大日本人』Blu-ray/よしもとアール・アンド・シー
映画監督・松本人志デビュー作『大日本人』Blu-ray/よしもとアール・アンド・シー

カリスマ的なYouTuberたち(HIKAKINではなく)

……なるほど、と私の中のある部分が納得する。
しかし他方、別の部分は納得しない。

話が現代日本のアラフィフ世代の成長記(あるいは低成長記)でまとまり切ってはダメなのだ。
アラフィフたちの若いころ、ビートたけしが彼らの感性に新鮮な刺激を与えたなら、今の若者の感性に松本人志が強力な刺激を与えているのか、といえば極めて疑わしい。もちろん影響力ゼロではないだろうけど、間違いなくメインストリームではない。

80~90年代の若者と今の若者を取り巻く状況の違いはいろいろあるが、たとえば情報環境の差は大きい。今は、最初から「正解っぽく見える」情報がそこら中に転がっており、それらの取捨選択をいかに巧みに効率よくやってのけるか、ということが日々を生きるための思考の第一義となっている。もちろん老いも若きもそういう状況下にあるわけだが、「最初からそういう環境だった」世代はやはり違う。そもそも「思考」の定義そのものがアラフィフとは根本的に違うかもしれない。

そんな彼ら、現代の若者に対して新鮮な知的刺激を効果的に与えているのは、動画の世界に君臨するカリスマ的なYouTuberたちだ。これは定説の受け売りではなく、実際に、リスナー参加型の配信番組をいろいろと観た上での結論であり、自分で言うのもなんだけど確度は高い。

YouTuberといえばHIKAKINなんかは全方位・全世代向けの演出を施しているためキャラづけがわかりやすく(受け入れられやすく)世間的にも著名だけど、私がこの場で述べているのは、もっとハードコアな配信者たちのことだ。

彼らはカジュアル世相語りとかお悩み相談とかをやるのだが、もともとの起点は
この情報過多な世界をどう生きていきゃいいんだ?
という疑問と葛藤であり、そこから生じた言霊を加工精製しながら現在の地位を形成している。
(いうまでもなく、若い配信者にその傾向が顕著に窺える)

ぶっちゃけヤバい予感しかない


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マライ・メントライン

翻訳(日→独、独→日)・通訳・よろず物書き業。ドイツ最北部、Uボート基地の町キール出身。実家から半日で北欧ミステリの傑作『ヴァランダー警部』シリーズの舞台、イースタに行けるのに気づいたことをきっかけにミステリ業界に入る。ドイツミステリ案内人として紹介されたりするが、自国の身贔屓はしない主義。というか..

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