「視点」と「語り」の問題
『FUNAN』がコントロールの効いた力作であることは間違いないが、実際に起きた出来事を個人の視点だけで語ることに限界があるということも事実だ。そもそも映画という時間がリニアに進行するメディアでは体験の“物語化”も避けられない。『FUNAN』は安易な物語化を避けるためであろう、非常に抑制された語り口で進行するが、しかしそれでもある程度“整理”されているのは間違いない。
福間良明の『「反戦」のメディア史 戦後日本における世論と輿論の拮抗』(世界思想社)を読むと、戦争体験を記録に残し、伝えていく過程で、やはり「視点」と「語り」の問題が浮上していることがわかる。
同書はひめゆり学徒隊の手記を集めた『沖縄の悲劇』を編んだ仲宗根政善や、『きけ わだつみのこえ─日本戦没学生の手記』を論じた安田武を例に挙げてこのように語っている。
仲宗根政善が『沖縄の悲劇』を編む中で強く意識していたのは、戦場体験の多様性・錯綜性であった。同じ戦場、同じ壕にいたとしても、その極限状態では個々人によって体験は異なる。なおかつ、それは当人のなかでさえ、何か一貫した流れを持つものではなく、断片的に切断されたものの集合でしかなかった。(略)安田はその『戦争体験への固執』を戦後派・戦無派から批判されながらも、頑なにそのスタイルを守り、戦争体験の語りがたさやその心情の複雑さを語ろうとした。(略)
『「反戦」のメディア史 戦後日本における世論と輿論の拮抗』福間良明/世界思想社
仲宗根や安田が『語りがたさ』に固執するなかで抱いていたのは、戦争体験がわかりやすい物語に回収されることへの拒否感であった。
同書はこのあと、映画『ひめゆりの塔』の第1作〜第3作では劇映画という範疇の中ではあるが、戦場の多様性・錯綜性を描こうと試みていたことに触れている。
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