大坂なおみ、森且行、新庄剛志、羽生結弦…2020年スポーツ「ヒーローインタビュー」ベスト10

2020.12.30

1月12日 桃田賢斗(男子バドミントン)

「自分が最強だとは思っていないが、去年ワールドツアーファイナルズで優勝したこともあって、自信を持っている」
(マレーシア・マスターズ優勝後のコメント)

まだ日本国民がコロナの恐怖に気づいていなかった今年1月。「東京オリンピック金メダル大本命」と言われた桃田賢斗が「五輪イヤー初戦で優勝」という好発進を遂げた際の言葉だ。コメントからも、金メダルへ向け死角なし!と思ったこの数時間後、命も落としかねなかった交通事故に遭遇し、オリンピックどころではない、という緊急事態に。もっとも、その後は日本全体が「オリンピックどころではない」状況になっていくのだが……。

心配された桃田は事故から11カ月後の今月、全日本総合で実戦復帰し、見事に優勝。「今日のレベルじゃまだ『柱』になれないなと思うんですけど、『感謝の呼吸』は披露できたかな」と、まさかの『鬼滅』コメントで復活をアピールしてみせた。桃田の事故でドキリとして始まり、桃田のコメントでニヤリとさせられた一年となった。

3月1日 大迫傑(男子マラソン)

「(最後の)直線に入った瞬間に記録を切れるとわかった。最高の直線だった」
(東京マラソンで自らの日本記録を更新したあとの言葉)

コロナの影響が少しずつ出始めたこの時期、東京マラソンも一般ランナーの出場は急遽中止に。そんな緊張感のある大会で、ある意味、追い込まれた立ち位置にいたのが大迫傑だった。2019年9月のマラソングランドチャンピオンシップで東京五輪代表内定を逃し、最後の一枠をかけた瀬戸際の大会だったからだ。

にもかかわらず、30キロ手前で一度遅れ、第1集団からも離れる絶体絶命の状況……と思いきや、そこから先頭の日本人集団を一気に抜き去る劇的展開で、自身の持つ日本記録を更新する2時間5分29秒をマークしてフィニッシュ。五輪代表内定も勝ち取る最高の結果となったのだった。

そしてここから、スポーツ界は空白の3カ月間を迎える。

6月19日 栗原陵矢(プロ野球・福岡ソフトバンクホークス)

「ファンの皆さんがいないのは少し寂しいですけど、勝ててよかった/テレビ越しではあるんですけど、たくさん応援していただいていることを感じていますし、開幕戦、勝利できて本当によかったです」
(3カ月遅れの無観客開幕戦でのヒーローインタビュー)

当初の予定から3カ月遅れでついに開幕したプロ野球。スポーツなんてとても無理だ、という危機的状況から、なんとか無観客での開催にこぎつけることができた。

それだけに、開幕戦のヒーローインタビューはそれぞれ格別だったが、今年を象徴する、という意味ではソフトバンクの栗原だろう。初の開幕スタメンに抜擢された試合でサヨナラヒットを放った栗原は、この半年後の日本シリーズでMVPを獲得。今年のプロ野球は栗原で始まり、栗原で終わった、と言っても過言ではなかった。

ちなみに、日本シリーズMVP受賞後のコメントは「皆さんに元気を5倍、10倍、50倍、元気100倍アンパンマン!」……こちらは選外です。

7月10日 谷保恵美(千葉ロッテマリーンズ専属アナウンス)

「ご来場のファンの皆様、ZOZOマリンスタジアムにおかえりなさい! 皆様のお越しをお待ちしておりました」(有観客試合初日、プレーボール前のひとコマ)

それまでの無観客開催から、一般入場を限定的(5000人)ながらも解禁したこの日は「プロ野球第2の開幕」としても大きな注目を集めた。そんななかで印象深かった言葉が“マリンの声”谷保さんのアナウンスだ。「ヒーローインタビュー」としては語弊があるだろうが、2020年のスポーツ界を象徴する言葉として記憶に留めておきたい。

ロッテといえば、9月にチーム内で新型コロナ陽性者が続出。主力10選手以上が離脱する緊急事態になったことも2020年的出来事だ。このとき、チームを救うサヨナラ打を放った井上晴哉の涙ながらのヒーローインタビューがあったことも付記しておきたい。

9月13日 大坂なおみ(女子テニス)

「あなたが受け取ったメッセージはなんでしたか? メッセージをあなた方がどのように受け取ったかに興味があります。私のマスクを見て話し合いが起きればいいです。いろいろな人がこのことを話題にしてくれればうれしい」
(全米オープン優勝後のインタビュー)

今年、コートの中でも外でも世界から注目を集めた存在といえば、全米オープンでの大坂なおみだ。決勝戦は第1セットを落としてからの逆転劇。「過去25年間、全米決勝で第1セットを落とした選手の逆転勝ちはゼロ」というジンクスを吹き飛ばしたところに精神的な成長を感じた大会だった。

そして、プレー以上に脚光を浴びたのが試合前のマスク姿だ。上述したコメントは、優勝インタビューで「マスクを通して伝えたかったメッセージは?」という質問に対して答えたもの。黒人差別抗議のため、この大会では1回戦から黒のマスク姿で入場。優勝まで7試合あることから、犠牲者の名前が記されたマスクを7枚用意し、試合ごとに1枚ずつ披露。すべてのマスクを世界に向けて発信し、議論を巻き起こしてみせたのだ。

一流と超一流の差は、見るものの人生観までも変えられるかどうか。その意味でこの優勝インタビューは、大坂なおみが世界的なスーパースターに駆け上がった瞬間だった、といえるのではないだろうか。

『CNN ENGLISH EXPRESS 2020年 12月号』(単独生声インタビュー 大坂なおみ選手)/朝日出版社
『CNN ENGLISH EXPRESS 2020年 12月号』(単独生声インタビュー 大坂なおみ選手)/朝日出版社

中村憲剛、クリストフ・ルメール、新庄剛志、羽生結弦

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