高田文夫の回転数
誰しもが言うけど、ここ2年ほどの高田文夫さんのテンション、スピード感はすごいことになっています。
現場の経験と知識を圧倒的に持っている人だけど、けっしてあのころはよかったと懐古的にならないところが素晴らしい。常に情報を刷新していくスタンスは、永六輔さんを上回っていると思います。
しゃべっているだけで、その場が「お祭り」になるから、いろいろな人が慕ってくる。今度、『よみがえる明治座東京喜劇』という公演のプロデュースもされるけど、それも楽しみ。明治座ってのが、いい(2021年1月末には古今のギャグをまとめた『ギャグ語辞典: ギャグにまつわる言葉をイラストと豆知識でアイーンと読み解く』が誠文堂新光社から発売。筆者もちょっと参加しています)。
女性芸人の時代
いまほど女芸人、コメディエンヌの質が高く、数も多い時代はないですね。
友近という別格の天才のほかに、ゆりやんレトリィバァ、渡辺直美、横澤夏子、相席スタートの山崎ケイ(この間、なんと噺家と結婚)、阿佐ヶ谷姉妹、馬場園梓、尼神インター、吉住なんていう才能がそろっている。
2020年に出てきたという意味では、ラランドのサーヤがやっぱり新しい。女芸人は容姿をイジり(イジられ)、自虐含めてネタにする古さをなかなか脱却できないけど、サーヤは初めからそこに無関係だし、ほかの女芸人に「それがやりたいことなの?」と煽動するクリアさもいいです。
ほかには、大阪の一卵性双生児姉妹コンビ、Dr.ハインリッヒの漫才がおすすめ。スタイリッシュなビジュアルも格好いい。
ネットの時代の才能だと思うのは丸山礼。女子あるあるや韓国ドラマのパロディネタなんかをYouTubeで発信しています。いるいる、こういう人、と思わせる切り取りの巧さ。そしてどこか病んでいるのが当世流です。
最後の名人、野村萬
と、つらつら話してきましたが、私が今、最も見るべきだと思っているのは野村萬の至芸です。1930年生まれの狂言師。この人が能、歌舞伎、落語含め、現役の芸人のうちで最も巧い人だと私は思っています。
よく「(桂)文楽、(古今亭)志ん生を聴いた至福」を演芸ファンは言います。私は文楽、志ん生に間に合っていませんが、文楽の代わりに野村萬を観たと、はっきり言えます(じゃあ志ん生は誰かというと、観世榮夫を思い出します)。折り目正しさと、語の本来の意味でのユーモア。おかしみを雰囲気ではなく、圧倒的な技術を通して現前させること。これほどの狂言師はほかにいません。
「木六駄」や「清水座頭」、「釣狐」の猟師、「萩大名」などが絶後の名演でしたが、この間観た「清水」の、水の汲み方を教えられた太郎冠者が苦々しげに「知っています」というひと言の粛然とするほどの深さ。
90歳を越えた野村萬は、今、能楽堂で観ることができます。ぜひ検索をして足を運んでみてください。