シャムキャッツ解散に感じる、時代の空気が変わる瞬間への戸惑い(トリプルファイヤー吉田靖直)
2020年6月30日、2010年代の東京のインディーズ・シーンを代表するバンドのひとつ「シャムキャッツ」が解散を発表。昨年にデビュー10周年を迎え、バンド結成から十数年が経とうとする今このタイミングで活動を終えるというニュースは多くの音楽ファンを驚かせた。
同じく東京のインディーズで長く活動しているバンド「トリプルファイヤー」のボーカル・吉田靖直は、この解散に「時代の空気が変わる瞬間に立っているような気分に少し戸惑っている」と記した。
私は今後一生、春になると「GIRL AT THE BUS STOP」を聴きたくなるだろう
シャムキャッツが解散した。
私もバンドをそれなりに長い間やっているので、これまでいろんなバンドが解散したり活動休止したりするのを見てきたが、ここにきてのシャムキャッツの解散は個人的にインパクトが大きかった。
ドラムの藤村さんとは「昆虫キッズ」というバンドをやっていた高橋翔さんの共通の友人として知り合い、今でもたまに飲みながらいろんな話をする。藤村さんは以前は酔っ払うと握力で私の腕を握り潰そうとしてくるので嫌だったが、最近は普通に話を聞いてくれるようになった。
シャムキャッツと私のバンド自体はあまり付き合いがなかった。フェスや往来イベントなどで一緒になることはあったが、ライブハウスの普通のイベントで対バンしたことは一度もなかったと思う。まわりのバンド友達は皆シャムキャッツと仲よくしていた。友達の友達のような関係性だ。
シャムキャッツの存在は10年以上前、私が大学生のころから一方的に知っていた。当時、サークルの先輩が所属する「オワリカラ」というバンドが勢いのある若手バンドを集めて作った『TOKYO NEW WAVE 2010』というコンピレーション・アルバムに彼らも参加していた。私のバンドは勢いがなかったので当然お呼びがかかることもなく、なんか楽しそうでいいなあ、とうらやましく思いながらその盛り上がりを遠目に見ていた。
『TOKYO NEW WAVE 2010』に参加するバンドの多くはライブハウス「秋葉原グッドマン」で活躍していたようなオルタナ系で、音が大きくて当時流行していたポストロック的なブレイクなんかも多用していた。その中で、ペイヴメント風で力の抜けたシャムキャッツの存在感は異質だった。今だとシャムキャッツ的なテンションのバンドはたくさんいるが、当時の若手で彼らのような雰囲気を持ったバンドは私の知る限りほかにいなかった。
その後、シャムキャッツは活躍の場をどんどん広げていった。しかし私は彼らの曲をほとんど聴いていなかった。みんながいいと言っているわりと身近なバンドをなんとなく聴きたくない時期だったのだ。もしハマったら影響を受けてしまいそうで嫌だったし、人気のあるバンドへの嫉妬も混じっていたかもしれない。まあ、普通に何曲かチラッと聴いたことはあったが当時の自分はそこまでハマらなかった。
しかしそれから5年ほど経ったある日、当時公開されたシャムキャッツの「GIRL AT THE BUS STOP」という曲のMVをバイト中に流し聴きしていたらあまりに良過ぎて数週間頭から離れなくなってしまった。すべてのパートの演奏もフレーズも、歌詞も歌い方も、曲に一体化していて、それ以外のものが想像できないくらい素晴らしい作品だと思った。
当然、現在の私はシャムキャッツにいい曲がたくさんあることを知っているが、そのときはまだ「GIRL AT THE BUS STOP」以外の曲をほとんど知らなかった。それでも、仮にいい曲がほかにひとつもなかったとしても、この曲を世に残しただけでバンドが存在した意味はじゅうぶんにあると言えるほどすごい曲だと思った。
私は今後一生、春になると「GIRL AT THE BUS STOP」を聴きたくなるだろう。そのときバイトしていた職場の風景なんかも思い出すだろう。そんなふうに自分の人生と切り離せない曲を残せるバンドはそう多くない。
シャムキャッツの解散とほかのバンドの解散とではまったく意味が違った
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