世界で進む「性的同意」の議論。俺たち男はその意味を理解できているのか(清田隆之)

2020.5.26


グレーゾーンで横行する男たちの強引な態度

そもそも「性的同意」とはどういうものなのか。たとえば刑法性犯罪の改正に取り組む一般社団法人Springが発行しているパンフレットにはこのような説明がなされている。

相手の同意のない性的言動は性暴力です。国連は、身体の統合性と性的自己決定権の侵害を性暴力として定めています。
「性的自己決定権」とは、いつ、どこで、誰と性関係を持つのかを決める権利です。これは、すべての選択肢をお互いが十分に把握し、その瞬間の自由な意思に基づいて同意や拒否ができるときに発揮されます。同意がなく、対等性がなく、自分の意思を無視され、望まない行為を強要される時、人は深く傷つきます。性暴力とは、決して許されない人権侵害なのです。

『見直そう!刑法性犯罪』 冊子PDF - 一般社団法人 Spring

性的な行為はとてもデリケートなコミュニケーションであり、一歩間違えると心身に深い傷を与えかねない。だからお互いがじゅうぶんに納得した上で行為に臨むことが大切だし、相手の嫌がることは絶対にしてはならないし、たとえ行為中であっても、一方が恐怖や違和感を抱いたら即刻ストップされるべきだと思う。性行為の際は言葉だけでなく、身体から発する微細なサインもきちんと拾われるべきで、性的同意とはそういうもろもろが保障された状態のことを指すのだと理解している。「性的同意年齢」とはこういった判断が可能な年齢のことになるが、それが13歳に果たして可能なのかというと甚だ疑問だ。

とはいえ、自分だってそのことをちゃんと理解し、実践できていたかと問うと、自信がなくなってくる。私がこれを明確に意識し始めたのは2017年の「#MeToo」ムーブメント以降で、それ以前は性的同意という概念の存在を知らなかった。

自分の過去を振り返ってみる。私が初めてセックスを経験したのは19歳のときだった。相手は当時付き合っていた恋人で、お互い初体験だったこともあり、トライしてから半年間はうまくできない状態がつづいた。彼女が「痛っ!」となったら即中止。こちらも怖いので無理強いはできない。場所が彼女の実家だったというのも慎重な姿勢に輪をかけていたと思う(娘の恋人を快く泊めてくれる寛大な両親だった)。「最初は指で広げたほうがいいらしい」とか「温めたほうが入りやすいみたい」とか、どこまで正しい知識だったかはわからないが、ふたりで情報収集するなどして試行錯誤を繰り返し、ようやく成功したときはちょっとした感動すらあった。

ただ、この経験を通じて自分の中にある種の“加害意識”のようなものがインストールされた実感もある。それは「挿入は相手に痛みを与える行為」という感覚だ。それ以来、私はセックスの際に「入れてもいい?」「痛くない?」と聞く癖がついた。「嫌われるのが怖い」という生来の性格も関係していたと思う。セックスでは男がスマートにリードすべしで、いちいち聞くのは野暮という考えに囚われた時期もあったが、性的同意という観点からしたら、これはこれでいいことなのかもしれない。

しかし一方で、恋愛相談の現場では「付き合っていない男性とセックスをし、そのことや、その後の関係のことでモヤモヤしている」という話を女性たちからわりと頻繁に聞くのだが、そのたびドキッとした気持ちになることが正直ある。よくある展開としては、合コンやアプリで知り合った男女が飲みに行き、酔っていい雰囲気になり、ホテルに行くか否かの話になる。女性側は「付き合ってないから」と牽制するも、収まりのつかない男性側が「ダメ?」とか「いいじゃん」とか言って粘り、なし崩し的に行為へとなだれ込む。それで連絡が途絶えたり、そのままなんとなくセフレっぽい関係になってしまったりして、モヤモヤした女性が我々のところに相談に来る──という展開だ。

この場合、男性側は明らかに言葉による同意を得ていない。最初に女性が言った「付き合ってないから」はNOのサインであるはずなのに、それをきちんと受け取らず、欲望の赴くまま振る舞ってしまっている。さすがに法律のライン(暴行や脅迫、抗拒不能といった)に触れているとは言い難いが、明確な同意の形成がなされていたわけではないので、「無理やり」とまではいかなくても、少なくとも「強引な態度」であることは間違いない。そして、このような話を聞くたびにドキッとした気持ちになるのは、自分にも身に覚えがあったからだ。

出会ってからセックスに至るまでのステップ意識

この問題を男性側から考えてみる。もちろんすべての男性に当てはまるわけではないだろうし、どこまで一般化していいかはわからないが、これまでインタビューさせてもらった男性たちの話や、自分自身の感覚などを合わせて考えると、おそらく男たちの中に「強引な態度」という自覚はない。むしろ「同意を得られたからセックスできた」という思いすらある。そのベースとなる感覚を、私は拙著『よかれと思ってやったのに──男たちの「失敗学」入門』(晶文社)の「何かと恋愛的な文脈で受け取る男たち」というコラムでこのように書いた。

この社会には「恋愛的なアクションは男性からするべきものであり、それを女性に受け入れてもらって初めて恋愛が前に進む」という考え方がまだまだ根深く存在しています。こういった価値観においては「男=お願いする側、女=お願いされる側」と位置づけられているため、我々男性はなんとなく“下”のポジションに置かれているような感覚を持ってしまいます。極端に言えば、男性は恋愛や性に関して、女性に「嫌がられること」や「拒否されること」がデフォルトという感覚を持っているような気がするわけです。

これは無意識レベルでの感覚かもしれませんが、私はこの影響がかなり大きいと考えていて、例えば女性側は何気なく褒めたつもりでも、男性側からすると「普通なら褒められるはずはないのに、わざわざ褒めてきたということは、俺のことをいいと思っているからではないか」という受け取り方になってしまったり、食事の誘いに乗ってもらえたら、それが仕事の打ち上げであっても、なぜか「1対1でご飯に行ってくれるってことは、俺のことを男として悪くは思ってないってことだよね?」という解釈になってしまったりするわけです。「何かと恋愛的な文脈で受け取る男たち」の心理的背景には、このようなメカニズムが働いているのではないかと考えています。

『よかれと思ってやったのに──男たちの「失敗学」入門』(清田隆之/晶文社)より

男性にとって、出会いからセックスに至るまでにはかなりの距離がある。進学塾の四谷学院が採用している「55段階」のようなステップをイメージしてもらうとわかりやすいかもしれないが、相手から個人として認識してもらえたら1段階、冗談を言って笑ってくれたら1段階、連絡先を交換できたら1段階、ふたりでご飯に行けたらもう1段階……と細かなステップを刻み、たとえば「酔っていいムードになっている」とか「ボディタッチがあった」などはかなりステージが進んだ感じがあり、「ホテルに行くかどうかの話になった」という段階はもはやゴール目前。かなり受け入れてもらえている感覚があり、それと「同意を得た」を錯覚してしまう──そんな構造が存在しているような気がしてならない。

もちろんこれらは極めて独りよがりな感覚であり、田房永子さんが「膜理論」と呼んでいる現象そのものだと思う。そこでは女性側からの遠回しのNOをYESに変換してしまったり、「付き合ってないから」という言葉を「ということはしたいって気持ちはあるんだな」などと解釈してしまったり……いわゆる“認知の歪み”と言われても仕方ない受け取り方が横行する。ましてや「同意」などでは決してない。

勝手に男性の共通感覚として述べてしまって申し訳ないが、俺たちは自分の中に根づいてしまっている感覚を今一度しっかり言語化し、自己点検すべきではないだろうか。相手の気持ちを完全に理解することはできないが、言葉による確認作業を行わないことにはその入口にすら立てない。また、体格差や腕力差を背景とする男女の非対称性も忘れてはならず、相手が穏便な態度を取っているのは恐怖心からかもしれない。そういうもろもろをすっ飛ばして「相手から受け入れられた」「同意はあった」などと考えてしまうのは、とても愚かで恐ろしいことではないだろうか。

なぜ女性の泥酔が「同意」の根拠になってしまうのか


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清田隆之

(きよた・たかゆき)1980年東京都生まれ。文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。早稲田大学第一文学部卒業。これまで1200人以上の恋バナを聞き集め、「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムやラジオなどで発信している。 『cakes』『すばる』『現代思想』など幅広いメディアに寄稿するほか、朝日新聞..

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