今こそ評価されるべき、“ぐっさん”こと山口智充の生き方(ラリー遠田)

2020.5.5

今注目される、山口智充というタレントの本質

“ぐっさん”こと山口智充は、昨今しばしばその標的になっている芸人だ。今年3月に『にじいろジーン』(関西テレビ)が終了したことで、地上波全国ネットのレギュラー番組が0本になった。かつてテレビで見ない日はないほどだったことを考えると、いかにも落ち目になってしまったように見える。いくつかのネット記事ではそのことが取り上げられていた。

最近、山口は立てつづけに全国ネットの番組にゲスト出演を果たした。そこに出ていた彼を見る限りでは、悲壮感はまったく感じられなかった。

4月24日放送の『ダウンタウンなう』(フジテレビ)では、ダウンタウンとの共演NG説まで流れていた山口がゲストで登場。ダウンタウン、坂上忍と軽快なトークを展開した。自身が落ち目であるという噂にも触れて、自分にはそのことで焦りや不安はまったくないと答えた。山口のことをよく知る松本人志も、それが彼の本音なのだろうと語った。

5月1日放送の『アナザースカイⅡ』(日本テレビ)では、山口が母の故郷である奄美大島を訪れていた。シーカヤックを体験したり、地元のコミュニティラジオに飛び入り出演したりしながら、自然との触れ合いや人々との交流を楽しんでいた。

この番組の中で、山口は自分がお笑い芸人だというこだわりは特になく、自分は「ぐっさん」という職業なのだと語っていた。この言葉に山口智充というタレントの本質が表現されている。

タレントとしてテレビに出始めると、否応なしに競争に巻き込まれてしまう。『M-1グランプリ』などの賞レースで順位をつけられ、そこで結果を出すと今度はバラエティ番組で新たな戦いが始まる。

何しろテレビに出られるタレントの数は決まっているのだ。いいコメントができるか、おもしろいネタができるか、視聴率が取れるか、レギュラー番組を増やせるかなど、さまざまな種類の競争が展開される。

もともと純粋に好きなことをやりたくて芸能界に入ったという山口には、そのような競争で他人を押しのけてまで勝ち上がりたいという欲がまったくなかった。そのため、信頼できるスタッフと共に、素のキャラクターを出してのびのびと仕事ができるような場所だけを求めて、そこを自分の拠点にしてきた。

地上波テレビの影響力は以前よりも落ちていて、YouTubeやNetflixなどの新たな映像プラットフォームが台頭してきている。トップクラスのYouTuberは、地上波テレビのレギュラー番組を1本も持っていないが、毎日のように動画を配信しつづけ、トップクラスのテレビタレントと同じくらいかそれを上回る収入を得ている。

かつては地上波テレビのゴールデンタイムが最も「地価」の高い場所だった。そこに冠番組という城を構えることがタレントの絶対的な目標になっていた。

だが、その土地バブルはすでに崩壊しつつある。タレントにとって重要なのは、既存のルールの中でどうやって出世するかではなく、自分らしくどう生きるかということになった。

自分の好きなことをきちんと理解していて、そこにこだわりつづけて芸能活動を行ってきた山口は、落ち目どころかむしろ伸び盛りである。レギュラー番組本数という使い古した物差しで人間を測るのはもうやめにしよう。その物差しではぐっさんやHIKAKINの本当の価値は測れないのだから。

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ラリー遠田

(らりー・とおだ)1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わ..

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