松本人志「俺はごめん、払いたくはない」発言、杉田水脈ツイートを「脂肪の塊」で考える

2020.4.13

文=豊崎由美 編集=アライユキコ


「水商売のホステスさんが仕事休んだからといって、普段のホステスさんがもらっている給料を、我々の税金で、俺はごめん、払いたくはないわ」松本人志『ワイドナショー』(フジテレビ)4月5日

書評家の豊崎由美は戦慄した。松本人志のこの発言を生んだ背景は、あの名作にそっくりじゃないか、今の状況にそっくりじゃないかと。今読むべき「脂肪の塊」をワイドにレビュー。


知らなくても恥ずかしくない

フランスの作家モーパッサン(1850〜93年)に「脂肪の塊」という有名な短篇作品があります。有名と言ったって、知らなくても恥ずかしがらなくて大丈夫です。なんたって、1880年に発表された古い小説ですから。

舞台となるのは、普仏戦争でプロイセンに敗北した1871年のフランスです。プロイセン軍が戦勝国としてルーアンの町を占拠。そんななか、知り合いのドイツ人士官のつてを辿り、町から出る許可を取りつけた人々が4頭立ての大きな乗合馬車を確保します。メンバーは、10人。
ワイン問屋を営んでいる、悪知恵が働くお調子者のロワゾーとその妻。
紡績工場を3つ所有している錦糸業界の重鎮にして県議会議員のカレ=ラマドンとその妻。
ノルマンディー地方でも屈指の名門に属しているブレヴィル伯爵夫妻。
修道女ふたり。
民主主義者として知られ、親の財産を革命のために食い潰したコルニュデ。
小柄な身体がどこもかしこも丸々としているから「ブール・ド・スュイフ」というあだ名がついている高級娼婦。

はい、タイトルヒロインの登場です。光文社古典新訳文庫で訳を担当している太田浩一さんは原作どおり表記していますが、トヨザキは旧訳の皆さん同様、以降、彼女のことを「脂肪の塊」と呼ぶことにします。

脂肪の塊
『脂肪の塊/ロンドリ姉妹~モーパッサン傑作選』太田浩一訳/光文社古典新訳文庫)


いわゆるリベラルな思想の持ち主であるコルニュデと、ロザリオを繰って祈ってばかりいる修道女コンビを除くメンバーは、「脂肪の塊」のことを「恥知らずな売女」と蔑んでいます。
ですが、ホテルがある村までの13時間にも及ぶ長旅で、食べ物を持参しなかった彼らは、「脂肪の塊」が持ち込んだ、おいしそうなものが詰め込まれた大きなバスケットを前に陥落。蔑みから媚びへと表情を変え、あからさまな手のひら返しをしてくる連中にも、「脂肪の塊」が快く食べ物を提供したおかげで、10人は一応フレンドリーな関係になっていくんです。

寝ますよ。寝なきゃしようがないもの


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豊崎由美

(とよざき・ゆみ) ライター、書評家。『週刊新潮』『中日(東京)新聞』『DIME』などで書評を多数掲載。主な著書に『勝てる読書』(河出書房新社)、『ニッポンの書評』(光文社新書)、『ガタスタ屋の矜持 場外乱闘篇』(本の雑誌社)、『文学賞メッタ斬り!』シリーズ&『村上春樹「騎士団長殺し」メッタ斬り!』..

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