松本人志「俺はごめん、払いたくはない」発言、杉田水脈ツイートを「脂肪の塊」で考える

2020.4.13


寝ますよ。寝なきゃしようがないもの

ところが、ホテルに投宿すると問題発生。その村を仕切っていたドイツ人士官が、「エリザベート・ルーセ(「脂肪の塊」の本名)が自分と寝ない限り、出立を許さない」と通達してきたんです。最初は「脂肪の塊」と共にドイツ人士官への怒りを露わにしていた面々ですが、日が経つにつれ態度を変えていきます。

「あの《売女》はわれわれをいつまでこんな場所に足止めさせる気だろう」「ブール・ド・スュイフひとりをここに残し、他の者は出発させてくれるよう士官に提案してはどうか」(ロワゾー)
「どんな相手とでもあれをするのが、あの淫売の商売でしょ。選り好みする権利なんかありませんよ」(ロワゾー夫人)

いきり立ったロワゾーが「あのあばずれの手足をしばりあげ、敵の士官に引きわたしてしまおう」とまで言うと、上品な伯爵は「あの女みずからその気になるように仕向ければいい」と計略を練り、歴史上に存在した「征服者をくいとめたあらゆる女の例を引」いて説得を試みるのですが、「脂肪の塊」は首を縦にふりません。

そこに参戦してきたのが、修道女。「どんな行いであれ、その意図さえ立派なものであるならば、神の不興をかうことはない」。おまけに自分たちがル・アーヴルに向かっているのは、天然痘にかかって入院している多数の兵士の看護を要請されたからで、「あのプロイセン士官の気まぐれによって、こうして足止めをくっているあいだに、多くのフランス兵が亡くなっていくのだろう」とダメ押し。
この圧! そりゃ、寝ますよ。寝なきゃしようがないもの。で、一同、大喜び。セクハラもパワハラもモラハラも軽口ならオッケー的な、ダメなおじさん代表ロワゾーの下品なジョークもバカウケ。

そんな連中に「言っておくが、あんた方は卑劣きわまりないことをしたんだ!」と叫ぶ民主主義者のコルニュデだってひどいもんです。「脂肪の塊」への説得に加わらなかったから、自分は無実だとでも? 下品なジョークに同調しなかったから、自分は清廉潔白とでも? 同じ穴のムジナです。
その証拠に、ようやく出発できた馬車の中、冷ややかな視線にさらされているばかりか、自分だけ用意してもらえなかった弁当をみんながムシャムシャ食べている様を見せつけられている「脂肪の塊」に、こいつは何ひとつ分けてやろうとはしません。他の者も同じです。

「思いやり」について考えたい

冒頭に、高須クリニック院長の高須克弥や作家の百田尚樹も同調するかたちで、ツイッターで炎上した松本人志の発言を置いていますが、その中の「水商売のホステスさん」が娼婦だとか、「脂肪の塊」と同じ犠牲者だとか、そんなことを思って、モーパッサンの作品紹介をしたわけではないことを、まずは念のために記しておきます。わたしが両者を並べたのは、「思いやり」について考えたいからなんです。
で、この松本発言と根っこで精神がつながっていると思うから、やはり引用しておきたいのが国会議員・杉田水脈によるツイート「これを機に外国籍の方に対する給付等はしっかり見直した方がいいと思います。 本来国民を保護するのは国籍がある国家の責任。日本に居る外国籍の方を保護する責任はそれぞれの母国にあります」(4月5日)です。

誰かの犠牲の上に成り立つ幸福は醜悪


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豊崎由美

(とよざき・ゆみ) ライター、書評家。『週刊新潮』『中日(東京)新聞』『DIME』などで書評を多数掲載。主な著書に『勝てる読書』(河出書房新社)、『ニッポンの書評』(光文社新書)、『ガタスタ屋の矜持 場外乱闘篇』(本の雑誌社)、『文学賞メッタ斬り!』シリーズ&『村上春樹「騎士団長殺し」メッタ斬り!』..

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