コロナ以降のエンタテインメント――固有の技術こそ最新テクノロジーで拡張するべきだ(川田十夢)

2020.4.6

通信速度やスマホの進化に、中身(コンテンツ)が遅れを取っている

4Gから5Gへ、通信は100倍ほど速くなる。通信制限さえなければ、3倍もあれば既存のコンテンツはじゅうぶん楽しめる。ボイスであれ、アニメーションであれ、LINEスタンプで使うデータ容量はたかが知れている。

スマホの進化だって止まらない。先日発表された新型のiPadには、LiDAR(ライダー)スキャナが搭載されている。LiDARとは“Light Detection And Ranging(光による検知と測距)”の略で、主に地質学やリモートセンシング、大気物理学などで用いられてきた技術だ。近年では自動運転車用センサーとしても注目されている。

具体的に何ができるというと、奥行き方向の情報が瞬時に計測できる。今まで画像としてしか捉えられなかった被写体をポリゴンデータ化するもよし、3Dモデルを現実に配置するもよし。特に虚と実を地つづきでつなぐ拡張現実的な一手として、筆者は注目している。

今年の秋に発表される予定のiPhone12にLiDARが搭載されることになれば、Googleや中国のスマホメーカーも追随せざるを得ない。要するに、加速する通信速度とスマホのスペックに対して、中身(コンテンツ)が大きく遅れを取っている状態なのである。

時代が抱える無理難題は、エンタテインメントで解決する

奇しくも時代は大転換期。新型コロナウイルス感染症の拡大以降、エンタテインメントのあり方が根底から問われている。冒頭に挙げたシルク・ドゥ・ソレイユを一時退団せざるを得なかった団員たち、その美しくも確かな固有の技術こそ最新テクノロジーで記録するべきだし、拡張するべきだ。

前述のとおり、技術はすでに持て余すほど進化している。LiDARスキャナひとつ取っても、過去のARが抱えたドリフト(配置したオブジェクトがぷるぷる震えたり意図せぬ方向へ勝手に移動してしまう現象)やオクルージョン(配置したオブジェクトに対する見え隠れ)などといった諸問題を、高い確率で解決できる可能性がある。

人混みの少なくなった世界の街角、あるいはテレワークの合間のデスクに、華やかなサーカス団を召還する。空中ブランコや道化師、現実のサーカスでは扱えなくなった象や虎などの動物たちが、乏しくなった人間の想像力を再び彩る。配置される度、元団員たちには芸の著作権あるいはギャランティーに相当する金額が入る。いつか新型コロナが終息した暁には、本物を生で観たい衝動に駆られる。人を呼ぶことができなかった劇場が、再び息を吹き返す。


  • 川田十夢『拡張現実的』

    発売日:2020年4月2日(木)※一部、発売日が異なる地域がございます
    定価:1500円(税別)
    発行:東京ニュース通信社
    発売:講談社
    全国の書店、ネット書店(hontoほか)にてご購入いただけます。


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川田十夢

(かわだ・とむ) 1976年生まれ。新しい本『拡張現実的』が発売中、開発者。AR三兄弟。公私ともに長男。毎週金曜日20時からJ-WAVE 『INNOVATION WORLD』が放送中、『WIRED』で毎号連載。『AR三兄弟の素晴らしきこの世界 vol.2』が7月30日に放送決定。音楽はトリプルファイ..

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