朝乃山、富山から111年ぶり大関誕生。強さを支える地元の胸熱スポットとは(ピストン藤井)
大相撲の春場所は、新型コロナウイルスの感染拡大を考慮し、史上初めて無観客で開催された。NHKでの中継は通常どおり放送され、声援のない会場での取り組みという独特の空気に戸惑ったファンも多かっただろう。
そんな異例な状況で11勝を挙げ、大関昇進を決めたのが朝乃山。まだ26歳になったばかりの若手力士だ。彼の出身地である富山県在住のライター・ピストン藤井が、地元の盛り上がりと、強さを支える意外なスポットを紹介する。
無観客の春場所で、令和初の大関昇進
相撲ファンや富山県民にとって、久々に明るいニュースが舞い込んだ。3月22日、無観客で行われた異例の春場所千秋楽で、富山出身の東関脇・朝乃山が東大関・貴景勝に白星を挙げ、令和初の大関昇進を果たした。大関昇進の目安「直近3場所33勝」には1勝届かなかったが、正攻法の得意技「右四つ」をはじめ安定した相撲内容が評価された。
富山出身の大関の誕生は、横綱・太刀山(たちやま)以来111年ぶり。そりゃあもう大快挙である。いくら富山県民がシャイボーイズ&ガールズで、「ライブで盛り上がらないミュージシャン殺し」と噂されているとはいえ、心の中ではドンツクドンツク大爆音で浜崎あゆみが流れ、「祝! 新大関・朝乃山!」と書き殴られたギンギラギンのデコトラが大爆走。少なくとも私はそうである。
好きな食べ物はショートケーキ、好きな女性は……
実際は自粛ムードで派手な祝賀パレードはやれないだろうが、それでも県内は大いに沸き、各所のショッピングモールでは大関昇進セールが催された。朝乃山の地元・呉羽地区の特産品フェアが企画されたり、紅白饅頭が配られたり、人気の「金時豆パン」の金時豆が1.5倍増量になった。決して2倍増じゃない。そこが富山県民の奥ゆかしさだ。
朝乃山は昨年の夏場所で令和初の平幕優勝を飾り、トランプ米大統領から杯をもらっている。そして今度は無観客の春場所で令和初の大関昇進である。実力だけでなく、運も持っていると言われるのもわかる気がする。
「富山の人間山脈」という異名を誇り、188センチ、177キロの恵まれた体格ながら、今にも「ほんぎゃぁ! ほんぎゃぁ!」と夜泣きしそうなファンシー乳飲み子フェイス。おまけに好きな食べ物はショートケーキで、好きな女性のタイプは磯山さやか。好感しかない。思わず私の中の乳母本能がうずく。
本来なら今春の富山は北陸新幹線が開業して5年目を迎え、富山駅を境に南北に分かれていた次世代型路面電車(LRT)もひとつに繋がり、富山のマスコミ総出の一大イベントが催されるはずだった。だがコロナ禍によって、イベントの規模は大幅に縮小されてしまった。山手線の新駅「高輪ゲートウェイ」の顛末に似ているかもしれない。そんなしょんぼりムードを打ち消してくれたのが朝乃山だったのだ。
口上は母校の校訓から引用
「相撲を愛し、力士として正義をまっとうし、一生懸命、努力します」
伝達式の口上では、中学時代からの座右の銘「一生懸命」と、母校・富山商業高校の校訓「愛と正義」を取り入れた。とても実直で県民孝行である。
今回の春場所は学校が一斉休校となった時期と重なり、相撲中継にハマるチビッ子たちがいたと聞く。無観客ゆえ歓声がない代わりに野次もなく、四股を踏む音、体と体がぶつかり合う音が響く臨場感あふれる場所になった。日曜夕方は『笑点』派、ついでに言えば三遊亭小遊三推しだった私に、千秋楽の興奮を教えてくれた朝乃山には本当に感謝したい。
お礼を言いたい相手はもうひとりいる。元おまわりさんの長谷川敏博おじさんだ。胸熱必至の朝乃山激励スポットを生み出した人である。
朝乃山の地元・呉羽地区の畑の一角には、さまざまなのぼりが立ち並ぶ。雲龍型で横綱土俵入りする朝乃山の姿や、「一生懸命」などの四字熟語が風ではためいている。すべて長谷川さんが旗に似顔絵を描き、10メートルを超える竹を仲間と運んできたものだ。のぼりの下にはチェーンソーで豪快に彫り出した木彫り朝乃山や、愛らしいパネル型の朝乃山も鎮座する。