まじめさの向こう側で見た、與那城奨の新たな魅力
──『ゆく春』の次はどの作品を撮られたのでしょうか?
渡部 與那城奨君の『交差点前』ですね。台風が関東を直撃したとき、撮影日が重なっていたんです。撮影場所は群馬・前橋だったので直撃は避けられたんですけど、数日は雨が降っちゃって。足元も滑りやすくなってるし、階段で転んで尻もちついちゃった人を、與那城君がバッと真っ先に支えたことがあって。そのとき、僕を含めスタッフは誰もとっさに動けなかったので、みんな思わず「かっこいい~」って。これは、ただの裏話に過ぎないんですけど(笑)。
驚くくらい、めちゃくちゃしっかりしている人ですよね、與那城君って。たとえば衣装合わせって、役者はだいたいスウェットみたいな格好で来るんですけど、與那城君はビシッとセットアップを着て来てました。「これ、衣装だっけ?」「いや、私服です」って(笑)。それに驚かされました。本当に普段からまじめな人なんだなって。
──すごくまじめだけど、方向が少しずれていたりもして、そこも魅力ですよね。
渡部 ですね。だからこそ、あのまじめさを崩すとおもしろいだろうなって思いました。まじめを逆手に取って、“まじめ過ぎて変な奴”にさせると、彼はおもしろいんじゃないかと。そんなアタフタしてる姿が、とにかくおもしろいなって。僕が担当した作品の中で『交差点前』は異色だったので、彼にはいろんなことを求めましたね。とにかくでかい芝居、やり過ぎくらいを求めましたが、それに応えてくれました。トレーニングシーンも、與那城君がバラエティで懸垂をやってるのを見て、「すごいな、あれやりたいな」と思ってやってもらいました。本当に、彼にはいろいろ求めた感じですね。
独自の存在感を発揮した佐藤景瑚
渡部 その次が、佐藤景瑚君の『どこ吹く風』です。佐藤君は本当に一番、刺激になったんじゃないかな。同世代で芝居経験の豊富な葉山奨之君と馬場ふみかさんがいて、芝居ができない自分を痛感したと思うんですよね。
──確かに佐藤さんが一番、「ヘタでした、ダメでした」と言っていたように感じます。
渡部 できる人に挟まれちゃったので、自分の不器用さを感じちゃったのかなって思うんですよ。役者っていうものに対する取り組み方、姿勢を目の当たりにしたというか。たとえば、リハーサルで周囲がガヤガヤしていたとき、葉山君が「ちょっと静かにしてください、集中したいんで」ってちゃんとスタッフに注意していて。そんなふうに芝居に向き合う姿を近くで見て、驚いたんじゃないかな。自分が真剣に取り組みたいとき、スタッフにちゃんと注意するって当たり前のことなんですけど、そういうプロフェッショナルを近くで見せられた衝撃はあったと思います。
でも葉山君は、初芝居の景瑚君にめちゃめちゃ寄り添っていて、(佐藤が演じた)正平の仕草や見せ方を、僕も含め一緒に悩んでくれたりもして。で、そういうときに葉山君が、正平の芝居を「僕だったらこうするかも」って、一回見せてくれたんです。なので、景瑚君からすれば、プロの役者の見本を見たら……そりゃ「自分はそれを超えられてないな」って感じることもあったでしょう。たぶんそういうところで、「自分はヘタかもしれない」って感じたのかもしれない。でも、ヘタではまったくないし、よくあのふたりに挟まれて、同じレベルでやれてるなぁと思いました。キャラクターに合ったお芝居をしてくれていましたね。
──正平と同じく、佐藤さんも雰囲気のある方ですよね。
渡部 そうなんですよね、掴みどころがないというか。飄々としているので、何を考えているかがわからない(笑)。でも、話せば話すほど魅力を感じますし、隠し事なく自分のことを話してくれるタイプ。美容師時代の話を聞かせてもらったりもしました。やる気があるように見えないっていうのが『PRODUCE 101 JAPAN』でも言われていたところですけど……努力家だから、一番へこんでるんだろうなって。やる気がなかったら、へこむこともないじゃないですか。本当にやる気があるからこそ、よけいに悔しいんだろうなって思いました。
JO1随一の安定感ある芝居を見せた豆原一成
──最後は豆原一成さんの『メモリーオフ』ですね。
渡部 豆原君はもともとうまい上に、リハーサルからさらにうまくなって現場に来て、「おぉ、めっちゃ練習したな」って思いました。セリフを入れてきてもらった上で、細かい動きは現場でいきなり伝えることになるんですけど、それも自然にできてしまうんです。ものすごく安定感があって、すでに役者だなって感じました。
『メモリーオフ』はあだち充らしい作品だし、原作は家の中でずーっとしゃべりつづけるっていう話なんです。さすがにドラマでずっと家の中はしんどいなと思ったので、植物園とか出しましたけど(笑)。それでも、ふたりのセリフのかけ合いばっかりでシーンがつづいていくので、会話劇が成立しなかったら本当に見れたものじゃないなと思っていて。そこをふたりは上手にやってくれました。コミカルなタッチの会話、「もしかして、私は峰不二子?」「違うと思います」みたいな、そのあたりのかけ合いもかわいいなって思いましたね。そもそもふたり芝居は難しいのに、直前までコミカルな芝居をやって、いきなり繊細なひと言が入ってきたりするお話なので、そこの温度感は難しかっただろうなって思いましたけど、豆原君の芝居はすごくよかったですね。
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