天竺鼠・瀬下が「めちゃくちゃおもしろい」とストレートに褒めちぎる、川原克己の才能【魅惑の相方 vol.2】


最終的にはウケるものに。ネタの「変換力」と「発想力」

天竺鼠瀬下
スタイリングはすべて私物。「撮影もあったのでちょっときれいめな服を着てきた」とのこと

──最初に瀬下さんが「俺の発想にはない」と仰っていたように、川原さんはとにかく「発想力」が豊かだなと。ネタは、主に川原さんが書かれているんですよね?

瀬下 主に、というか100%。

──どういう思考で生まれたんだろう?と思うネタしかないです。

瀬下 同感です。だから、新ネタを初めて聞いたときは意味わかんないのが多いです、ほんとに。

──川原さんのネタのルーツ、発想の原点など、長らく一緒にいる瀬下さんだからこそわかるものはありますか?

瀬下 あぁ~、「なすび」は八百屋でのバイトが長かったから、それかも。昔、野菜のネタめっちゃ多かったんですよ!

──なすび以外にも?

瀬下 ヤクザ事務所の設定で、真ん中にキャベツが一個転がってるんです。組長役の川原がそのキャベツにつまずくんですけど、ずっと、キャベツをどけもしないし存在に触れもしないんですよ。キャベツにつまずくだけのネタ(笑)。下っ端役の僕も触れられないんです、組長が触れないから(笑)。ほかにも、寝そべってる僕の上にキャベツを転がして、「キャベツ判定」をしていくってネタとか……。

──どういうことですか?

瀬下 わかんないですよ、僕も(笑)。川原が転がしたキャベツを、「92点!」とか言って。

──ネタ帳はありますか?

瀬下 ないです、ネタ帳がないから困るんです。久しぶりにやるネタとか、誰かが上げてる自分たちのYouTube観て思い出してますね(笑)。

──芸人さんって、ほかの芸人さんのネタとの被りを気にすることもあるかと思うのですが、天竺鼠さんのネタには、その心配が一切ないように感じます。

瀬下 (笑)。ありきたりな設定はあるんですけど、ありきたりにはいかないですよね。「学校の先生と生徒」とかベタな設定やったら、逆に崩しやすいんでしょうね、たぶん。突拍子もない、設定すらわからないのもありますけど(笑)。

──川原さんがネタ作りを何年も続けているなかで、スランプに陥ったときってあるんでしょうか?

瀬下 ほかのコンビやったらそういうのがわかりやすいんでしょうけど、ネタがぶっ飛び過ぎてて、判断ができないというか……ウケるウケないとか関係ないんですよ。自分が好きなことをするから。

──なるほど。

瀬下 ウケ悪くても何回もするネタもありましたし。「めっちゃ気に入ってんねんなぁ、このネタ」っていうのは感じましたね。

──万人ウケしにくいネタをしているとき、瀬下さんの心境は?

瀬下 変えてほしい。そりゃ変えてほしいですよ、ウケたいんで(笑)。でもまあ、ボケが気分乗らないネタをするのはよくはないと思うから、黙ってやってたんですけど。でも、川原がスゴいのは、何回かやっていくとネタがどんどん違うほうに行ったりするんですよ。だんだん作り込まれていって、「あ、出来た」みたいな。だから結局は、あいつちゃんと考えてるんやなって。

──“ウケにくいネタ”も、最終的には“ウケるネタ”に。

瀬下 本質は変わらないですけど、ちょくちょく変わっていきますね。本番で急に変えるから、僕はあたふたするんですけど(笑)。

──本物のツッコミが出るんですね、そこで。

瀬下 そうそう。それでどんどん仕上がっていくというか。そっちのほうが多いかもしれませんね、最初はやりたいことを出す人なんで。まずやってみないとわからないですしね。

天竺鼠瀬下
ネタ帳は今でも「欲しい」

ホンマはネタ中、めっちゃ笑いたい

──お話を聞いてると、川原さんが瀬下さんに対して「絶対についてきてくれる」という信頼感が強いんだなと感じます。

瀬下 昔から、あいつの“感覚”がめっっっちゃ好きですもん。普段そんな甘口では言わないですけど。今、アーティストとして絵を描いたりしてますやん。それも「めっっちゃスゴいな、おもろ!」って思うんすよ。僕、昔からテッパン的なものよりも、ちょっと変わったもののほうが好きで。ダウンタウンさんの『ごっつええ感じ』(フジテレビ)のコントの一発撮りのリアル感もすごい好きでしたね。瞬発性でやってるような。

──それが、「川原さんのネタが好き」というところにもつながってるのかもしれないですね?

瀬下 そうかもしれないですねぇ。「段取りくせえな」っていうものが、たぶんあっちも好きじゃないし、僕も好きじゃないんで。でも、NSC入りたてのころは「ネタ合わせはするもんだ」ってふたりとも思ってたんで、授業行く前は同じネタを100回やったりしてましたよ。

──そういう時期もあったんですか……!

瀬下 NSCに入ったのが23歳で、遊びでは入ってないので。最初はみんながしてる「ネタ合わせをいっぱいやる」っていうのをやってたんですけど、なんかおもしろくなくなっていくんですよね、自分らが。

──今のようにだんだんと変えずに、何回も同じネタをやっていくってことですよね。

瀬下 そうそう。まあ、自分たちに技量がなかったってのもありますけど、飽きてくるというか。「知ってた感」は絶対出したらダメですやん。今でこそ、何回もやってるネタでも「知ってた感」を出さずにツッコめるんですけど、当時はネタの先を知ってるからツッコミ早くなったりとか。そういうのを繰り返していくと、「ネタ合わせいるか?」ってなって、どんどん減っていって。ネタ合わせをあんまりせずにパッて出たほうが、ふたりともラクで、しかもそのときウケたんですよね。そこからしなくなっていきましたね。

──客観的なイメージとして、瀬下さんが、自由な川原さんについて行ってるのかなと思ってたんですが、ふたりで同じ方向に歩いているんですね。

瀬下 オドオドしたり、ビックリしたりしてますけど、やっぱり好きは好きなんですよね。ホンマはネタ中、めっちゃ笑いたいんですよ。でも、俺が笑ってたって成立しないんで。

──本当に、川原さんの書くネタが好きなんですね。

瀬下 そう、おもしろい。

天竺鼠瀬下
川原の話をするとき、瀬下は終始笑顔だった

川原の絵には、いい値段がつく

──川原さんのアーティスト活動のお話に戻るんですが、個展も開催されていましたよね。瀬下さんは見られましたか?

瀬下 見ました、見ました。みんな(絵を)めっちゃ欲しいやろうなって思いました。いい値段つくんちゃうかな?って。やっぱセンスがありますよね。僕にはないから感心します、すげえなぁって。

──「Poten Hit」というファッションブランドや曲を出したり、映像作家の山田健人さんとユニットを組んでアーティスト活動されたり、瀬下さんとは別のところで活動をしていることについては、どう思われていますか?

瀬下 向いてますから、応援してます。だし、俺が何を言おうが(川原は)自由にやりますから。

──ほかの活動をすることで、劇場に出なくなったり、お笑いが疎かになったりせず、両立させるのがスゴいですよね。

瀬下 マメなんですよね、そういうところ。……エージェントやしね。

──そのお話、ぜひお伺いしたいと思っていて(笑)。川原さんがよしもととエージェント契約になったというのを、瀬下さんは事後にまわりの人から聞いたんでしたっけ?

瀬下 まわりの人から聞いてりゃいいですけど、ツイッターで見ましたからね? 本人の「エージェント契約しました」ってツイート見て「え!?」ってなりました。次の日に会ったときに聞いたら「あー、したした」って。ひと言ぐらい言えよって(笑)。

──この話って、「なに勝手なことしてるんだ」とコンビ間で揉めてもおかしくないと思ったのですが……。

瀬下 揉めます? 僕はビックリしただけです。アイツも言ってたんですけど、僕に何かを先に相談したとしても別に変わらへんから、事後報告でもええんちゃうかなって。ただ「エージェント契約にしようかな」じゃなくて「エージェント契約にするよ」でいいんですよ、ドキッとしたくないというか(笑)。

川原は、母性本能をくすぐるモテ男

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