『KING OF PRISM』『ソードアート・オンライン』『ひるね姫』『傷物語』2017年の「国立競技場アニメ」を考察

2021.9.3


概念としての旧国立競技場『傷物語<III冷血篇>』

以上、現在の国立競技場を取り上げたアニメを4つ紹介したが、実は2017年にはもうひとつ「国立競技場アニメ」があったのだ。重なるときには重なるものである。それは1月公開の『傷物語<III冷血篇>』だ。

『傷物語III 冷血篇 』Blu-ray/アニプレックス
『傷物語III 冷血篇 』Blu-ray/アニプレックス

ただしこちらは現在の国立競技場ではなく、取り壊された旧国立競技場である。そこがクライマックスのバトルの場所として選ばれている。『傷物語』三部作は、山梨文化会館、パレスサイドビルディングも物語の舞台として作中に登場させており、近代建築を代表する建築物をパッチワークのように作中のあちこちにあしらうことで作品のカラーを作り上げていた。旧国立競技場もそのひとつというわけだ。つまり旧国立競技場は「時代」のアイコンでも、「土地」のアイコンでもない。途中、1964年の東京オリンピック入場行進の中継音声がパロディ的に入るが、ストーリーの真ん中に絡むわけではない。そのほかの作品の国立競技場の扱いとは正反対で、本作に描かれたのは「概念としての旧国立競技場」といってもいいだろう。

国立競技場は今後、どのようにアニメに登場するのか、しないのか。“旬”が本番前の2017年で終わってしまうのはちょっと寂しくもある。とはいえオリンピック後にわざわざ描く理由がある場所でもない。半世紀を経た2070年代(!)に、『傷物語』が旧国立競技場を使ったように「かっこいい場所」として引用される場所に育っていくかどうか。実はそれは河瀬直美監督が作る公式記録映画の出来栄えにかかっているんじゃないだろうか。当時批判された(『いじわるばあさん』でもネタにされた)市川崑の『東京オリンピック』が美的緊張度の高さゆえに現在ではリスペクトされているように。

そういうリスペクトは、ゴタゴタを排除することで「整然」とまとめた記録映画からは生まれないだろう。生まれた競技場や映画が、作った人間たちのそんなゴタゴタを飲み込み、乗り越えて「超然とある」存在になれたときにこそ、時代を越えたリスペクトが生まれるはずだ。


この記事の画像(全6枚)




関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

藤津亮太

Written by

藤津亮太

(ふじつ・りょうた)アニメ評論家。新聞記者、週刊誌編集を経て、2000年よりアニメ関係の執筆を始める。『アニメの門V』(『アニメ!アニメ!』)、『主人公の条件』(『アニメハック』)、『アニメとゲームの≒』(『Gamer』)といった連載のほか雑誌、Blu-rayブックレット、パンフレットなども多数手が..

QJWeb今月の執筆陣

酔いどれ燻し銀コラムが話題

お笑い芸人

薄幸(納言)

「金借り」哲学を説くピン芸人

お笑い芸人

岡野陽一

“ラジオ変態”の女子高生

タレント・女優

奥森皐月

ドイツ公共テレビプロデューサー

翻訳・通訳・よろず物書き業

マライ・メントライン

毎日更新「きのうのテレビ」

テレビっ子ライター

てれびのスキマ

7ORDER/FLATLAND

アーティスト・モデル

森⽥美勇⼈

ケモノバカ一代

ライター・書評家

豊崎由美

VTuber記事を連載中

道民ライター

たまごまご

ホフディランのボーカルであり、カレーマニア

ミュージシャン

小宮山雄飛

俳優の魅力に迫る「告白的男優論」

ライター、ノベライザー、映画批評家

相田冬二

お笑い・音楽・ドラマの「感想」連載

ブロガー

かんそう

若手コント職人

お笑い芸人

加賀 翔(かが屋)

『キングオブコント2021』ファイナリスト

お笑い芸人

林田洋平(ザ・マミィ)

2023年に解散予定

"楽器を持たないパンクバンド"

セントチヒロ・チッチ(BiSH)

ドラマやバラエティでも活躍する“げんじぶ”メンバー

ボーカルダンスグループ

長野凌大(原因は自分にある。)

「お笑いクイズランド」連載中

お笑い芸人

仲嶺 巧(三日月マンハッタン)

“永遠に中学生”エビ中メンバー

アイドル

中山莉子(私立恵比寿中学)
ふっとう茶☆そそぐ子ちゃん(ランジャタイ国崎和也)
竹中夏海
でか美ちゃん
藤津亮太