コスパの悪さが説得力を持つ 『いつか中華屋でチャーハンを』増田薫インタビュー

2021.4.26

エロ本をデザインしながらバンド活動を

──しかし、そもそも増田くんがこういうことに興味を持つルーツを知りたいですね。少年時代はどんな子だったんですか?

増田 中学生くらいまで成績は悪くなかったんですけど受験勉強に全然向いてなくて、絵が得意だったので高校は実技だけで入れる美術科のある埼玉の高校に行きました。絵がめっちゃ好きというより、描けたんですよね。それで多摩美は坂本慎太郎さん(ex.ゆらゆら帝国)とかも出身だし、いいんじゃないかなと思って受けました。その後、ジャズ研入ってバンド組んで、思い出野郎Aチームになった。当時は別に中華屋とかに興味はなかったです。

─大学では何科だったんですか?

増田 グラフィックデザイン学科ですね。大学では、ひとりでエロ本作ってたんですよ。

──エロ本!

増田 古本が好きでいろいろ古本屋に行ってるうちに70年代くらいのエロ本を集めるのがおもしろくなって。『SALE2』とか『カラー小説』とか。今見るとちょっとおしゃれなSMとかフェティシズムについての記事があったり、「70’年セックス解放区」みたいなタイトルの記事があったり、メインは読み物でしたね。その感じに憧れて自分でもエロ本を作ってみようと思ったんです。四十八手の全部のイラストを描いて、それに小説をつけるという本。四十八手って相撲のパロディなんで、返し手を含めて九十六手あるんですけど、イラスト96種類とその小説を作ってました。

──どういう話なんですか?

増田 最終的にその体位が出てくる話です。

──エロ小説?

増田 エロエロな官能小説ではなくて、70年代の古本に出てくるちょっとした小咄みたいな感じです(笑)。

──誌名はなんていうんですか?

増田 『たのしい48手』。

──すごいですね(笑)。

増田 そうですね。十手ずつまとめて、全10巻。学祭で売ったりしてました。でも、別にミニコミに興味があったわけでもないんです。

『たのしい48手』(増田薫/私家版)

──とはいえ、本を作るのが好きだった、というのは根本にありますよね。

増田 そうですね。大学時代に、教授にイラストレーターのスージー甘金さんがいて教わってたんですけど、「こないだこういう本作ったんです」と言って見てもらったりしました。「おもしろいじゃん、これとこれはいいね」とか言ってもらえて。70年代のエロ本でスージーさんやテリー・ジョンスンこと湯村輝彦さんを知っていて、好きだったので。

─テリーさんの影響はなんとなくわかりますね。

増田 すごく好きで、甘金さん経由でテリーさんのデザイン会社フラミンゴ・スタジオに採用してもらえないか相談したことがありますよ。

─へえ!

増田 そしたら電話がかかってきて、「どうも、テリーです」と。やべえ! ってなりましたね。「君の本も見ました」と言われて。

──『たのしい48手』を!

増田 でも、「君は作家になったほうがいいから、うちでは採用できない。社員として雇ったら、社員として頑張ってもらわないといけないから。君はこの道で頑張ってください」と言われました。渋い声で。

──ありがたい言葉じゃないですか。

増田 おかげさまで、こうやって本にすることができました……。

──テリーさんには本を送らないと。

増田 そうですね。甘金さんにも送りたいです。「俺も“塗マンガ”(80年代にスージー甘金が考案した、ペイントスタイルによるマンガ)描きました」って(笑)。

──フラミンゴ・スタジオには入れなかったけど、大学を出てからは、どうしてたんですか?

増田 卒業してフラフラしてるときに甘金さんに「増田くん、暇だったら知り合いのデザイン会社が社員探してるから、ここどう? エロ本とかやってるから、たぶん好きだよ」と紹介してもらった会社に就職したんです。エロがめっちゃ好きというよりは、そのジャンルでやってることがちょっと自由っぽく見えたというか、好き勝手できそうな雰囲気だったんですよ。実際、好き勝手にやっても何も言われなかったし。でも、このまま働き続けていても、自分が作りたいような本とかは作れないなと思うようになって。

インタビューは2020年末、インタビュアーの松永良平さんの勤務するハイファイレコードで行われた

──やっぱり本が作りたかった。

増田 本のデザインをしたかったんです。それに、思い出野郎のファースト(『WEEKEND SOUL BAND』2015年2月)が出た頃でバンドも忙しくなったんで、その会社は辞めました。フリーとは名ばかりのただの無職だったんですけど、お金もそこそこ貯まってたんで、その頃に中華屋のカレーなんかを食べ歩たりしてたんです。

汗は嘘をつかない。コスパの悪さが説得力を持つ

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