「人生、大失敗だった」17歳で水商売デビュー、上京後はソープ清掃歴30年!猫と幸せな二人暮らし…それでも悔やむ過去【佐伯ポインティのご長寿猥談 #5】

長い人生を積み重ねてきた人々が語る生涯最高の恋愛や性体験とは、どんなものなのか?
猥談を生業とする佐伯ポインティが、65歳以上の男女に濃〜い猥談を直撃取材! 戦前生まれの高潔なおばあさんからバブルの絶頂を味わったイカれたおじいさんまで、愉快なご長寿たちが登場します。
※本連載は一部に性的に過激な描写が含まれています。苦手な方は閲覧をご遠慮ください
※扱う時代背景を勘案し当時の表現を使用しているため、一部現代では不適切な行為の描写も出てきます。本連載はそれらの行為を肯定するものではありません
目次
意味のわからないスキルを身につけたポインティ

この連載を読んでくれた方に「あのご長寿猥談って、本当にあんなに行き当たりばったりで取材してるんですか?」と聞かれたことがある。本当です。インターネットにご長寿がいないため、足で取材し続けてます。
取材するときに、場所だけ決めて、そこを散策して、キーパーソンや手がかりを探しながら「つないでください! 高齢者に猥談を取材させてください!」と必死にお願いして、なんとか辿り着くという。なんだそのお願い。
5回目にもなってくると慣れてきたもので、担当の山本氏に「次は浅草でもいきますか!」と言って、一旦浅草に集合する。そして浅草を散策。ホッピー通りのあたりを歩いていると、何やら昼から飲んでるご老人たちが。通り過ぎた際に、かなりの元気な大声でしゃべってるベリーショートの高齢女性がいて、山本氏を目を合わせる。「ここだ」と。
サワーと煮込みを注文しつつ、おばあさま方の飲み会に混ざるような感じで場に馴染んでいく。ベリーショートのおばあさんから「この店のママには、あたしゃ男のことで怒られっぱなし!」という発言が飛び出しました。
これは…! この連載を通してポインティと山本氏には意味のわからないスキルが、着実に身についていました。お互い話さなくてもわかっていた、この大声元気おばあさんには“エピソード”があると……。
〜ご長寿猥談プロフィール No.5〜
カズコさん(77歳)
・ソープランドの清掃員
・昭和23年(1948年)生まれ
・愛知県出身
・30歳のころに上京
高校を中退し水商売の世界へ…会社員の15倍の給料

ポインティ(以下、ポ) カズコさんは上京してきてどれぐらい経つんですか?
カズコ 愛知県から出てきて、30~40年ぐらいか。そいでこの店のママと知り合ってからは34年ぐらい! もうずっと男のことで怒られてる!
ポ 愛知県の…‥あの車が有名なところですかね?
カズコ そうそうそう。住所も書いてやろうか。わかりゃしないよ、誰も。
ポ あ、大丈夫です(笑)。カズコさんのおうちはどういうご家庭だったんですか?
カズコ 普通のサラリーマン家庭よ。でも私は17歳で水商売に走ったから高校は中退。なんたって給料がすごかったからね。あの当時の水商売はさ、一般の新卒サラリーマンの給料が1万5千円くらいの時代に、15万くらい稼げたから。勉強なんかしないわな。そりゃあ人生、狂っちゃうよ。
ポ 10倍!たしかに、狂っちゃいますか。
カズコ 人間、金を持ちすぎたら人生狂うよ。
ポ それで、しばらくは水商売を?
カズコ そう。実家を出て、名古屋のクラブで水商売を続けてね。胸にチップもらってさ。景気良かったね。お客さんは大方、芸能人とか、野球関係の人。中日ドラゴンズとか多かったよ。あとTOYOTA、デンソー、ブリヂストン!
ポ へ〜! 高級なクラブだったんですか?
カズコ 普通よ、普通。普通のサラリーマンよりは稼げたけど、結局ね、金なんか全部使っちゃった。水商売は洋服やらドレスやら、いろいろいるからね。
80年代の上野・パンダ橋で暗躍した“手配師”
カズコ それからは東京と名古屋を行ったり来たり。東京で働いて、そのお金でまた実家に戻って、お金を置いてきて。で、そういう生活をしてたときに東京のこのへんのスナックで働いとった男と知り合って、「東京に来いよ」と言われてこっちに来たわけ。
ポ お、それは彼氏ですか。
カズコ そうに決まってんじゃん。イトウっていう男よ。
ポ イトウはどんな男だったんですか?
カズコ かっこいいねえ、色男。でも、詐欺師三平。私、面食いだから! でも性格がダメだね、イケメンはね。で、この男が手配師やってたの。
ポ 手配師? どういう仕事なんですか?
カズコ 当時だから、1980年くらいかな。上野の、神田橋の上にプータローがいっぱい座ってたじゃん。私も手伝ってたもん。ほんで、こっちまで持って来れば、一人5,000円もらえるの。集まったら、タケダさんって言う人がおってね、その人に電話するわけ。そうやって仕事を斡旋するの。
ポ じゃあカズコさんもイトウの手伝いをしていたんですね。
カズコ そう。私たちは夜中にチャリンコでパンダ橋行ってね。今はいないけどね。で、ボストンバッグ持って座ってる人に声をかけるじゃん。上京してきたけど仕事ないプータローとかね。大体声かけたら「いく」って即答だよ。朝8時までに4人くらい集めたら2万円もらえるから、その金で飲んでたのよ。
ポ そのあと、その人たちはなんの仕事するんですか? 紹介した先で。
カズコ わかんない。とりあえず土建屋に回すんじゃないかな。日雇いで。
吉原の遊郭で清掃員として働き始めて30年
ポ それからはずっと手配師の仕事をしてたんですか?
カズコ そんなわけないじゃん。手配師なんて2、3年しかやってないよ。詐欺師だってことがわかって、イトウと別れてからは、ソープの掃除の仕事! 遊郭、吉原ね。
ポ その仕事とはどうやって巡り合ったんですか?
カズコ 巡り合ったっていうか、私の周りのおばちゃんたちはみんな清掃やってた。このへんの喫茶店によく友達と行ってたんだけど、そこのお客さんがみんなソープの人でね、おばちゃんたちがコーヒー飲んでんの。ソープの仕事は夜中じゃん。だから、仕事が終わった朝10時ごろにやってくる清掃のおばちゃんたちと話してるうちに「やらないか」って誘われたのよ。そこから30年くらいはやってるかな。
ポ 30年⁉︎ めちゃくちゃ長いじゃないですか。
カズコ そうよ。最初はバイトだったけど、10年くらい経ったらひとりで任されるようになってね。掃除は人に気を遣わなくていいから、やりやすいよ。
ポ ソープの清掃って、詳しくないんですけどローションの掃除とか大変そうじゃないですか?
カズコ 大変だよ、そうよ。8部屋くらいあるんだけど、女の子がそれを交代で使うわけでしょ。1時間経ったら次の子に渡さなきゃいけないじゃん。基本的に女の子が綺麗に掃除すれば楽なんだけど、そんなの性格でしょ。
ポ 勝手な想像ですけど、やっぱり人気の人ってそういう、自分が終わったあとの裏の仕事、たとえば掃除もちゃんとするみたいな感じですか?
カズコ するんだよ。やっぱしね、ソープはNo.1の子はやっぱり後片付けもやる。でも、長くはソープでは働かない。長くて、1年いればいいほう。
ポ そんな感じなんですね。
カズコ やっぱさ、パッと稼いで辞めるのよ。ずっとはできないよ。
ソープの掃除が性に合っている
ポ その仕事ならではの大変さってありますか?
カズコ ソープランドっていうのはさ、他の風俗よりもお金がすごい高いでしょ。だからお客さんを満足して返さなきゃいけないわけじゃん。それは大変だと思うよ。掃除ももちろん大変だけどね。働くのも深夜だし。
ポ それでも、カズコさんは他の仕事しようかなとかは思わなかったんですか?
カズコ 思わない、思わない! 合ってるかどうかは知らないけど、気楽だからね。会話してる暇もないしね。ふたりでペア組んでても、ひとりは掃除機、ひとりは風呂。こうやって飲みながらしゃべるのは好きだけどね。ペアの人と合わないと面倒じゃん、だからひとりでやるのは気楽だね。
ポ 30年清掃やってるとソープランドの変遷とかも見えてきますか?
カズコ まあ、そりゃ長いからね。たしかに前は羽振りがよかったけど、コロナ禍とかは大変で、なんとか耐えてたね。貯蓄があるんだろうね。ソープは普通の飲み屋と違って、一回潰しちゃったらもうやれないんだよ。居抜きで始めたりもできないし。
ポ そうなんだ。
カズコ あと、殺人事件が多いね。
ポ え、そうなんですか。
カズコ 結局は、男の人って馬鹿だからさ。自分が指名したい女がいるわけでしょ。でも男も金が湧いてくるわけじゃないじゃん。だから、好きな女が自分のものにならないくらいなら、殺しちゃうんだよ。恐ろしいよ。
「カラスは黒い、お前は黄色いカラス」だと言われた半生
ポ ちなみに詐欺師手配師のイトウ以外の、カズコさんの恋愛の話も聞きたいのですが……。
カズコ モテたよー、当時可愛かったんだから。茶髪で、ソバージュでリボンしてね。愛知と東京行ったり来たりしたときは、同窓会でさ「東京いって垢抜けたねー!」って、それが一番うれしかったね、自慢だった。
ポ その時は、彼氏とかいました?
カズコ 上京する前、愛知で結婚してたよ。
ポ あ、結婚してたんですね⁉︎
カズコ クラブに来てた建材屋の人とね。お互い実家だから、相手の家に居候してね。いづらかったよ。嫌だったね。
ポ そういうのもあって東京行きたかったんですね。その人とはどうなったんですか?
カズコ 子どもがふたりできたんだけどね、私が置いて東京に出てったの。
ポ え⁉︎
カズコ カラスはさ、黒いだろ。
ポ え……はい……。
カズコ お前は黄色いカラスだって言われてたよ、愛知でね。
ポ ありえないってことです……かね?
カズコ 「猫でも子ども育てるのに」とか「もう殺さなかっただけマシ」って言われてね。私のお母さんが育てたのよ。だからいまだに「実家の敷居をまたぐな」って言われててね。上京してから、一回も帰れてない。愛知県に入れないのよ。
ポ そこについては、どう思ってるんですか?
カズコ もう一度ね、やり直したい! 人生大失敗だもん(笑)。
ポ やり直せるなら、どうしたいですか?
カズコ やり直したら、水商売やらずにね、高校ちゃんといって、大学いってね…‥総理大臣になるね!(笑)
ポ 思ったよりデカい展望だ。……カズコさんは、後悔してるんですね。
カズコ もちろん、今が一番幸せだよ。お酒が大好きだし、この仕事は昼から飲めるしね。あとね、猫を飼ってんのよ、もう16年ぐらい。猫いるから仕事頑張ろーって思うんだよ。でも記事には大きく書いてほしいね、「17歳からやり直したい」って。
取材を終えて
「やり直したい、人生大失敗だもん」と言ったカズコさん。発言こそカラッとしていましたが、取材中何度も「やり直したい」と繰り返していました。カズコさんは深くは語りませんでしたが、元夫や居候していた義実家との確執もあったのかもしれません。
また取材後、飲み屋にいた他のお客さんが教えてくれてわかったことですが、カズコさんの元には、カズコさんの息子さんがたまに訪れて「実家に戻ってきてほしい」と申し出てるらしいのですが「今さら普通のおばあさんになるのは無理!」と断ったそうです。
ただ、カズコさんは、ソープランドの清掃員という仕事にも、猫という“同居人”のいる生活にも、満足しているように見えました。どのような人生を選択しても、それがたとえ良識的に非難されるような選択でも、人は自分なりの満足を見つけて生きていく。たとえ「人生大失敗」だと本人が思っていたとしても……。
華やかさと、影のある人生を送ったカズコさんにとって、浅草や吉原という街が持つカオスは居心地がいいのかもしれません。
というわけで以上、ご長寿猥談でした! また次の回でお会いしましょう〜!