プロバスケットボールリーグ・Bリーグにおいて、初の年俸1億円超え選手であり、日本代表でもキャプテンとして牽引するなど、名実ともにトッププレイヤーの富樫勇樹。そんな彼が、バスケ界をさらに盛り上げるべく開催するイベントが『UNAVERAGE FES.』だ。
音楽とスポーツを融合させたクロスカルチャーイベントで、2024年に初回を開催。8月28日(木)に横浜BUNTAIで開催される第2回は、PUFFYやMONGOL800、氣志團などのアーティストに加えて、さまざまな競技のトップアスリートのほか、人気YouTuber「Lazy Lie Crazy【レイクレ】」のともやん、サワヤン、すみぽん(高倉菫)らも参加予定。
そんなイベントを主催する富樫本人は、カルチャーに造詣が深いパブリックイメージがないが、どのような思いでこの企画に臨んでいるのか。これまでのインタビューでは明かしてこなかった好きな音楽の話に加えて、日本バスケ界の未来、NBAに挑戦中の後輩に対する思いなどを語ってもらった。
富樫勇樹
(とがし・ゆうき)1993年7月30日生まれ、新潟県出身。中学時代に全国優勝を果たし、高校ではアメリカに留学。2012年にbjリーグでプロデビューし、2014年にはNBAのダラス・マーベリックスと契約後、傘下のチームでプレイ。2015年からはBリーグの千葉ジェッツふなばしに所属。身長167cmと小柄ながら、日本人初の1億円プレイヤーとなったほか、チームをリーグ優勝に導き、リーグMVP受賞経験を持つなど日本バスケ界を代表する選手。日本代表経験も豊富で、2021年の東京五輪ではキャプテンを務めた
他競技との交流で仲間のありがたさを改めて感じた

──まず富樫選手が主催するイベント『UNAVERAGE FES.』について、概要と開催する意義を教えてください。
富樫勇樹(以下、富樫) バスケと音楽だけじゃなく、ほかの競技の要素も取り入れているイベントで、昨年に続いて開催できてうれしいです。バスケが好きな人であればほかの競技の魅力を知ってもらったり、その逆も、という感じでいろいろな要素を楽しんでほしいですね。
──バスケ以外のスポーツをする富樫選手を見られるのでしょうか。
富樫 そうですね。僕が所属する千葉ジェッツふなばしのファン感謝祭で、ピックルボールをやったとき、「バスケと違う表情が見られてよかった」という感想が多かったみたいで。そういう部分を楽しんでもらえたらいいですね。僕もスポーツをするのは好きなので。
──バスケの次に得意な種目はなんですか?
富樫 趣味でゴルフをやっているので、得意とはいえないですけど、ゴルフは好きです。
──出演者が続々と発表されていますが、さらなるゲストも登場するのでしょうか。
富樫 はい。バスケットの選手に関しては、すでにチームの練習が始まっている時期なのでスケジュール次第にはなります。とはいえチームメイトは、僕が行けるということはみんな行けるということなので(笑)。
──こういったイベントを開催するのは、スポーツ業界を背負って盛り上げようという視点のように感じます。そういった意識を持つようになったきっかけはありますか?
富樫 何かきっかけがあったわけじゃないですけど……。プロとして10年ちょっとやってきたなかで、バスケもプロリーグとして大きくなってきて。ここからさらに、日本のスポーツの中でもっと認知されるリーグになってほしいという思いはあります。
バスケに限らず、何かのきっかけがないと新しいものを見ることがないと思うんです。僕自身、友達に誘われて初めて見て、よかったと思うこともあるので。今回はアーティストやアスリートがたくさん出演するので、その人たちの魅力が伝わるひとつのきっかけになってほしいなと思います。
──普段からほかの競技のアスリートと交流はありますか?
富樫 大人数の会に行くのは苦手なので、たくさんはないですね。去年の『UNAVERAGE FES.』に出てもらった体操の谷川航選手、萱和磨選手(ともにパリ五輪の金メダリスト)は、千葉ジェッツふなばしの試合を観戦して、セレモニーに出てもらう機会がありました。今回もそうやって、イベントを機に応援し合える関係になれたらいいなと。
──アスリート同士で、何か共通点はありそうでしょうか。
富樫 どうなんですかね……。共通点というか、個人競技と団体競技でまったく感覚が違うと思いました。個人競技は自分の成績がすべて。まわりに頼れないし、結果がすべて自分に返ってくる感じ。本人たちはそれがいい、そうじゃないと嫌だって言うんですけど、僕はそれは嫌だなって思う。チーム競技でよかったなって。
──個人競技のアスリートと話したことで、仲間のありがたさを感じたと。
富樫 そうですね。自分がどれだけひどい出来でも、まわりに助けてもらって勝つ試合もたくさんあるので。もちろんその逆もあるけど。すべての結果が自分で決まるっていうのは、個人的には嫌だなと。自分でスケジュールを立てて、トレーナーを雇ってトレーニングをして……という感じで自由度は高いけど。それって、その人のやる気次第で相当変わってきてしまう。今はチームに縛られて、強制的に参加しないといけないじゃないですか。当たり前ですけど(笑)。それが自分にとってはいいですね。
──自分で決めると、練習しないかもしれないですか?
富樫 そうだと思います(笑)。決められた時間に練習場に行って、まわりの選手ががんばっている姿を見て、一緒に乗るかたちでがんばる日もあれば、その逆で自分が引っ張る日もある。そう考えると、個人競技はすごいなって思います。

第1回のフェスは、プレーオフよりも疲れた
──これまでのインタビューを含め、富樫選手の言動から音楽やそのほかのカルチャーが好きというイメージがあまりないように感じて、クロスカルチャーイベントを主催するのは、意外な印象でした。
富樫 そういうイメージはないですよね。実際、このアーティストが好き、この曲がすごく好きで誰かを追いかけてなど、特定の何かが好きというのはあまりないので、試合前に曲を聞いてテンションを上げるルーティンは、正直なくて。
──過去のインタビューを調べているなかで、まさに「試合前に聞く曲は?」という質問に対して、無理して答えているんだろうな、という部分がありました(笑)。
富樫 そういうこともありますね(笑)。移動の新幹線でヘッドホンをして音楽を聞く選手も多いんですけど、僕がそうしてる姿は誰も見たことがないと思う。だからいつも、「何してるの?」って聞かれることが多いです。
──移動中は何をしているんですか?
富樫 普通に隣の人と話したりしますよ。最近は渡邊雄太選手と隣になることが多いので、ずっと話してます。ただ、音楽自体は好きで、車の中ではいつも何かの曲を流してるし、ライブを観に行くのは好きなんです。音楽だけじゃなく、パフォーマンスや現場の雰囲気も込みで楽しむ感じですね。
――たとえばどんなライブに行きましたか?
富樫 昨年ですが、友人とMrs. GREEN APPLEや宇多田ヒカルさんのライブに行きました。最近だと、サザンオールスターズのライブに行く予定が、チームのイベントと重なって……。あれは行きたかったですね。海外のアーティストも、来日したタイミングでけっこう行きますね。誰かに誘われてというより、自分から行くことが多いです。
──過去にはプレイリストとしてエド・シーランを挙げていたときもありました。
富樫 それはたぶん、5~6年前に来日したときにライブに行ったので、そのときのインタビューだと思います。

──子供のころ、好きだったアーティストや曲はありますか?
富樫 小中学生のころに音楽を聴く習慣がなく、高校はアメリカに留学していたので、自分からこういう曲を聴こうというよりは、車の中でランダムに曲を流してる中で気になったアーティストのライブがあれば、行ってみたいという感じです。
──好きな曲を聞かれて、「二上耀の『魔法の絨毯』」と答えていたこともありますが、これは千葉ジェッツふなばしの後輩である二上選手が歌う『魔法の絨毯』(歌手は川崎鷹也)ということでしょうか。
富樫 そうです。カラオケで先輩に歌わされて……っていっても、本人もわりとノリノリでしたけど(笑)。
──富樫選手もカラオケに行くことはあるんですか?
富樫 年に数回、選手全員で食事をするときに、カラオケがついてる場所に行くことがあって、取材で質問をされたときに、そこで彼が歌ってる光景が浮かびました(笑)。
──ちなみに、カラオケで富樫選手が歌うことはあるんですか?
富樫 いや、一回もないです。子供のころから人前に出るのが苦手で。クラスの出席で立つのすら苦手でした。バスケをプレーする以外で人前に立つ、マイクを握るというのは、いまだにすごく苦手です。
──そんな性格なのに大きな会場でイベントを開催するとは……。本当にバスケを見てほしい気持ちが強くないと、自らマイクを持って5000人の前に立つなんてできないですよね。
富樫 そうですね。去年もイベント後は疲労感がすごかったです……。
──バスケの「プレーオフ」(※レギュラーシーズンに比べて本気度が高い)くらいの疲労感ですか?
富樫 いや、それ以上です。慣れないことばかりだったので、バスケなんか比にならない精神的疲労でした。昔の自分だったら、こんなことするなんて考えられないですね。
──過去に「バスケとミュージックの魅力が似ている」と語っていましたが、どういった部分が似ていると感じますか?
富樫 会場の雰囲気、アリーナのサイズ感を含め、似ている部分があるかなと思います。
──そういう感覚が、音楽を含めたクロスカルチャーの開催につながっていったのでしょうか。
富樫 自分の感覚というより……。アメリカのバスケット選手って、日本よりもHIP-HOPとか音楽と近い関係にあるんです。留学していた時代から、お互いに憧れてリスペクトしている関係性を目の当たりにして。そういう環境だとやっぱり音楽好きも多い。正直、歌詞は全然わからなかったですけど、音楽、ファッションを含めて、アメリカで感じたよさを取り入れたイベントにしたいと思いました。
NBA挑戦中の河村勇輝はキャラを作っている?
──最後に少し、バスケ業界に関するお話もお聞きします。富樫選手が所属する千葉ジェッツふなばしは、実業団からプロ化した球団に比べて、リーグ創世記からファンサービスに相当力を入れていた印象です。そのころからのファンに対する意識が、こういったイベント開催にもつながっているのでしょうか。
富樫 Bリーグが始まったころは、まずホームコートである船橋アリーナを毎試合満員にするための努力を、フロント、選手、チーム全員でしていましたね。(2024年秋より始まった「2024-25年シーズン」から)新しくホームコートになったLaLa arena TOKYO-BAY(ららアリーナ 東京ベイ)のキャパは1万人で、埋まるかどうかわからない状態でスタートして。たくさんの人が集まった会場の雰囲気は全然違うし、たくさんの方に見ていただきたいという意識は、年々上がってきていると思います。
──昨年のイベントのゲストには、NBA挑戦中の河村勇輝選手もいました。今最も注目されている選手のひとりで、彼を見たいバスケファンは多いと思います。今年の参加はどうなりそうでしょうか?
富樫 今、彼を日本で見る機会はなかなかないので、スケジュール的に問題なければ来てほしいと思っています。特に、ああいうくだけた雰囲気を見る機会はないと思うので。
──富樫選手とベンドラメ礼生選手がやっているYouTubeチャンネル『Club 93 Podcast』では、6月13日にアップされた動画で河村選手と対談していました。河村選手が、メディアの前で見せる顔とはまったく違うくだけた表情を見せていたのが印象的でした。
富樫 まあ、メディアの前で固すぎるんですよね。固いというか、(キャラを)作ってる(笑)。
──少し優等生感がありますかね。
富樫 それで統一したほうが、変におもしろいことを言わなくていいし、ラクなんだと思います。
──高校時代の留学、NBA挑戦とアメリカでプレイした経験を持つ富樫選手から見て、2025年の河村さんの活躍はどう感じましたか? 下部リーグとトップチームを行き来しながら、NBAのチームで試合に出場する機会もありました。
富樫 高い実力があるのはもちろんですが、“持ってる”と思いましたね。まずはプレシーズンに同じポジションの選手がケガをして、チャンスがあった。しっかり準備をしていたはずだけど、それでもそういった運は大きいです。
海外も含めていろいろ見てきたなかで、NBAの14~15番手(毎試合の登録人数の上限は15)の選手と、今日本のBリーグで活躍する選手で何が違うかというと、そこまで大きな差はない。何かのきっかけや巡り合わせでしかないと思うので、そのチャンスをしっかりつかんだのはすごいと思います。
──Bリーグも年々レベルが上がっていると。
富樫 そうですね。少し前だと、ユーロリーグの選手が来ただけでうわ〜っと驚いていたのが、今では当たり前のようにNBAで試合に出ていた選手がいて、ドラフト上位だった選手まで来るようになったほど。その選手たちとやり合わないといけないので、国内の選手も確実にレベルが上がってきていると思います。
──河村選手の活躍を見てバスケに興味を持った人は、Bリーグにも同じくらいレベルの高いプレイを見られるから、ぜひ見に来てほしいという感じでしょうか。
富樫 もちろんNBAとBリーグのレベルが同じとは思っていなくて。NBAは世界最高のリーグなので、身体能力やスキルの違いはあります。ただ、たとえばBリーグ2024-25年シーズンのファイナル(リーグ内の1位を決めるシリーズ)の琉球ゴールデンキングスと宇都宮ブレックスの対決は、バスケットのおもしろさが詰まった試合だったと思います。
細かいスキルがどうというより、あれを見て何も感じない人はいないと思えるようなおもしろい試合だったので、今回のフェスを含め、何かのきっかけでそういった試合を見に来てもらえたらうれしいです。

──ちなみに来年秋から始まる2026-27シーズンからは、「Bリーグプレミア」と銘打ってルールが変更されます。大きな変化としては、外国籍の選手が以前より多い人数出場できる点があります。日本人の選手のレベルもさらに引き上げられそうでしょうか?
富樫 それを目的にしたルール変更なので、結果がどうなるか。外国籍の選手ばっかりが出るリーグになって、失敗になるかもしれないし、やってみないとわからないです。まったく出られなくなる選手もいるだろうし、大事な試合に絡む選手もいる。僕の感覚では、レギュラーシーズンはある程度、出場時間をシェアするけど、プレーオフとか大事な試合では、オンフォー(出場する5人中4人が外国籍と帰化選手)で戦うチームが出てきてもおかしくない。
──それを数年かけて変えていけるか、ということですね。
富樫 はい。でも、見てくれる人たちが何を応援してくれるか、というところもあるので。日本人の活躍や成長を見たい人が多ければ、そういう編成になっていくし。そういった環境でリーグのレベルがどんどん上がっていくといいな、と楽しみではあります。
『UNAVERAGE FES.』
2025年8月28日(木)開場15:00/開演18:00/終演 21:00(予定)
会場:横浜BUNTAI
公式サイトはこちら
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