「作ろうと思っても作れないことが成立している」『大喜る人たち』の仕掛け人が『AUN』に思うこと

2024.8.30

文=釣木文恵


芸人もアマチュアも入り混じった大喜利動画を日々アップするYouTubeチャンネル『大喜る人たち』。登録者数23万人を超えるこの人気チャンネルを運営するのが映像作家の小川悠介だ。たくさんの大喜利ライブが開催される中でひときわ注目を集める『大喜る人たち』の独自性や現在の大喜利界について、さらには以前コラボを行ったこともある『AUN~コンビ大喜利王決定戦〜』についても語ってもらった。

小川悠介(おがわ・ゆうすけ)
YouTubeチャンネル『大喜る人たち』を運営しながら、フリーでお笑い芸人のYouTubeやライブの撮影編集を行う。X:@ogawaogawayu

YouTubeチャンネル『大喜る人たち』

ライブのおもしろさをそのまま動画に

小川 やっぱりYouTubeにアップする前提でライブをやる、という点がほかとは違いますかね。見る側もやる側も、最初から動画が上がるとわかっている。回答するとき、あるいはライブで見るときの「この回答はバズりそう」という視点は、ほかの大喜利ライブにはあまりないかなと思います。

小川 もともとテレビ業界を目指していたので、僕にとっては「大喜利ライブをやろう」ではなく、「動画を作ろう」が先にあったんです。その動画の内容を大喜利にしよう、という順番ですね。それまでもYouTube上に大喜利動画はありましたけど、身内向けだったり記録映像的なものだったりで、ちょっと見づらいものが多かった。そんななかで、見やすい大喜利動画を作ってみよう、と。

小川 それこそ最初は会議室でやっていましたけど、お客さんがいたほうが、回答に対して笑い声の反応があったほうが、やっぱり動画としてもおもしろく見られるんですよね。無観客のときは演者のみなさんがお互いの回答にリアクションしてくださったりするんですけど、それだと演者の負担が少し増える感じもあって。もうひとつ、ライブ自体の収益があるというメリットもあります。YouTubeの収益もなかった最初のころは、ライブでのチケット売り上げが特に大事でした。

小川 でも一番大きい理由は、ライブを動画にしたかったからですね。昔から、テレビでライブっぽい番組を作りたいと思っていたんです。テレビ番組って、観覧客がいる場合もライブっぽさはあまりないじゃないですか。学生時代にテレビ業界を目指していろんな番組を観ましたけど、その流れでライブDVDも観て、ライブに興味を持つようになってからは「これをテレビにしたほうがいいんじゃない?」と思っていたんです。そのほうがおもしろさは伝わりやすいんじゃないかと。それもあって、『大喜る人たち』は今のかたちになっています。

「クソお題」の名づけは功績だった

小川 カメラを固定して撮るというのは、ひとつのこだわりではありますね。あまり回答だけに寄らない。大喜利の回答って、フリップに書かれた文字だけで完結するものではなく、演者さんの読み方、表情込みで回答なので。「フィックスで見せる」というのは白武ときおさんも著書で言っていたことで、けっこう影響を受けています。それから、事前にお題を知らせないことも大事にしています。

小川 お題において、新しいことをやっているという感覚はそんなにないんですよ。たとえば「~とは?」とかを使わない、いわゆる体言止めお題ってよくいいますけど、それはライブシーンにもともとあったもので、僕ら発信ではない。10年以上前から大喜利界隈というのは脈々と続いていて、僕らはあくまでも後発組。だから、新しいことをやってやろうというよりも、すでにある大喜利のおもしろさを広く伝えたいという気持ちのほうが強い。ただ、無作為の単語をつなげたような無理やりなお題を「クソお題」と呼んだのは、功績かもしれません。それももちろんもともとあったものですけど、名前は特についてなかったと思うんです。でも「クソお題」と言ってしまえば、ハードルも下がるし、見方もちょっと変わる。この呼び名はよかったなと思います。

クソお題大喜利

小川 大喜利人口も増えていると聞きますし、その実感もあります。「ボケルバ」(※秋葉原にある大喜利カフェ)など、いつでも誰でも大喜利ができる場所ができたのは大きいんじゃないですかね。自分で言うのもなんですけど、『大喜る人たち』を見て大喜利を始めた、という人もいるそうです。

小川 大喜利ってどうしても今までは深い世界だった気がするんですよ。そもそもライブシーンのお笑い自体が深い場所にあって、さらにその中の一部だった。それをなるべく見やすい、たくさんの人が見られるかたちにしたという面で貢献できた部分はあるのかなと思います。

また十九人を『大喜る人たち』に呼びたい

小川 僕自身そんなに昔から大喜利を見てきたわけではないので、レベルの変化はわかりませんけど、とにかくおもしろい人が多すぎる。呼びたい人が多すぎて、全然呼びきれない。今、『大喜る人たちトーナメント2024』というのをやっているんです。たくさんの方に参加いただいて、今年は17回に分けて予選を行い、各予選で3名ずつ準決勝に上がるんですけど、そこに入らなかった人でもめちゃくちゃおもしろい人はいくらでもいて。なんだかもどかしさも感じます。

『大喜る人たちトーナメント』昨年の様子

小川 やっぱりプロの方はすごいなと思います。発声からして違うし、場の掌握力とか、空気のつかみ方とかもすごい。去年の『大喜る人たちトーナメント』では、意図的に決勝確定メンバーを減らしたんです。だからママタルトの檜原(洋平)さんとか、大久保八億さんといったプロの芸人さんにも予選から参加していただいた。そしたら、ちょっと圧倒的で、当然のように決勝に残りました。一方で、アマチュアの方は回答のスピードとか角度がすごいですね。もちろん、ぺるともさんをはじめ、アマチュアというのがはばかられるくらいレベルの高い人たちもたくさんいますけど。

小川 みんなおもしろいですけど……。空中キャラバンのカニさんというアマチュアのコンビの方は、独特な感じでおもしろいです。たけのくちさんはベテランですけど、ゆっくり答えを出すんですよ。その一撃がすごく刺さる。プロの芸人さんだと、十九人さんもまた呼びたいです。特にゆッちゃんwさんのちょっとほっこりする回答が、キャラクターも相まってすごくおもしろいんですよね。

ライブ主催者では作れないことが『AUN』では起きている

小川 やっぱりコンビ大喜利だからこそのよさがありますよね。フリとオチを作れるからウケやすい。システム面でいうと、得点が加点式じゃないですか。もちろん方式によっていいところと悪いところがそれぞれありますけど、『AUN』のシステムはすごくいいですね。点数構成が「2点/1点/0点」とシンプルで点数の幅が狭いから、見やすいんですよ。

第8回『AUN~新呼吸~』第一陣で優勝した十九人

小川 『大喜る人たちトーナメント』は、点数幅がすごく広いんです。1答に対して1点から81点まである。すごくウケたら81点、まあ普通にウケたら16点とか。突き抜けた答えをたくさん出すことが要求される。ちょっとウケて12点取っても、「ウケが弱かったな」みたいな感じで捉えられてしまう怖さがあるんです。『AUN』はどんなにウケても2点だから、逆に一定のラインを超えたらOKなわけで。「すごくいい/いい/悪い」で分けたほうが観客も見やすいし、演者側としてもやりやすいんじゃないかなと思います。

小川 そこを大事にしています。でも、そこまで細分化しない『AUN』のほうがライブとしては盛り上がると思うんですよ。基本的には1点が多いところもいい。2点を取ると「すごい!」となるし、スベったり、変な空気になったときに「ピピピッ」と音が鳴って0ポイントになると、そこで笑いが起きたりもする。すべてがお笑いになるんですよね。

小川 だからライブとしてすごいなと思っています。「コンビ大喜利」なのに、決勝で急にひとりずつ答えるスタイルになるのもいいですよね。あれによって空気がガラッと変わって、すごい勝負が生まれるから。あと、『AUN』って大喜利以外の部分もすごいじゃないですか。

小川 なんなんでしょうね、あれ。なんであんなことしてくれるんだろう。僕、第1回からお客さんとして観に行ってたんですよ。最初はあんな登場、想定外なわけじゃないですか。でもそれをみんながやり出した。ああいうのって、ライブを作る側が狙ってできるものじゃないんですよ。「ふざけてください」なんて伝えるのもヘンだし、芸人さんも冷めるじゃないですか。『AUN』では、ライブ主催側が作れないことができている。そこはうらやましいですね。

group_inouに扮して登場した都トム(第8回『AUN~新呼吸~』第一陣)

小川 MCは重要ですね。大喜利だと、MCが回答の元ネタとか、意図とかを補足することが求められるじゃないですか。でも、たとえばひつじねいりも、『大喜る人たち』でMCをやってくれるほかの人たちも、知識がずば抜けてめっちゃあるというわけではない。だから回答によっては拾えていないものもあるんですよ。とくに『大喜る人たち』はマニアックな回答も多いので。だからそれよりも、ちゃんと笑って、ツッコむところはツッコんで、そういうリアクションのいい方にお願いをしています。

小川 トーナメントを大きくしたいですね。芸人さんはもちろん、漫画家、アイドル、YouTuberと、いろんな方に出てほしい。メディアの賞レースだったら、優勝や準優勝の人はいろんなところに呼ばれるじゃないですか。去年のトーナメントではアマチュアの木曜屋さんという方が優勝して、芸人のミネさんが準優勝だったんですけど、今のところそれによっておふたりがいろんなところに呼ばれたりはしていない。それはまだ僕らの力不足だなと思うので、『大喜る人たちトーナメント』をメディアから注目されるくらいの規模にしたいなと思います。

十九人が優勝した『AUN〜新呼吸〜』第一陣のアーカイブはコチラ ※8月31日(土)23:59まで

予選『AUN~新呼吸~』第二陣
■概要:本選への出場権1枠をかけて、8組の出演者がコンビ大喜利に挑戦します
■日時:2024年9月20日(金)18:30開演
■会場:角筈区ホール(東京都新宿区西新宿4-33-7)
■MC:高木貫太(ストレッチーズ)、奥森皐月
■出場者:今井らいぱち&kento fukaya、ガクヅケ、カラタチ、さすらいラビー、シンクロニシティ、ド桜、フランツ、街裏ぴんく&ルシファー吉岡 ※五十音順

本選 第8回『AUN~コンビ大喜利王決定戦~』開催概要
■概要:予選から勝ち上がった2組(各予選の優勝者)を含む16組の芸人が、トーナメント方式で「日本イチ大喜利が強いコンビ」の座をかけてコンビ大喜利に挑戦します
■日時:2024年10月26日(土)15:00開演
■会場:一ツ橋ホール(東京都千代田区一ツ橋2-6-2 日本教育会館3階)

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釣木文恵

(つるき・ふみえ)ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。

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