現代の音楽業界のリアルを描き、King Gnu井口理やSKY-HIが帯文を寄せるなど、“表現”にまつわる作品としてさまざまなアーティストからの支持を得ていたマンガ『バジーノイズ』。
2019年4月発売の『Quick Japan』vol.143では、「今、音楽を売るということ」というテーマの特集で当時連載中だったマンガ『バジーノイズ』のスピンオフ作品や作者・むつき潤へのインタビューを掲載。
ここでは川西拓実と桜田ひよりがダブル主演を務める映画『バジーノイズ』が2024年5月3日に公開されたことを記念して、『Quick Japan』vol.143掲載の『バジーノイズ』のスピンオフ作品とむつき潤へのインタビューをお届けする。
「好きだけじゃやれないことがたくさんある」
──清澄くんが黙り込み、そのあとふたりをPCとスマホに見立てた最後のコマが印象的でした。
むつき 伝わっていてよかったです。清澄くんにとっての潮ちゃんは必要な人間になっていることは間違いない。でも、それとふたりが将来を約束してるのかどうかはイコールじゃなくて。「今この一瞬横にいてくれてありがたい」。これ以上の意味合いを清澄くんは持てないんじゃないかという。
──自己完結しているんですね。
むつき 今ってSNSがあって自分が主人公になれる場面が多くなって、みんな自分を変えないまま誰かに寄り添ってほしいじゃないですか。僕自身も含め、自分が一番かわいいんです。
──そんな清澄もバンドを組んで変わろうとしていますね。今どんな音楽が「ちょうどいい」のか、音楽の発信の変化は、作中からも感じます。
むつき 作品を描き出した当時は、宅録ミュージシャンが普通にいたり、ダイレクトに歌詞が入ってこない、生活に溶け込んでいるような音楽が多く出ていて、僕にとって衝撃だったんです。あとスマホを持ち歩いて音楽を聴いている自分を楽しめる部分もあったので、そういうところを作品に描いていました。だから歌詞を出したりするのはやめよう、過剰なメッセージがこもってしまうとも思っていました。でも最近ちょっとそれはどうかと思ってきて。今はギターとか楽器がおもしろくて、それこそKing Gnuとか聴いていると、やはり込めるメッセージは必要なんじゃないかと。熱い音楽もけっこう聴いているんですけど、そういう状態が反映されています。
──清澄は、むつきさん自身でもあると。
むつき こうして出版社でマンガを描くようになると、全部ひとりで完結させるわけにはいかないんですよね。誰かと関係してよりよい作品に仕上げていけることを経て、僕にも変化が起きているのは事実です。連載中の現在も、清澄くんはそういう僕自身とリンクしてます。このマンガに出てくるキャラクターはみんな僕のデフォルメなんです。漫画家も出版社と契約するだけが活動の道ではなくて、ひとりで描き続けることもできるし、僕自身もそうしたい気持ちがなくはなかった。一方で僕には承認欲求もあって、そんな部分が潮ちゃんに投影されてますね。
──登場人物をとおして、音楽への冷静と情熱を感じます。
むつき 僕は今この時代だからマンガが描けている身だと思っています。クリスタというPCソフトが流通したことで、マンガを描くハードルってすごく下がったんです。音楽の勉強を始めたのもほぼネットですし、独学ですべて完結させることもできるんです。そして僕は描きたいものがあるわけじゃなく、社会に怒りとかがあるわけでもなく、これじゃなきゃ生きれない人間ではないと思うんですよ。ただ、僕は「どうしてもマンガを描くことでしか生きていけないような人が描くマンガ」が好きなので、清澄くんもそうであってくれたらと思いを込めているのはあります。
──『バジーノイズ』は、いわゆるサクセスストーリーやラブストーリーとは違う、既存のものにとって変わる新しい価値観を模索している作品です。今後どうなっていくのでしょうか。
むつき 今は多様性の時代ですよね。親の世代がよく言う「普通こうだから」みたいな常識が今は通用しなくて。人間関係にせよ、表現活動にせよ「自分に嘘をついていないかどうか」っていうのをみんな大事にしてるように感じます。それを認めてもらえる時代。『バジーノイズ』ではそこを描いていけたらと思います。あと個人的につくづく感じることですが、好きなものでお金をもらう仕事にするのは、好きだけじゃやれないことがたくさんあるよねって(笑)。バズった時に生じるノイズとどう向き合っていくか。それが『バジーノイズ』のテーマなんです。音楽がこれからどうなっていくのかは、そのとき僕がリアルだなあと思うものをリアルタイムで模索しながら描いていきたいなと思っています。
むつき潤
(むつき・じゅん)1992年生まれ、兵庫県出身。漫画家。『ビッグコミックオリジナル増刊』にて『ホロウフィッシュ』を連載中
『バジーノイズ』QJ描き下ろしスピンオフ
発売中の『Quick Japan』vol.171では、映画『バジーノイズ』で主演を務めた川西拓実(JO1)を5つのキーワードから紐解く特集「川西拓実“解体新書”」を掲載。
特集では川西拓実ロングインタビューのほか、風間太樹監督、山田実プロデューサー、主題歌作詞を担当したいしわたり淳治、原作者・むつき潤といった映画『バジーノイズ』関係者への取材も実施!
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