ミルクボーイ独占インタビュー【後編】なぜ這い上がり、M-1に優勝できたのか

2020.1.16


ネタの最後のパーツ。M-1決勝へ

ついに本格的に動き出したミルクボーイの漫才。コンビを組んだ最初のころから行ったり来たりする漫才の原型があったとはいえ、今の型に近い漫才が仕上がりつつあった。そして、あの「オカンが忘れた」というくだりができあがるのは、M-1優勝の前年、2018年だった。

内海 駒場が忘れるというのに無理があって、他の誰かが忘れたほうがいいんちゃうかという話になったんですよね。

駒場 オカンに誕生日プレゼントあげたいけど、オカンが何欲しいかわからんみたいな感じだったよな。

内海 2017年には、オカンが忘れたというネタではないですけど、「滋賀」というネタはできてました。それが一昨年、2018年のM-1の3回戦でむちゃくちゃウケたんですよ。その後、準々決勝で「叔父」というネタをやって、むちゃくちゃスベるんですけど。「滋賀」も「叔父」も、自分らのイベントではウケてたので、何が正解かわからないときもありましたけど、とにかく自分たちがおもしろいと思うものを信じてやり続けました。
自分たちは探り探りながらも手応えが出てきたんですが、それでもテレビの漫才番組には呼ばれませんでしたね。なんでなのかなと思ってましたけど。そしてようやく、2019年のM-1予選でむちゃくちゃウケて、初めて準決勝に進むことができたんです。

ミルクボーイ「滋賀」(ミルクボーイ公式チャンネル)

駒場 どこの噂かはわからないんですけど、予選もほぼトップ通過で決勝に進んだと聞きました。ただ、決勝に対しては、むちゃくちゃ不安がありましたね。全国放送の生放送、あそこでスベったら恥ずかしいじゃないですか……。

予選すべてに手応えを感じ、確実に爪痕を残し、念願の決勝進出を決めたというのにまったく拭えなかった不安。それをようやく取り除くことができたのは、決勝直前の2019年12月16日。彼らに漫才師としての自信を与えてくれた場所は、ライブ「漫才ブーム」だった。初回は80も埋まらなかったライブが、その日の会場は吉本の総本山「なんばグランド花月(NGK)」。それも約850の席を満杯にした。

「漫才ブーム」2019年12月16日なんばグランド花月公演チラシ

内海 NGKがいっぱいになったことに驚きました。こんなにたくさんの人が応援してくれてるならがんばれると、背中を押されましたね。決勝進出が決まってからも、今までのネタをコネくりまわしたりしてましたけど、あの日に腹をくくれました。決勝前日に出た吉本の若手の劇場「よしもと漫才劇場」でもむっちゃウケて、「よし、これでいける」と迷いはなくなりましたね。

迎えた2019年12月22日、運命の日。彼らは、M-1決勝会場にいちばん乗りで到着した。せり上がりの舞台、マイクの高さなどを確認したところであることに気づく。審査員席も観客席も、舞台から想像以上に近い。

駒場 思ってたより、めっちゃ密集してたんですよ、全部が。「大きすぎないコンパクトなサイズのハコやな。やりやすそうやな」と思いましたね。

内海 僕らのジンクスとして、会場を小っちゃく感じたら、その日はいけるんです。他の出演者は、リハーサルのときに舞台の写真を撮ってたりしましたけど、僕らはあえて撮らなかった。

駒場 すべて終わったあとに撮りたかったから。

内海 これはいけそうやと思ってたからこそ、最後に撮ろうと思った。

その言葉どおり、ミルクボーイは「M-1グランプリ2019」の終わりに、優勝トロフィーを抱き、たくさんの写真を撮られることになった。

(次頁「世の中が変わった。僕らは何も変わってない」につづく)


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鈴木淳史

(すずき・あつし)1978年生まれ。兵庫県芦屋市在住。 雑誌ライター・インタビュアー。 ABCラジオ『よなよな・・・なにわ筋カルチャーBOYZ』(毎週木曜夜10時~深夜1時生放送)パーソナリティー兼構成担当。雑誌『Quick Japan』初掲載は、2004年3月発売号の笑い飯インタビュー記事。

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