「ちょっとよかったあの日」の記憶を唯一無二の筆致で描くAマッソ村上によるファンタスチックな回顧エッセイ。『芸人雑誌』の連載を飛び出して、今回でサイバー連載第2回目。“今月のオキニのスープ”「具たくさんコンソメスープ」を皮切りに、今回振り返るのはAマッソになる少し前、村上の学生時代だ。
今月のスープは「具たくさんコンソメスープ」
冷蔵庫のどの扉を開いても瀕死食材で溢れていた。
いっそのことみんなで送別会した方がいいよねと強引にみんなを鍋の中に招待した。
【材料】
・水…700ml
・コンソメキューブ…3キューブ
・ブラックペッパー…ペパッと
・瀕死食材…芽が出たジャガイモ、縮こまったほうれん草、明日が賞味期限のちくわ、おばあちゃんの目尻くらいシワがあるプチトマト、臭いしめじetc.
【作り方】
①瀕死食材をカット(変色してたり、グニュってなってキモ液が出てる部分は使わない)
②水を沸騰させコンソメキューブをぽいぽいぽいぽぽいぽいぽぴーのリズムで入れる
③①の食材を堅い順に煮込んでいく
④全ての食材が歯で噛める固さになったかな〜と感じたら火を止める
⑤お皿に盛り付けお好みでブラックペッパーをどうぞ
野菜の旨味とコンソメの塩味のバランスが絶妙〜!美味しくて口角が上がる一品!
暑い夏には塩分補給になるし、寒い冬は生姜をプラスしてポカポカ温まろう。
コンソメスープには、タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミンA、ビタミンB群(ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、パントテン酸、ビオチン)、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデン、食物繊維などの栄養が含まれていて「免疫力アップ」「疲労回復」「ガンの予防」「目の健康維持」「便秘解消」「精神の安定」「老化防止」「美肌効果」などの健康効果も盛りだくさん!
飲めばたちまち健康に! 瀕死のあなたはすぐにお飲みくださいませ。
そういえば、うちもコンソメスープの栄養素くらい将来の夢が多いかったな〜
『2』が大学行こって言うてくれてん
うちは高校を出たら就職するつもりだった。
簿記検定3級があるから事務員になら余裕でなれると自信があった。
3年ほど、どこかしらの会社で事務員としてスキルを身につけ、その後はおじいちゃんが社長の
小さな建設会社(株)村上興業で、急須で淹れたお茶と煎餅をバリボリ食べながら
たまに事務をやったりして、家族経営万歳〜!地元最高〜!と悠悠自適に暮らしていければ
いいかなと漠然と未来予想を立てていた高校3年の春。
高校3年の中間テストが終わり成績表が配られた。
教科ごとの点数、その下に教科ごとのクラスの平均点、その下にクラス順位が記されており
うちはクラス順位が2位だった。うちがクラス順位2位を取れる高校って…とお思いになられた方もいらっしゃると思いますが、そこはお察しください(´ー`)お察しの通りです。お察し高校です。そんなことより、うちはクラス順位が2位ということにとても胸が高鳴った。
なんし、うちは数字の中で『2』が一番好きだった。
兼ねてより『2』とお付き合いできたらと夢見ていた。
ラスタカラーのミサンガに『2』とお近づきになれますようにと願いを込めたこともあった。
そして長年の想いがついに『2』に届き相思相愛になれた。
日々の生活がパッと明るくなった。ご飯も美味しかった。
『2』と交際を始めて2日後に急に『2』から俺と一緒に大学行くぞ!と言いながらキスされた。
うちは『2』からの強引で熱いキスに流され、小さくコクンと首を縦に振り大学進学を決めた。
期末テストが終わった後に三者面談があり、進路希望を聞かれる。
横の席にはおかん、前には担任のようこちゃんが座っていて二人ともどうするの〜?って目をうちに向けていた。うちは「大学に行く!」と初めて声に出して言った。
担任のようこちゃんは「いいやんか〜!『2』と交際してるもんな!応援してる!」
おかんは驚いていた。「就職するって言うてたんちゃうの?」
うちは照れながら「その〜『2』と付き合ってんねん、『2』が大学行こって言うてくれてん」
「こんなん言うてますけど行ける大学ありますの?」とおかんが先生に尋ねた。
ようこちゃんはニコニコと「いくらでもありますよ!なんと愛さん内申点も良くてですね!
4.8あるんです!『2』で割り切れる数字です。凄いです!どこでも行けます!」
おかんは「そりゃ凄いわ!まぁ愛が行きたいんやったら、行ったら〜」と了承してくれた。
そのことをすぐに『2』に伝えようと『2』を探したがどこにも見当たらない。
またすぐ会えるやろうと思いそこからは大学に行く準備を着々と進めていった。
うち将来カリスマアパレル店員になる!
夏休みにおかんと大学のオープンキャンパスに行った。
愛車のチョイノリを走らせ約20分で着いた。通いやすい距離。まさにチョイノリで行けるね。
キャンパスは綺麗で、学校内を案内してくれたお姉さん、お兄さん方の雰囲気もすごく良かった。その日は学食のご飯が無料で食べれた。さつまいものパンが美味しかった。
帰り道、大和川沿いをおかんと原付で並走しながら
「毎日さつまいものパン食べたいから、さっきの大学にするわ」とフルスロットルで叫んだ。
「それがええわ〜」とおかんが少し減速して叫んだ。パンで大学を決めた。
担任のようこちゃんに決め手は“パンが美味しかったから”とは流石に言えなかった。
うち「オープンキャンパスに行って良かったです!将来のビジョンが見えた!」
ようこちゃん「いいやん、いいやん」
うち「うち将来カリスマアパレル店員になる!」
ようこちゃん「え〜カリスマアパレル店員!いいやん!うんうん」
うち「なんかファッションに強いコースがあるくて〜服のマーケティングとか学んで大手のアパレル会社に就職して、そこで3年くらい働いて地盤を固めて、買い付けとかしに海外に行って、最終的に自分でお店出したいねん」
とオープンキャンパスの学部説明会で聞いた卒業生の一例を自分の将来の夢のように伝えた。
ようこちゃんは素敵やん!と目を輝かせていた。
「指定校推薦で申し込んでみるね!」と優れた生徒を輩出できるのなら張り切っちゃうと
言わんばかりだった。ようこちゃんは走って職員室へと向かっていった。
ようこちゃんは体育の先生で常にジャージ姿だ。廊下を走るようこちゃんは様になってた。
うちよりもようこちゃんの方が明るい未来が待ってるようだった。
指定校推薦を得られて、面接のみで大学に入学できた。
「毎日さつまいものパン食べるんやったらこれ持っとき」とおかんがミールカードというものを渡してきた。学食で1日800円分使えるカードをおかんは申し込んでいてくれたのだ。
おかげさまで毎日さつまいものパンを食べた。永遠に美味しかった。
温泉掘り師かJAXAかAマッソか
晴れて大学生になったうちは天王寺の地下街にあった小さなユニクロでバイトを始めた。
就職ではないけど大手アパレル会社に入れて嘘の将来の夢がちょっと叶った。言霊〜!
ようこちゃんに「カリスマアパレル店員にうちはなる!」と宣言してから、
それが現実になるように過ごしてしまっていたのかもしれなかった。
見事、カリスマアパレル店員になり店を構えた時にゃ、うちもオープンキャンパスの説明会で卒業生の一例として紹介されてみたいもんやでとまで思っていた。
しかしだ、ユニクロで働き始めてうちは気づいた。服たたむのダルい。
出勤すると必ずしなければならない作業で商品整理(通称:商整)てのがあった。
棚に置かれた商品を綺麗にたたみ整える作業が本当に苦手で、たたみ幅が合わない合わない。
寝る時は正真正銘布団なのに朝になると布団が生クリームに変わっていて
生クリームが分離し、脂肪分が全身に付着しまくっている。
起きてすぐ朝シャンするが、シャワーから出てくるのは土まみれのゴボウで
「食物繊維摂取してっか?」と連呼してくる。そんな何が何だかのダルさ。
商整は時空も歪ますダルさがある。
1つ年上の大川くんは商整がとても上手だった。
たっぱあるのに手先が器用やわ〜と関心させていただいてたもんだ。
うちが商整下手だと社員さんは気づいていた。社員さんがうちに頼む作業は大体、声出しだった。店頭に立ち「安いよ〜」と地下街を歩く人たちに向かって叫び散らかす作業だ。
「クルーネックTシャツが本日なんと!……680円〜!!」「ヒュー!ヒュー!」
叫びテクとしては、値段を言う前はちょっと間を空ける。その後、自分で合いの手入れちゃう。「どうぞお見逃しなく〜!」「逃した魚はXL!」
「本日限りの限定商品です〜!」「明日はもう安くな〜い!今日だけ安ぅ〜い!」
声出しは全然ダルくない。だって叫ぶだけで時給が貰える。理に適っている。
大川くんはあまり声出しはしなかった。
声がこもり気味で地下街のざわめきに声がかき消されるからだ。
田中角栄が言うてたな〜“できることはやる。できないことはやらない。”ってね
確かにそうや!と思った。
ロクに商整もできない小童はカリスマアパレル店員にはなれないと思い、
大学2年生でゼミを選択する時にうちはファッションのコースを選択しなかった。
その選択によりうちのアパレルへの憧れはサラファインのように冷めていった。
うちは自然環境のコースを選択した。そして、アウトドアサークルに属した。
当時ロードバイクが大流行りしていて、大学の駐輪場はロードバイクで賑わっていた。
うちもお兄ちゃんのお下がりの真っ黒のロードバイクを乗っていた。
ロードバイクを乗り始めてから太ももの筋肉の肥大が著しかった。
友達から“アスリート”と呼ばれだしたと同時に、将来の夢が競輪選手になっていた。
しかし、そんなのは一時的なノリに過ぎない。
五里霧中なうちは月1ペースで将来の夢が変わっていった。
「ベンチャー企業すんねん!」や「温泉掘り師でぼろ儲けや!」とか
「奈良で農家するわ!」だとか「普通に焼き鳥屋なるわ!」とか
「ドッグランの監視員になりたい」やら「マジシャンにマジックされる女になる」とか
「NASAは無理やけどJAXAなら必死こけば行けるっぽいから行こかな〜」
などなどと、ほざきにほざいていた。
現在は何でか、候補に一度も出てきていない『Aマッソ』をやっている。
そして多分、体にガタがくるまでAマッソをやるんやろうな〜と
首都圏住みたい街ランキング24位の平屋で未来予想している。
でも、もしもまた『2』がうちの目の前に現れたらうちは間違いなく
また『2』に夢中になるだろう。『2』にディープキスをされ俺と一緒に土星で
ケバブ屋をやろうと言われた時にゃ、うちはすぐさま上目づかいで
『2』のことを見つめながら、しおらしくコクンと首を縦に振ることだろう。
そんな未来がくることを少し期待しているうちがいたりもする。
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