【放送全試合振り返り】『THE SECOND』は、もうひとつの『スラムダンク』だった

2023.5.27
『THE SECOND~漫才トーナメント~』

文=かんそう 編集=鈴木 梢


THE SECOND』。誰がそう名づけたのか知らないが、私にとってこの大会は確実に「THE FIRST」だった。まだまだ第一線で活躍すべき芸人たちの本気に、観終わったあとは眼球が焼かれるほどの熱を帯びていた。もはや、もうひとつの『スラムダンク』。今回は、5月20日(土)にフジテレビで放送されたグランプリファイナルの模様を振り返りたい。

【1回戦 第1試合】金属バットvsマシンガンズ

なんの因果か、字面だけ見るとあまりにも物騒過ぎる「武器対決」が実現した。その芸風は、どちらもその名に恥じぬ超攻撃型漫才。完全ノーガード、ブレイキングダウンを彷彿とさせる殴り合いに、初戦からクライマックスと呼べるほどの名勝負が繰り広げられた。放送倫理スレスレのワードをブチかます金属バットに対し、自虐悪口自虐悪口……ひたすら自虐と悪口を繰り返し、全方位を巻き込みながら大爆発を巻き起こしたマシンガンズに軍配が上がった。

✕ 金属バット 269点
○ マシンガンズ 271点

【1回戦 第2試合】スピードワゴンvs三四郎

ロマンチストと安達祐実、互いのキャラを存分に活かし切ったいぶし銀の漫才を見せるスピードワゴンに対し、三四郎が取った戦法は「新宿カウボーイ」「HEY!たくちゃん」「佐久間宣行」「ダウ90000」「キングオブコメディ」と、審査員が「お笑い好きの一般人」という点を容赦なく突く怒涛のパワーワード漫才。さらに小宮浩信の親友であるウエストランド井口浩之が『M-1グランプリ2022』で放った「警察に捕まりかけている」のオマージュ「警察に捕まり終えている」がクリティカルヒットとなり、準決勝進出を果たした。

✕ スピードワゴン 257点
○ 三四郎 278点

【1回戦 第3試合】ギャロップvsテンダラー

まさに「関西漫才」の頂点を決める、今大会屈指の好カード。「関西の劇場番長」の異名どおり鬼神のような強さを見せるテンダラーの漫才に対し、『M-1グランプリ2018』決勝で一度は否定されたハゲ漫才を捨てるどころか異次元のレベルにまで磨き、有無を言わさぬ圧倒的爆発力を手に入れたギャロップがテンダラーをさらに上回り、準決勝への切符を手に入れた。

○ ギャロップ 277点
✕ テンダラー 272点

【1回戦 第4試合】超新塾vs囲碁将棋

人数とキャラ渋滞を活かした質量で、息をもつかせぬまま観客を笑いのバイクで轢いていく超新塾の漫才は「伝統芸能」の域。一気に会場の空気をガラリと変えてしまう。しかし、つづく囲碁将棋の「ネタに入ると見せかけてそのフリがすでに本ネタ」という革新的な手法の漫才は「圧巻」のひと言だった。ともすれば諸刃の剣にもなってしまう難しいネタにもかかわらず「マツコデラックスクラリネット」「聖徳光和夫太子」「ギニュー結弦」などの異次元のワードセンスと、ボケとツッコミがシームレスに入れ替わりながら舌戦を繰り広げる「これぞ囲碁将棋」と言わしめる情熱漫才を見せつけ、超新塾を圧倒した。敗退後、超新塾が人文字で表現した「囲碁将棋のやってきたことは『正しい』」のエールに思わず涙ぐむ文田大介の姿に胸が熱くなった。

✕ 超新塾 255点
○ 囲碁将棋 276点

【準決勝 第1試合】マシンガンズvs三四郎

この試合のマシンガンズはまさに「神がかっていた」と言っても過言ではない。「金属バットがかわいそう」「絶対金属バットだった観てないけど」と、1回戦中に起きたツイッターの意見すら一瞬で己の血肉としリアルタイムで漫才を完成させていくその姿は「戦いの中で成長していく主人公感」すらあった。桜木花道の「オヤジの栄光時代はいつだよ…全日本のときか? オレは……オレは今なんだよ!!」を体現するような漫才に鳥肌が止まらなかった。

それに相対する三四郎は、1回戦と同じくプライベート、身内、時事、たきうえ、使えるものはなんでも使うバーリトゥード漫才で爆笑をかっさらっていたが、生の熱量で勝るマシンガンズが決勝へとコマを進めた。

○ マシンガンズ 284点
✕ 三四郎 256点

【準決勝 第2試合】囲碁将棋vsギャロップ

先行の囲碁将棋が選んだネタは『副業』。何年も前から劇場で幾度となく披露され、微調整を繰り返しながら進化を遂げてきた代表作だ。ツカミの「はっきり言ってお前に副業なんて10年早いわって言われると思って僕10年前から温めてるんですよ」が本当に10年来になったことのすごみを感じた。対するギャロップは「ノックアウトステージ16→8」でラフ次元との激闘を制したネタ『電車』。テンポ、間、抑揚、すべてが「聞きやすさの極み」ともいえる見事な漫才を披露。

パワーとスピードで観客を圧倒する「剛の漫才」囲碁将棋と、柳のように柔らかくしなやかで美しさすら感じる「柔の漫才」ギャロップ、どちらもこの日最高ともいえる完璧な漫才を披露し、結果はなんと「284点」というグランプリファイナル最高得点での同点。こんなことが現実に起こり得るのだろうか。恐らく全視聴者が「頼むからどちらも上がらせてくれ……」と心から願っていたが、大会規定(観客審査員が持つ1〜3点の配点で3点を多く獲得したほうが勝利)により、ギャロップが決勝進出となった。

✕ 囲碁将棋284点
○ ギャロップ284点

【決勝戦】マシンガンズvsギャロップ

ゴミ&発明vsチャーハン&DJの決勝を誰が予想しただろうか。しかし、金属バット、三四郎との死闘にすべてを出し尽くしたマシンガンズは、嘘のようにボロ負けした。マシンガンズがいなければここまで盛り上がらなかっただろう。その散り様すら「粋」だった。そして、3本ともまったく変わることなく達人級の漫才を披露したギャロップが、初代『THE SECOND』王者に輝いた。これからあらゆる番組で、あの太陽のような頭が見られると思うとうれしくてたまらない。

✕ マシンガンズ 246点
○ ギャロップ 276点

大会としてもバラエティとしても素晴らしい番組だった。決勝戦だけでなく、予選から楽しませてもらったが、出場した全芸人まぎれもなく最高。漫才が好きだと叫びたい。

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かんそう

1989年生まれ。ブログ「kansou」でお笑い、音楽、ドラマなど様々な「感想」を書いている。

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