日々、好きなアイドルを応援する活動、通称・“推し事”に全力を注いでいるお笑い芸人の本日は晴天なり。彼女が現在、夢中となっているのは11人組のグローバルボーイズグループ「JO1(ジェイオーワン)」だ。
JO1は全員日本人のグループながら、K-POPの文化を取り入れた新時代のアイドル。J-POPアイドルを20年以上推してきた彼女でもK-POP文化は知らないことばかりで、同じアイドルを推すというだけなのにこんなにも違うのかと驚いたという。中でも驚きだったK-POPならではの推し活とは。
推しと会話ができる“ヨントン”
“ヨントン”とはK-POP文化のひとつでビデオ通話で推しと会話できるというファンミーティングだ。推しとのヨントンは基本抽選である。
CD1枚につきシリアルナンバーがひとつついていて、当選したらヨントンに参加できる。完全抽選なので、何百枚買っても外れてしまう人もいれば、たった1枚で当たるスーパーラッキー人間もいる。しかしどう考えても、いっぱい応募したほうが当たる確率は高いので10枚、20枚買って応募する人は少なくない。いわゆる「積む(つむ)」というやつである。
JO1はデビューとほぼ同時期にコロナ禍に突入した。本来なら対面のハイタッチ会などが開催されたかもしれないなかで、オタクたちは「画面越しに会えるだけでもイイ!」「30秒話せるだけでもうれしい!」と財布の紐をガバガバにゆるめていったのである。
Z世代は財布に紐があった時代を生きていないと思うので、「財布の紐が~」とか言われてもピンとこないだろう……。というか、よく考えたら私も今まで所持した財布に紐がついてたことないし、見たこともなかった。紐で締める巾着袋の財布が流行ったのは江戸時代らしい。
そんなことはどうでもいい! 要するにチャック全開のホックぶち壊し状態!
私は日頃の行いがよければ当たる、と考えているタイプなので、常にSDGsを心がけ、スーパーで買い物をするときは賞味期限が短い手前の商品から取るようにしているし、ゴミもキッチリ分別している。すべては推しと会話するためだ。
どうせ当たらないと思いつつも、開催が発表されたその瞬間からヨントンで脳内がいっぱいになりほかのことは何も考えられなくなる。家事も本業のお笑いも手につかない。
申し込みすら始まっていない時点でこれだから申し込んでからは大忙しだ。推しに顔を見られるかもしれないのでパックもしなきゃいけないし、美容室にも行かなきゃだし、筋トレにも励む必要がある。
当選してからの忙しさはこんなレベルじゃない。JO1の場合、ヨントンの尺は基本30秒。専用アプリの画面上には残り時間のカウントダウンも表示されるので時間内にどんな会話をするか、ある程度事前に決めておく必要がある。行き当たりばったりでは「あ…… あ……」と『千と千尋の神隠し』のカオナシのようなリアクションしかできない可能性が極めて高い。
自分が推しをどれだけ好きかを知ってほしいため、伝えたいことがたくさんある反面、推しの声を1秒でも長く聞きたいというジレンマが発生する。すべては詰め込めないので自分の言いたいことをいかに簡潔に伝えるか、相手が何秒くらい返事に要するかなどさまざまな場合でのシミュレーションを重ね台本を完成させる。ほかのオタクはどうかわからないが、私はリハーサルも入念にする。推しとつながる前には緊張と不安と恥ずかしさでどうにかなりそうになる。
バッチリ準備していても推しが画面上に現れた衝動でカオナシになることも想定してフリップボードに質問を書いておくファンも多い。音声トラブルが発生しても回避できるそうだ。
自分は芸人なんだから言葉だけでしっかり伝えるぞ!と息巻いていたが、そのころの私はフリップ芸をやっていたので、部屋中に画用紙がばら撒いてあった。ヨントンの時間が徐々に近づき、2分前ぐらいになったところで私は怖気づき、慌てて自分の名前を書き殴った。部屋に画用紙がばら撒かれていてよかった。
このときのヨントンのお相手は最推しのひとりである河野純喜くん。SDGsを実行しているおかげか、私は過去2回、純喜くんとヨントンしている。
スマホ画面に純喜くんが現れ、私から問いかける「私は純喜くんにゾッコンなんだけど、純喜くんは誰にゾッコンなの?」。察した純喜くんは「俺は……イクにゾッコンや!」と言ってくれた。
私のパスを見事に受け止め華麗なゴールを! さすが元サッカー少年! 令和でいうところのクリティカルヒット! やったー平成でいうところの惚れてまうやろ! 昭和でいうところの、え~となんだろう? それこそゾッコン?
とにかく、純喜くんへの気持ちがゾッコンから、超スーパーウルトラミラクルゾッコンofゾッコンに進化したのだ。純喜のためならなんでもできる。あなたを脅かすすべての脅威を私が追い払う! あなたに降りかかるすべての災難は私が引き受ける!
ちょっとオーバーだが、それくらいのことは思った。だって、純喜くんが私にゾッコンだと言ったのだから。
ヨントンのルールのひとつに「過度な要求はお控えください」というのがある。要は「ムチャなお願いは禁止」ということなのだが、私だったら大喜利を振られただけでもムチャな要求だと捉えてしまうので、ムチャのレベルがわからなかった。
なのでこのときは「〇〇って言ってください!」も禁止の可能性があると考え、純喜くんに委ねる質問形式にした。
私は他界隈の推しに視力検査コントと称し、差し棒で文字を1文字ずつ指して、最終的に「す、き、だ、よ」と言わせるというクソバカド痛ヨントンをぶちかましたこともある(これも需要があれば語らせてほしい)。なので質問形式で「ゾッコン」と言わせるくらいはセーフだと思った。
ちなみにヨントンには、ほかにも本人確認できないため被り物や過度のメイクがダメだったり、家族であれ第三者が映ってはダメだったり、スマホ画面1スクロールでは収まらないほど数多の厳しいルールがある。もちろん録音録画も禁止だ。なので私はヨントン終わったら記憶が曖昧になる前に急いでメモしている。部屋に散らばった画用紙はここでも役に立っていた。
ここ最近はずっと與那城奨くんにプロポーズしたくて応募しているが当選しないので、もっと徳を積もうと思う。
15歳からの夢を叶えてくれた“チッケム”
こちらも私のオタク人生に衝撃を与えたK-POP文化のひとつだ。日本語では推しカメラというらしい。要するに推しだけを追いかけた夢のビジョン。歌番組などを観ていても、カメラワークで推しが映っていなかったりする。チッケムはメインのカメラとは別にひとりだけを追いかけているので、基本的に推しだけをずっと見ることができる。
まだコンサートの映像がVHSだったころ、このシステムにどれだけ憧れたことだろう。15歳の自分に伝えたい。あんた25年後、夢叶えてるよって。
自慢じゃないが、私の家のテレビは75インチなので、4K画質のチッケムをテレビに映したらもうVRばりに目の前で踊っているように見える。最前列で高画質な推し独り占め。ついでにこれも、15歳の自分に伝えたい。あんた25年後、75インチのテレビを買ってくれる旦那と結婚するよって。
個人的な楽しみ方として、川尻蓮くんのチッケムは0.75倍速にして鑑賞するのがおすすめ。表情の切り替えや洗練されたダンスの所作、体幹などスローモーションで見ると彼のすごさをより楽しめる。私は3年以上前のオーディション時代のチッケムをいまだに0.75倍速で観ることがある。何年経っても何度観ても、いいものはいい。
推しだけじゃなく、11人分のチッケムを鑑賞しなければならないのだから、本当にオタクは忙しい。
公式で認められている?“ケミ”
ケミはケミストリーの略で、メンバーの中でこのふたりが一緒にいればこんな化学反応が起こるよね!というのが語源らしい。いわゆるカップリングのことで、K-POP界隈ではこれをケミと呼ぶらしい。
ケミにはそれぞれ呼び名がついている。大半が「るきしょせ」(白岩瑠姫×大平祥生)、「つるきま」(鶴房汐恩×木全翔也)など、名前の一部分を合わせるのだが、ふたりとも愛知出身だから「愛知ズ」(佐藤景瑚×木全翔也)、ふたりともチベットスナギツネに似ているから「チベスナ兄弟」(金城碧海×川尻蓮)など、名前以外のものが由来しているケミ名も存在している。
本人たちがケミ名を自ら考案するという現象も起きている。JO1では、「地獄兄弟」(佐藤景瑚×豆原一成)や、「バイオハザード」(鶴房汐恩×川西拓実)などがある。しかし、このあたりは誰も、といったらオーバーかもしれないが、誰も呼んでいない。
メンバーには申し訳ないが、ここは意を決して誰も呼んでないと言い切って、私は呼んでるもん!というオタクを炙り出したい。私のサーチ力では見つけ出せていないので。
これらが浸透していないのには、わけがある。自分の推したちを地獄呼ばわりしたいオタクは少数派だろうし、「バイオハザード」は本家に埋もれてしまっているかもしれない。ネーミングセンス、呼びやすさ、キャッチーさはケミ名をつける上で必須なのである。
しかし、浸透しているケミ名について、私が考案しましたー!私が言い始めましたー!という人を見たことがない。どっかの誰かが何気なくSNS上で言い出したものが広まっていったのだろう。
アイドルのメンバー同士のカップリングはネーミングも含め、本人たちにバレないことを前提にオタクが勝手に盛り上がってるだけだった。しかし、最近はSNSによってオタクのささやきさえも簡単に公式に届く時代になってしまったので、とあるテレビ番組にJO1が出演した際、JO1に存在する55通りのケミ名が一覧表となって発表された。
オタクだけのキャッキャッワイワイを本人たちに見られた恥ずかしさが生まれたのと同時に、公式も認めてるんだから堂々と太陽の下でケミを楽しんでいいんだ!と胸をなで下ろした自分もいた。
お気に入りケミ3選
初めにいわせてほしい。本当は3選なんかで収まりはしない。収まるわけがない。でも全部紹介するわけにもいかないので、奥歯をギリギリ噛み締めながら決死の想いで選んだ3選ですのであしからず。
「るるスカ」(白岩瑠姫×金城碧海)。自他共に認める極度の人見知りで、メンバーにもある一定の距離感を保っている(ように見える)瑠姫くん。その証拠にメンバーの誰も瑠姫くんの部屋に入ったことがないという話もあり、今までまわりに年上が多かったことから、年下メンバーといると、自分がしっかりしなくては!と気を張ってしまう的なことも語っていた。そんな瑠姫くんが比較的心を開いている(ように見える)年下メンバーが碧海くんだ。
碧海くんもファンの間ではポーカーフェイスの印象が根づいており、特別人懐っこいというイメージはなかった。そんな碧海くんがある日突然、瑠姫くんのことを「るるたん」と呼んだ。しかも、連呼した。
そのとき、私に波動拳のようなものを真正面から食らったような衝撃が走った。その日の記憶は「るるたん」の4文字が占拠した。ツイッターのトレンドにも入っていた。
孤高の王子の懐に入り込んだのが、ポーカーフェイスと呼ばれる碧海くんだったという意外性もまたいい。
「純豆腐兄弟」(豆原一成×河野純喜)。55通りのケミ史上、大手ケミ(人気のあるケミのこと)のひとつといっていいだろう。
デビュー公約である滝行を敢行した当時17歳のまめちゃん。寒いなか、冷たい滝に打たれるまめちゃんを見て、見届け人である純喜くんも「まめ! 俺も行く!」と服のまま滝に向かったのは伝説のエピソードだ。
私が純喜くん推しになった決定打的な出来事でもあるので、思い出し泣きをしながら今は原稿を書いている。
最年少にもかかわらずしっかり者で好青年なまめちゃんだが、純喜くんには生意気な一面も見せる。私はそれもたまらなく好きだ。これぞケミの醍醐味。めちゃくちゃ懐いてる証拠なので、生意気大歓迎。
かわいい弟とおおらかなお兄ちゃんの構図には、男兄弟がいなかった私の勝手な理想がギュッと詰まっている。
「つるたく」(鶴房汐恩×川西拓実)。バイオハザードと呼んでいなくてごめんなさい。
どちらかというとレアな組み合わせかもしれないが、私は大好物。わかる人にはわかるこのふたりのケミストリー。センスの鬼Mr.オールラウンダー拓実くんと唯我独尊ありのまま素のまま鶴房くん。
拓実くんのオールラウンダーっぷりは多岐にわたり、ビジュアルのよさやパフォーマンスに留まらず、密かにツッコミのスキルまで兼ね備えている。だから鶴房くんのまったく計算されていない勝算ゼロの笑いも華麗に拾っていく。
あのふたりはいつも一緒にいるよね〜!系のケミも尊いが、そこまでよく絡むふたりじゃないからこそ、絡みが発動した際のごほうび感がたまらない。このふたりが絡んでたら、喉がカラカラのときに飲む生ビールみたいに、うめー!って声に出しちゃう。
ケミ推しは至極の推し活である。そしてまだまだ語り切れないほど、心踊る推し活は存在するのだ。
関連記事
-
-
天才コント師、最強ツッコミ…芸人たちが“究極の問い”に答える「理想の相方とは?」<『最強新コンビ決定戦 THE ゴールデンコンビ』特集>
Amazon Original『最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ』:PR -
「みんなで歌うとは?」大西亜玖璃と林鼓子が考える『ニジガク』のテーマと、『完結編 第1章』を観て感じたこと
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
「まさか自分がその一員になるなんて」鬼頭明里と田中ちえ美が明かす『ラブライブ!シリーズ』への憧れと、ニジガク『完結編』への今の想い
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
歌い手・吉乃が“否定”したかった言葉、「主導権は私にある」と語る理由
吉乃「ODD NUMBER」「なに笑ろとんねん」:PR