「不登校YouTuberゆたぼん」なぜ話題?人気獲得の歴史と“投げ銭要求”の違和感
昨今のネットニュースで「ゆたぼん」という名前をよく見かける。YouTube『少年革命家ゆたぼんチャンネル』で登録者数15.3万人(2022年12月6日現在)を誇る「不登校YouTuberゆたぼん」とはいったい何者なのだろうか?
イラストレーター・コラムニストのヨシムラヒロム氏が、約5年にわたるゆたぼんの注目動画をピックアップ。その話題性に迫る。
目次
ネット民を虜にする「少年革命家ゆたぼん」
このごろ、Yahoo!ニュースを見ると「少年革命家ゆたぼん」の記事がよく上がっている。
書かれている記事の内容は毎度異なるが、問われていることは毎回同じだ。ゆたぼんが学校に通うべきか否かが注視されている。
コメント欄ではさまざまなユーザーがそれぞれの視点で、「ゆたぼんが学校へ行くべき理由」を説く。Yahoo!ニュースの読者は今、良くも悪くもゆたぼんの虜である。
御多分に洩れず、私もゆたぼんに興味津々なのだが、その内実はわかっていない。第一、彼がどのように市民権を得ていったかを知らない。それゆえ学校に通わなくなった理由など知るよしもない。ヤフコメ、ツイッターなどでゆたぼんについて言及している人の中にも、私のようなタイプがいるはずだ。
よって今回は自分を含めたゆたぼん初心者のために、「初めてのゆたぼん」といった記事を綴っていきたい。
“革命色”は一切なかった、ゆたぼんのデビュー動画
最初にゆたぼんが世間に登場したのが、2017年3月26日に配信された『子どもお笑い劇場「じゃんけんダッシュ」』という動画である。
現在も活動のベースになっている『少年革命家ゆたぼんチャンネル』の最古の動画だ。「子どもお笑い芸人」を自称する、ゆたぼんとその妹たちが芸人のまねをしている内容である。
動画について言及することは特にないが、概要欄が気になった。そこには、ゆたぼんの父親で最大の理解者・中村幸也(心理カウンセラー)の手によって、「子どもお笑い劇場」開幕宣言がされていた。
「大人になったらお笑い芸人になりたい」と願うゆたぼんに対し、中村が「今すぐなればいい」と助言したことで始まったチャンネルだと解説される。デビュー時のゆたぼんに、革命の色は一切ない。
ゆたぼん、初めての“バズ”「不登校は不幸じゃない!」
以降、ハイペースで同チャンネルは動画を出しつづける。しかし、いかんせん内容に一貫性がない。コント、歌、食レポ、炎上系と手当たり次第に手を出した形跡が見受けられる。動画の端々から「どうにかバズらせたい!」といった欲望が漏れるが、光明は見えない。
試行錯誤の末、100本以上の動画を出したあと、ついにゆたぼんはバズを経験する。2018年8月19日に投稿された「不登校は不幸じゃない!」という動画で100万回再生を突破。ちなみに、この動画は現在約350万回再生されている。
動画内でゆたぼんは、1年前から学校に行っていないことを初告白。その後、2分間にわたって「嫌々ながら学校に通うことは不幸だ」と熱弁していく。
この動画でゆたぼんは“子どもながら物申す系YouTuber”というキャラクターを発見し、ほかのキッズチャンネルとの差別化に成功する。
概要欄にて“少年革命家”というワードも初出し、YouTuberの誰しもが欲しがる独自性のあるキャラクターを獲得した。
以降、ゆたぼんは学校に行っていないことを主張する動画の配信をつづけている。
ゆたぼんが不登校になった衝撃の理由
そこから4カ月後、12月4日に配信された動画で、ゆたぼんのキャラクターはもうひと段階進化する。動画タイトルは「【ロボットになるな!】不登校の天才YouTuber「麦わらのゆたぼん」」である。
ここで“天才”の称号と、現在もトレードマークになっている“麦わら帽子”を獲得する。ヴィジュアルと中身を合わせて、“少年革命家”というブランディングを推し進めていく。
さらにこの動画では、ゆたぼんが不登校になったふたつの衝撃的な事実も明かされる。それが下記だ。
1.まわりの子たちがロボットに見えた
2.宿題をやらなかったら、先生に叩かれた
1は子どもの戯言なのでさておき、2はただの暴力事件である。
この事実を知ったとき、なぜゆたぼんは被害者であることをもっとアピールしないのか、不思議に感じた。せっかく獲得した知名度は、こういった学校の問題を提起するときに生きるはずだ。5分間にわたってシャドーボクシングをしつづける動画を出すくらいなら、暴力事件の詳細を話したほうがいい。
「投げ銭を要求するゆたぼん」への違和感
YouTuberは常に話題を提供しなければならない。天才少年革命家ゆたぼんも例外ではない。
2022年1月3日の「学びの大冒険するで!」といった動画で、ゆたぼんは次の一手を打つ。それが「ゆたぼんスタディ号計画」だ。
ゆたぼん専用の勉強カー“ゆたぼんスタディ号”という車に乗って、47都道府県を巡るビッグプロジェクトである。「勉強は座学だけではない」をモットーにさまざまな土地を見て回りつつ、不登校の子、苦しんでる子とも直接会い、元気を与える内容だという。
費用はクラウドファンディングで募り、480万円の資金調達に成功。そして約半年後の6月30日に、父親の運転する“ゆたぼんスタディ号”に乗って、旅を始めた。
◯◯県編、◯◯府編とその土地土地で起きたことを動画で紹介していく。中でも岡山編と香川編の間に配信された「【緊急報告】日本一周できません」は印象に残った。
ここでゆたぼんは残り7県で完走といった状態でありながら、ガソリン代の高騰から旅の資金がなくなったことを打ち明ける。赤字だと言い、「投げ銭をしてほしい」と視聴者にお願いをする。
ただ、誰でも投げ銭をしていいわけではない。ゆたぼんは「投げ銭したから説教させろ、と言ってくる人はしなくていい」「ゆたぼん自由に楽しんで、といった人だけしてほしい」と限定する。そして楽しい動画を作って必ず視聴者にお礼をすることをアピールした。
筆者はコラムを書くために『少年革命家ゆたぼんチャンネル』の動画を100本以上視聴した。ただこの動画に関しては、特にゆたぼんのコンセプトから大きく逸脱していると感じた。
ゆたぼんが動画を配信する理由は、自身と同じ境遇にある不登校の子を元気づけるためだ。カメラに向かって、「自身の自由を楽しむ」がための投げ銭を要求するゆたぼんを彼らはどう捉えるのだろう。
また投げ銭を求められる大人からすれば、ゆたぼんの動画で満足することは非常に難しい。現在、あらゆるYouTuberの動画はテレビ並みの凝った編集が加えられている。
しかし、ゆたぼんの動画は演出もテロップもないホームビデオに近い形式で配信される。本編が短い場合、ゆたぼんの歌を最後に加え、収益化のために動画時間をかさ増しすることも多い。ゆたぼんの一挙手一投足を追っていきたい人以外、長時間の視聴は難しい。
さらに残念なことに、ゆたぼんの行動原理は、“ゆたぼんパパ”こと中村幸也の考え方と相反するものだ。中村は2015年にあきらめることで人生が豊かになるハウツー本『あきらめる勇気』(ハート出版)を上梓している。
この本で「継続は力になるとは限らない」と章立てし、「無意味に継続するのをやめて、新たに目標を設定し直してみるのです」と記述している。ゆたぼんパパは読者に伝える以前に、まずは愛息ゆたぼんに旅のあきらめ方を教えたほうがいい。
『少年革命家ゆたぼんチャンネル』は究極のリアリティショー
47都道府県を巡る動画も観たが、想像とは違ったものだった。「人生は勉強や!」を掲げるゆたぼんにとってはなんでも勉強になるかもしれないが、観光の要素が多過ぎる。
ディスカバージャパンといった面ではいいが、ゆたぼんだから可能な旅ではないように感じた。定年退職した夫婦が長年働いた慰労で、諸国漫遊するような内容だった。
個人的には、それこそ不登校の子や人生に悩みを抱える人をヒアリングする様子が観たい。新潟県、大阪府、兵庫県、佐賀県、大分県の動画にはそういった要素もあったが、47分の5では少な過ぎる。
ゆたぼんは現在13歳、ネットの情報を見ると中学校には週の半分ほど通っているらしい。8歳からYouTubeに登場し、もうすでに5年が経過した。
『少年革命家ゆたぼんチャンネル』は、ゆたぼんがどのような大人に成長するかを追う究極のリアリティショーとして捉えることができる。今後も定期的に追っていきたいので、もうちょっとだけ動画編集をこだわってほしい。
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