『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』続編が“傑作”ではない理由。その問題点と原因は?
『ブラックパンサー』シリーズの2作目『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が、11月11日より日米同時公開された。
今作はブラックパンサーことティ・チャラを演じてきた俳優チャドウィック・ボーズマンの死が、そのまま反映された作品としても話題を集めている。
目次
人々に愛された役者、チャドウィック・ボーズマンの死
役への没入と実在した人物を演じることを得意とし、多くの映画ファンから愛されてきたチャドウィック・ボーズマン。そんな彼の代表作のひとつとして挙げられるのが、MCU作品である『ブラックパンサー』(2018)だ。
原作におけるブラックパンサーの初登場は、1966年の『ファンタスティック・フォー』。のちに単独シリーズ化され、今もシリーズが定期的に出版されるほど人気キャラクターであり、原作ファンも多い『ブラックパンサー』。その映画化作品が高い評価を得て世の中に認められていったのは、なんといってもチャドウィックが主演を務めていたからこそだろう。彼の存在感によりキャラクターの魅力が高められ、“ブラックパンサーはチャドウィックでなければならない”という印象が世に広まり、強まっていった。
だからこそ2020年8月、約4年にわたる大腸がんの闘病の末に、彼が43歳という若さでこの世を去ったという訃報を知ったとき、映画界は大きな悲しみに包まれたのだった。
主役の“不在”を作品へ投影させること。作り手の葛藤と世間の受容
当然ながら『ブラックパンサー』シリーズ続編も、当初はチャドウィックありきで企画が進められていた。前作同様に監督・脚本を務めたライアン・クーグラーも、続編の主演はチャドウィックであることを想定しており、実際に脚本の初稿と今作の内容はまったく異なるストーリーとなっている。ライアンは、その悲しみと衝撃から作品自体を降板することも考えたそうだ。
同じくマーベルでは、『インクレディブル・ハルク』(2008)や『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)などでサディアス・ロス役を演じてきたウィリアム・ハートも2022年3月に亡くなっているが、こちらは今後展開される「サンダーボルツ」シリーズなどで重要人物となってくることから、ハリソン・フォードが代役になることが発表された。
また役者が亡くなったわけではないものの、『アイアンマン』(2008)でもジェームズ・ローズ役はテレンス・ハワードだったはずが、『アイアンマン2』(2010)からはドン・チードルが演じるなど、長くつづいているシリーズであればあるほど、スキャンダルや契約上の問題などによって、急に俳優が変更になることは、それほど珍しいことではない。
さらにMCUは、フェーズ4から“マルチバース”といった「複数の宇宙が存在する」ことを前提とする概念を取り入れていることから、キャラクターを復活させることや、別次元の同キャラクターとして、別の俳優に演じさせることは不可能ではないし、違和感を与えない。キャラクターの生死を不明にし、あやふやな状態にしておくこともできたはずだ。
ところが今作は、チャドウィック・ボーズマンという俳優が亡くなった事実をメタ的に取り込み、作中では彼が演じるティ・チャラが亡くなったという設定となっている。チャドウィックの死を作品のプロモーションに利用しているようで、非難の声はあったに違いないが、それでもこの設定が受け入れられた背景には、ライアン・クーグラー監督の意思から、商業的なものよりもチャドウィックへのリスペクトを前面に感じられたからに違いないだろう。
ストーリーテリングに問題も。その原因は?
チャドウィックが亡くなったことの悲しみが作中にも漂うなかで、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が手放しで傑作といえない理由がある。それは、本作があまりにチャドウィックの死に引っ張られ過ぎていて、『ブラックパンサー』という作品の持つテーマ性が見失われてしまっている点だ。
本来、『ブラックパンサー』は資源戦争や移民問題など社会的なメッセージを内包する作品であり、そのあたりは前作においてもざっくりと描かれていた。そして今回初登場の“サブマリナー”ことネイモアのキャスティングには、メキシコ系の俳優テノッチ・ウエルタを起用してメソアメリカを意識したということで、移民問題を描くつもりだったはずだ。
まさにロシアのウクライナ軍事侵略に通じるタイムリーな題材なはずなのに、本作では政治劇の雑さが露呈してしまっており、現実問題とのリンクを遠ざける結果となってしまっている。
映画化第一作『ブラックパンサー』がヒーロー映画でありながらも高く評価され、アカデミー作品賞候補に名が挙がったのも、アメリカという国が抱える社会問題を見事に反映していたからだというのに、その『ブラックパンサー』が、肝心の社会問題とのリンクを失ってしまっているというのは致命的ではないだろうか。
そうでなくても“愛すべきツッコみどころ”とは違う、ストーリー構造に見過ごせないほどの問題があり、粗が目立つ。そこを都合よく、チャドウィック不在の悲しみで蓋をしているようで「これでよかったのだろうか」と、鑑賞中には不安にさせられたほどだった。
マーベルは“質より量”に?
マーベルのライバルとして、長年君臨しつづけるDCコミックス。そんなDCも、マーベル作品が配信される『Disney+』の世界観拡大につづくように、親会社であるワーナーメディアの配信プラットフォーム『HBO Max』向けに、オリジナル映画やドラマの展開を多く企画していた。
ところが、ほとんど完成していた『バットマン』のスピンオフ配信映画『バットガール』をお蔵入りにしてしまったのだ。そのほかにも『ワンダーツインズ』が制作開始直前でキャンセルになるなど、急過ぎる方向転換がDC内で起きている。
その理由に、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーCEOのデヴィッド・ザスラフが、“DC作品は映画館で観ることを前提とした作品とするべき”、つまり配信作品だから、劇場公開ではないから、という質より量的な考え方に異義を唱えたことがある。このことは遠回しに、“質より量”になっているマーベルの問題点を指摘しているようにも受け取れるだろう。
今後10年のプランはすでにあると豪語するデヴィッド・ザスラフだが、DCがマーベルとは真逆の方向へと向かおうとしているのは事実で、今後DCとマーベルはさらに互いを意識していくはずだ。その意識と摩擦が、よい方向に向かっていけばと思うのだが。
ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー
全世界で社会現象となった「ブラックパンサー」の待望の続編。国王とヒーロー、ふたつの顔を持つティ・チャラを失ったワカンダに海の帝国が襲いかかる。未来を切りひらく者たちと共に、この脅威に立ち向かう新たなブラックパンサーは誰なのか……。
11月11日から全国公開中
監督:ライアン・クーグラ―
製作:ケヴィン・ファイギ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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