2022年10月からスタートした漫画家発掘ドキュメントバラエティー『THE TOKIWA』(日本テレビ)。11名の漫画家たちが熾烈な競争を繰り広げる本オーディションの優勝者は、劇団ひとりがこの企画のために書き下ろした原作をマンガにして、電子コミックサイト『まんが王国』で連載する権利を獲得する。
原作を書き下ろすにあたり、父方の故郷・高知県土佐市をその舞台に選んだひとりは、1日かけて自らロケハンを敢行。推敲を重ね、第5稿まで書き直しを行った。ひとりが約3カ月をかけ完成させた、ハートフルな青春ラブコメ『ようこそ!パラダイス劇場へ』原作第3話分を、QJWebにて公開。
『ようこそ!パラダイス劇場へ』第1話
『ようこそ!パラダイス劇場へ』第2話
『ようこそ!パラダイス劇場へ』第3話
『ようこそ!パラダイス劇場へ』
○パラダイス劇場内
1話のつづきから。
座席に夏海。舞台上に峯岸。
夏海「私……死ぬの⁉」
峯岸「そうと決まったわけじゃない。あくまでも走馬灯」
夏海「だって走馬灯って死ぬ前に見るやつでしょ?」
峯岸「ちょっと違う。死ぬ前じゃなくて『死にそうなとき』に見るもの」
夏海「じゃ、死なない?」
峯岸「そりゃ、僕にもわからない」
峯岸「とにかく君は崖から落ちた」
崖から落ちる夏海。
峯岸「いや、厳密に言えば落ちてる最中だね」
夏海「落ちてる?」
峯岸「走馬灯ってのは一瞬だって聞いたことある?」
夏海「うん」
峯岸が指を鳴らすと黒子と巨大ボードを持ってくる(ワイドショー的な)。
以下、巨大ボードを使って説明。
峯岸「まず頭に入れてほしいのは、この劇場での時間の進み方は君のいた場所とは違う」
峯岸「大体、平均すると一年分の走馬灯が地球上での0.002秒」
大事なところはボードをめくる。
峯岸「つまり80歳まで生きたとしても走馬灯は0.16秒」
峯岸「君の場合は(手カンペを見て)16歳だから0.032秒」
峯岸が合図をすると黒子がボードが舞台袖へはける。
峯岸「その僅かな時間で君の人生を振り返るわけだ」
夏海「なんのために?」
峯岸「気になるよね?」
峯岸「もちろん『お疲れ様でした』って意味もあるけど最大の目的は……」
ドラムロールで煽る。
峯岸「天国か! 地獄か!」
夏海「え?」
峯岸「死んだ瞬間に魂は天国か地獄に行かなきゃならない、そのジャッジのためさ」
夏海「……本当にあるんだ、天国とか地獄って」
峯岸「もちろんだとも。そして、そのジャッジをするのは……」
峯岸「あ、ワン、あ、ツー♪」
夏海「いや、もう歌はいいから説明を……」
峯岸「あ、ワンツースリーフォー♪」
古びた大きなセンターマイク、峯岸。
アメリカのジャズバーみたいな雰囲気。
後ろにはジャズバンド。コーラスもいる。
峯岸「どこにいるのか♪」
峯岸「なにを思うのか♪」
峯岸「誰も知らない♪知ってはいけない♪」
峯岸「けど必ずどこかで見ているさ♪」
峯岸「天国か♪」
夏海の側でダンサーと天国の様子(天使の格好をしたり)。
峯岸「地獄か♪」
夏海のそばでダンサーと地獄の様子(鬼のお面を被ったり)。
峯岸「すべてのジャッジはこのお方♪」
ダンサーが台車に乗せた大きなオブジェを押してくる。
赤いマントがかかっている。
峯岸「ミスター♪エ~、ン~、マーーーー♪」
赤いマントをめくると、閻魔様。
峯岸「ご存じ、閻魔様!」
夏海「閻魔様も本当にいたんだ」
峯岸「そりゃ、いるよ」
舞台袖に捌けていくミュージシャンやダンサー。
峯岸「過去にここの劇場に来たけど命拾いした人達がのちに地球で広めたのさ」
峯岸「たまにいるんだ、走馬灯を覚えてる人達が」
夏海「けど、思ってたより……」
峯岸「何?」
夏海「普通のおじさん。なんか校長先生みたい」
峯岸「へへへ。そりゃ皆、話を大袈裟に盛ったからだろうね」
峯岸「けど、こんな見た目だけど容赦はしてくれない」
峯岸「なんせ閻魔様がすべての走馬灯を見て、天国か地獄かを決めるんだ」
沢山のモニターを見ている閻魔様。
閻魔様「……」
悪そうな顔写真の貼られた書類に地獄のハンコを押す。
峯岸「だから、もし間違っている部分とかあったら言ってね。冤罪で地獄ってのは避けたいから」
黒子が閻魔様のオブジェを片づける。
峯岸「まぁ(書類を見て)君は大丈夫そうだけど」
峯岸「さぁ、それじゃ早速始めよう」
映写室に峯岸が合図をすると、映写技師が映写機を回す。
劇場内が暗くなり映写機がスクリーンに照射する。
古い映画のような3、2、1のカウントダウンが映し出される。
活弁スタイルで峯岸。
峯岸「時は今から遡ること16年前!」
峯岸「トリノオリンピックで荒川静香がイナバウアーで金メダル」
スクリーンに荒川静香のイナバウアー。
峯岸「花畑牧場の生キャラメルが大ブーム」
スクリーンに生キャラメルを手にした田中義剛。
峯岸「そんな2006年の7月12日、午後3時41分」
峯岸「高知県は土佐市にある〇〇病院で父・正平、母・寿江の間から北村家の長女としてそれはそれはかわいい、3012グラムの娘が産声を上げた」
正平と寿江に抱かれている夏海。
峯岸「病室から見える海に7月の強い日差しが乱反射するのを見て、生まれた娘を父・正平は『この海にきらめく夏の光のように輝いてほしい』と願いを込めて夏海と命名」
病室から海にあたる夏の強い日差しを眩しそうに正平。
峯岸「と、夏海には説明しているが気象庁の記録によれば高知全域、その日は曇天」
スクリーンに気象地図。
夏海「え、そうなの?」
峯岸「名前を決めるのをすっかり忘れていた正平が妻の寿江に怒られるのを恐れ、前日に飲んでいたスナックの店名をそのまま拝借した、と言うのはここだけの話」
病室で冷や汗をかいている峯岸。
スナック『夏海』の看板。
峯岸「しかし、そんな曇り空もどこ吹く風。夏海と名付けられたその娘は、周囲の人間を夏の日差しの如く、明るく照らしていくのである」
赤ちゃんの夏海。
峯岸「これは、そんな夏海の過ごした16年間の記録である」
画面に北村夏海物語のタイトル。
峯岸「北村夏海物語、始まりー始まりー」
夏海「……」
咳払いをする峯岸。
気がついたように拍手をする夏海。
峯岸「決まった、と思ったら拍手してくれていいからね? そうすると僕も乗ってくるからさ」
峯岸「別に無理強いはしないけど」
夏海「……してるじゃん」
峯岸「ん?」
夏海「ううん」
夏海「ところでさ、なんて言うのか……」
峯岸「何?」
夏海「うーん……なんか古くない?」
峯岸「え……」
傷つく峯岸。
夏海「あ、いや、なんか大昔の映画みたいだなぁって」
峯岸「む……む……」
夏海「戦後? いや、もしかして戦前?の映画みたい」
峯岸「あえてだから‼」
峯岸「これは活弁スタイルなの! 分かってやってるの!」
ムキになる峯岸。
夏海「はっ、ごめんさない」
峯岸「やろうと思ったら最新の技術でもできるし!」
峯岸「古びた劇場に見えるけど4KのIMAXレーザーだし!」
スクリーンにIMAXレーザーのロゴ。
峯岸「音響も最新のAtmosだし!」
スクリーンにAtmosのロゴ。
峯岸「それも踏まえてあえてやってるの!」
峯岸「カット割も編集もすべての演出は各劇場の支配人に任せられている」
峯岸「だから支配人によっては紙芝居だったり人形劇スタイルだったり・・・」
夏海「ちょ、ちょっと待って」
峯岸「ん?」
夏海「いま『各劇場』って言った?」
峯岸「うん」
夏海「ってことは、ここ以外にもあるの? 走馬灯劇場」
峯岸「そりゃ、あるさ。僕がひとりですべての走馬灯を管理できるわけないんだから」
夏海「え、じゃ……」
崖から落ちている夏海。
崖から落ちている賢太。
賢太の顔。
夏海「もしかして賢太も見てる? 走馬灯」
○賢太のパラダイス劇場
スーツ姿に眼鏡を掛けたキャリア風の女性・田淵。
ヘッドセット、手にプレゼンテーション用のリモコンを持っている。
半円形のステージ上にTED風のオブジェでDEAD。
田淵「赤ん坊はまず何かに掴まって立ちます」
スクリーンに教材風のイラストで赤ちゃんが掴まって立っている。
田淵「これを掴まり立ちと言います」
スクリーンに『掴まり立ち』のテロップ。
田淵「その掴まり立ちの世界平均が11カ月と21日」
田淵「それに対して賢太氏の場合はやや遅めの12カ月と6日目でした」
スクリーンに各データ。
田淵「では掴まり立ちをした瞬間をご覧ください」
スクリーンに映し出される滝川家の居間、掴まり立ちをする賢太。
喜ぶ賢太の両親、良弥と彩美。
スクリーンに映る赤ん坊の賢太。
客席で観ている現在の賢太。
『ようこそ!パラダイス劇場へ』第1話
『ようこそ!パラダイス劇場へ』第2話
『ようこそ!パラダイス劇場へ』第3話
『THE TOKIWA』番組情報
2022年10月30日(日)から『シューイチ』(毎週日曜午前7時30分~)内のコーナーとして毎週放送(全8回)。『まんが王国』サイト内では『THE TOKIWA』第2弾の特設ページも公開中。
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