観ていて飽きないLDHの逸材、川村壱馬
無数の不良高校生たちが乱舞するが、この第8作は、最終的には端正な対決に辿り着く。
シリーズのメインステージとなるSWORD地区。その中でも最凶の不良高校と言われる鬼邪(おや)高校。その全日制で頭を張る花岡楓士雄(ふじお)が、本作の主人公だ。
楓士雄は、明朗快活で、仲間想いで、とにかくチャーミングな奴だ。伝説の不良高校、鈴蘭男子高校(髙橋ヒロシのマンガでおなじみ)を訪れ、同校最強の男ラオウに、素敵な笑顔で「友達になろう」と声をかけることもできる。裏表のない素直でピュアな性格は、小競り合いが日常の悪たれ高校生の中では異彩を放ち、ゴツいオラオラ系の連中もつい、ほだされてしまう。
演じるのは、「THE RAMPAGE from EXILE TRIBE」の川村壱馬。切れ長の眼差しと、人懐っこいスマイルの交錯が鮮やかで、喧嘩に突入すると一転、シャープで力強い身体性を遺憾なく発揮する。緩急がリズミカルで、とにかく観ていて飽きない。腰を低くして疾走する姿には、アスリート的な爽快さもあり、痺れる。納得の、LDHの逸材だ。
“赤の天使”と呼びたくなる、俳優・中本悠太の誕生
そして、ポスターやチラシなどのメインビジュアルで、川村の左うしろにいるのが中本悠太である。韓国のグループ「NCT 127」でYUTA(ユウタ)として活動している日本人。演技初挑戦とは思えないほど、沁みる印象を残している。
彼が扮したのは、瀬ノ門(せのもん)工業高校の須嵜(すざき)亮。同校の頭、天下井(あまがい)公平は手段を選ばずのし上がろうとする悪どい奴。須嵜は、天下井の右腕だが、「人望の薄い天下井になぜお前ほどの男が」と揶揄されてもいる。
中本悠太は、瀬ノ門のエンジの学ランがよく似合うだけでなく、やはり同系色のMA-1風ジャンパーを羽織ったときの妖気がただごとではなく、思わず【赤の天使】と呼びたくなる。
喧嘩の強さは、楓士雄と互角。だが、楓士雄が陽だとすると、須嵜は明らかに陰。憂いを秘めた瞳の艶気が、前髪から足の爪先までひたひたと濡らしており、好対照。
こうした映画を活気づかせるのは、両雄並び立つ人物構造。川村壱馬と中本悠太は、互いを引き立て合う、文字どおりの好敵手として屹立している。
たとえば、バンドでも、圧倒的なカリスマ性で輝くボーカルに夢中になるファンがいる一方、少し斜に構えた態度で淡々とリフを刻むギタリストに魅了されるオーディエンスがいる。
ここでの中本悠太は、二番手の魅惑を存分に体現している。そして、長身でありながら、どこか儚い。強さの傍らに、どうにもならない弱さがある。そのことを、スクリーンに初登場した瞬間から垣間見せる。
威風堂々とした川村壱馬の前では、やや芝居が拙い面もある。が、むしろそのことがよきスパイスとなって、私たちは俳優・中本悠太の誕生を見届けることになる。
単純明快な男子喧嘩映画の中において、須嵜亮=中本悠太が醸し出すものはヴィヴィッドだ。
なぜなら、あらゆる者たちが強さを誇示する世界にあって、勝ち負けとは異なる地平で、己のアイデンティティが漏れ出ているから。その人は、その人でしかない。その人以上でも、その人以下でもない。
私たちは、あるとき、ナンバー2の存在に惹かれる。もし、そこになんらかの価値があるからなのだとすれば、中本悠太は、この普遍性を静かに、確かに体現していると想う。
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『HiGH&LOW THE WORST X(クロス)』(PG12)
2022年9月9日(金)全国ロードショー
企画・プロデュース:EXILE HIRO
原案・キャラクター設定:髙橋ヒロシ
総監督:二宮“NINO”大輔
監督:平沼紀久
出演:川村壱馬、吉野北人、三山凌輝(RYOKI)、中本悠太(NCT)ほか
配給:松竹
(c)2022「HiGH&LOW THE WORST X」製作委員会 (c)髙橋ヒロシ(秋田書店) HI-AX関連リンク
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