伊集院光、オードリー、山里亮太は何を話していたのか?【芸人ラジオの初回放送を振り返る①】
ラジオは流れ去っていくもの、という考え方がある。その時間に、そのパーソナリティが、そのブースから放送することに価値があって、終了後はすべてが流れ去り、翌週(翌日)になると新たな放送がおもしろさを上書きしていく。この考え方もラジオの魅力を表している。
今でこそradikoが生まれ、タイムフリー機能もエリアフリー機能もあるが、それでもラジオはテレビのように再放送されることなく、ソフト化もされず、アーカイブの配信もまだまだ少ない。リスナーの記憶には思い出として蓄積されるにしても、上書きされる新しい放送を追っていくのに夢中で、過去の放送を何度も聴き直しているのは、一部の“ラジオ変態”ぐらいである。
しかし、「点」の連続ではなく、「線」としてラジオ番組を改めて振り返ると、そこには興味深い発見がある。春は新番組が始まる季節。そんなタイミングで、特に芸人ラジオの初回放送を紐解いてみたい。番組サイドやヘビーリスナーからすると、過去を掘り返すのは無粋に思われるかもしれないが、そこはラジオ変態の“自分磨き”だとして目をつぶっていただきたい。
前編では、『伊集院光 深夜の馬鹿力』(TBSラジオ)、『オードリーのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)、『山里亮太の不毛な議論』(TBSラジオ)という現在もつづく人気の長寿番組を取り上げる。
『伊集院光 深夜の馬鹿力』回収されていった26年前の“伏線”
『伊集院光 深夜の馬鹿力』の歴史はラップからスタートした──。そう聞くと、知らない方は驚くかもしれない。TBSラジオの深夜帯番組『UP’S』の月曜日枠としてこの番組が始まったのは1995年10月のこと。ニッポン放送の『伊集院光のOh!デカナイト』終了から半年が経っていた。半年間も伊集院が地上波のラジオから姿を消していたのは、今や想像し難い。
初回の冒頭、「It’s one o’clock show. Ultra performer’s radio UP’S Monday」というジングルが終わると、いきなり伊集院と親交のある下町兄弟のラップが流れた。古くからのリスナーなら知っているであろう「やっと戻ってきてくれたこの男~ちょっとデブだが夜のラジオ最高~」から始まる“あれ”である。ラップでは「ヘルニア」や「結婚」など当時の伊集院に関する話題にも触れていて、最後に「おめでとう」で終わると、伊集院が「ありがとう」と答えて、今につづく『深夜の馬鹿力』は産声を上げた。この春から裏番組として『Creepy Nutsのオールナイトニッポン』が始まるのは、運命的といえなくもない。ニッポン放送時代の伊集院が荒川ラップブラザーズとして生み出した深夜ラジオにおけるラップの萌芽が、長い時間をかけてついに花開き、Creepy Nutsにつながった……なんて書くのはさすがに暴論だろうけれども。
この初回で、伊集院は「ニッポン放送との決別を宣言してください」というリスナーからのハガキに対して、冗談交じりに「ニッポン放送はゲストでしか出ない」「二度とって言わないほうがいいよね。もう五度しか出ない」などと答えている。現時点でこれ以降に伊集院がニッポン放送に出演したのは合計「6回」(あくまで独自調べ、番組数でカウント)。あながちこの答えは間違っておらず、まるで将来を予見していたかのようだ。未来からの視点で過去を検証すると、こんな“伏線”がたくさん見つかる。まあ、これは完全に勝手なあとづけだが。
なんせ26年半も前のことだから、伊集院本人の変化を感じずにはいられない。冒頭では「犬が嫌い」と語っていたが、その後、伊集院が長年愛犬を飼っていたのは有名な話だ。翌週のゲストとして小泉今日子がアナウンスされているが、現在の『深夜の馬鹿力』には基本的にゲストは出演していない。ここも大きな変化のひとつだ。
『UP’S』立ち上げ当初、横並び企画として人生相談がスタートしたが、初回はまだハガキが届いておらず、勝手に他番組のハガキを拝借していた。その番組のひとつが『全国こども電話相談室』。このときはもちろんまじめに返答しなかったが、のちに『伊集院光とらじおと』内で放送され、伊集院自身も相談に答える先生になるとは誰も予想していなかっただろう。これまた未来で回収された伏線である。
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