『正直不動産』3話 高収入新婚夫婦の共同名義に恐ろしい罠が!永瀬(山下智久)は正直さで勝てるのか

2022.4.26
正直不動産3

文=米光一成 イラスト=たけだあや 編集=アライユキコ


NHKドラマ『正直不動産』(火曜よる10時~全10回予定)。原作は『ビッグコミック』(小学館)連載中の同名コミック。ゲーム作家(『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』『変顔マッチ』など)でライターの米光一成がレビューする(ネタバレを含みます)。


不動産業界の闇と正直なコミュニケーション

山下智久主演『正直不動産』4月26日(火曜日)NHK総合午後10時から第4話放送だ。
原作は『ビッグコミック』(小学館)で連載中の人気漫画。ドラマ脚本は、『フルーツ宅配便』(テレビ東京)『監察医朝顔』(フジテレビ)『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』(日本テレビ)と、漫画原作のお仕事ドラマを多数手がけている根本ノンジ。祟りのせいで嘘がつけなくなって正直な不動産営業をするしか手がなくなった主人公・永瀬財地を山下智久が演じるビジネスコメディだ。

第1話では数年前に社会問題になったサブリース契約、第2話では媒介契約についてピックアップした。CMがないからこそできるのか!と思えるような不動産業界暴露エピソードが強烈なドラマだが、契約が優先されるなかで正直さでどこまで渡り合えるか、というコミュニケーションについてのドラマにもなっている。
第3話、永瀬は正直風に吹かれて、新婚夫婦に「おふたりは離婚の可能性を視野に入れてますか?」と聞き、さらには「おふたりどう見ても格差婚ですね」とまで言って激怒させてしまい、契約獲得のチャンスを失いそうになっている。これをどう挽回するのか?

ペアローンの罠

そもそもは、3年前。まだ正直の祟りに見舞われてない永瀬が、夫婦(小林涼子・松角洋平)にペアローンで高額マンション購入を勧めたのが事の発端だ。
ペアローンは、ふたりがそれぞれローン契約を結び、互いを連帯保証人にする方式。

「『結婚は悲しみを半分に。喜びを2倍にする』。イギリスの有名なことわざです。このペアローンはまさにこれです。ご負担を半分で、喜びを2倍に!」

カップルはニコニコで永瀬の口車に乗ってしまう。
一方、永瀬は、心の中で「事務手数料と印紙代も2倍だけど」「ペアローンの本当のおすすめポイントは、借入可能額が大きくなり、気が大きくなって、高い物件に手を出してしまうこと」と考えており、しかも最大のデメリット「離婚」の可能性も予見している。

永瀬の予見どおり、3年後に離婚することになったふたりがやってくる。奥さんはマンションを売り払いたい、旦那さんは売りたくないで揉めている。共有名義にしたデメリットが出てしまった。
で、結局、売ることになった物件にぴったりだと考えて勧めた新婚夫婦に、離婚の可能性を正直に語って激怒させて大ピンチという展開だ。

パンケーキ屋の店舗を借りる罠

一方で、後輩の月下咲良(福原遥)は店舗物件を任される。永瀬のライバル桐山(市原隼人)が「勉強させてやる」と、別の店舗物件の内見に連れて行く。

内見に来た男は、ハットに水玉のシャツにループタイという姿で、「窯焼きのパンケーキ屋をやろうと思ってんだけど」と語る。お笑いコンビ「しずる」の村上純が、絶対に失敗しそうな「仮想通貨でひと儲けして調子に乗った男」を「いかにもー」な感じで名演。
この男をのせるために、桐山は、わざと次の内見をダブルブッキングしたり、仕入れ業者にいいことを言わせたり。しかも桐山は、パンケーキ屋はきっと失敗するだろうと睨んでいて、「つぶれたらすぐ次の借主を見つけますよ、これをつづければ仲介手数料を延々稼げますから」などと言っているのだ。

月下は、駄菓子屋をやろうとしている夫婦(大河内浩・宮田早苗)のために、賃料の値下げを不動産女王、通称マダム(大地真央)に申し出る。「顔を見ればわかるの、私に利益をもたらすかどうか。貧乏そうな顔、あなたじゃ無理ね」とにべもないマダムに、正直風パワーで永瀬が「ビジネス感覚がお鈍りになってるとしか思えません」と説教してしまう。
正直さも度が過ぎれば相手を怒らせてしまう。

共同名義のリスクを実感させるために

話を聞いてくれなくなった新婚夫婦を、物件に案内し、その場で離婚夫婦と対面させる作戦に出る永瀬。離婚という新婚夫婦が考えたくないデメリットを正直に語って(まあ、言い方もあるけど!)怒らせてしまった永瀬だが、それを「実際の経験者」を見せることで自分ごととして伝わるように工夫したのだ。

『正直不動産』は、不動産知識が身につくドラマであると同時に、コミュニケーションのドラマでもある。正直の風で、あまりにもストレートに本音を言い過ぎて相手を怒らせてしまう「コミュニケーション失敗」の状態から、永瀬がどう抜け出すか。それは、時間を置くことであったり、誠実に伝えることであったり、実例を見せることだったりする。

カスタマーファーストを貫けるのか

月下がカスタマーファーストにこだわる理由が語られた。不動産屋の口車に乗って無謀なローンを組んでいた両親が家を手放し、一家離散した過去から不動産屋を恨んでいたこと、だからこそ住む人を最優先に考える不動産営業をやろうと考えたこと。

月下は、マダムの説得に成功して、老夫婦がオープンした駄菓子屋を応援する。
実は、ペアローンの話と、月下の店舗物件の話は、原作漫画では別々のエピソードだ。ペアローンは原作5巻6巻の「共同名義」、月下の店舗営業は原作1巻の「店舗契約」がベースだ。

『正直不動産』<5巻>大谷アキラ/夏原武 原案/水野光博 脚本/小学館
『正直不動産』<5巻>大谷アキラ/夏原武 原案/水野光博 脚本/小学館

このふたつのエピソードを、ドラマでは、夫婦というテーマでシンクロさせながら同時進行させた。原作マンガの「店舗契約」では会話の中にしか登場しなかった借主候補の高田さん夫婦を登場させ、「夫は警察官でいつも妻に心配をかけていたから退職金で妻の夢である駄菓子屋を始めようと考えた」というドラマを加え、ペアローンの夫婦のエピソードや月下の家族のエピソードにも響くようにした。

『正直不動産』<6巻>大谷アキラ/夏原武 原案/水野光博 脚本/小学館
『正直不動産』<6巻>大谷アキラ/夏原武 原案/水野光博 脚本/小学館

今回、月下はカスタマーファーストを貫いた。賃料を下げることで老夫婦の夢を叶えただけではなく、商店街の近くにマンションを持っている貸主のマダムにも「街の活性化が利益につながる」という視点を手渡して、双方が納得し、幸せになる道を見つけた。

前回第2話で描かれたトレードオフのジレンマ(賃料の値上げを阻止しようとすると貸主の利益を損なうケース)に対する回答を示されたような気がした。
第4話は、事故物件に住みたがる謎のおばあさん(風吹ジュン)が登場。原作マンガ13巻の「事故物件サイト」がベースのエピソードだろう。さらに、今までチラチラ登場していたライバル会社・ミネルヴァ不動産の花澤(倉科カナ)が宣戦布告、いよいよ直接対決に突入する。


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